見出し画像

【シロクマ文芸部】マフラーの彼女

マフラーに顔の下半分がうもれた寒がりの女の子。
毎朝このバス停でみかける彼女は山田の初恋の女の子らしい。それなのに山田ときたら、ちらっと横目で眺めるだけで声もかけないのだ。
「同級生なんだろ? おはようくらい言えばいいのに」
「いや、いーんだ。見てるだけで」
俺のことなんて覚えてないだろうからって山田は言う。

山田の初恋の彼女は筋金入りの寒がり屋さん。
分厚いマフラーを目の下までぐるぐる巻きにしてるもんだから、俺はいまだに彼女の顔の上半分しか見たことがない。

(いったいどんな子なんだろう。可愛いのかなあ・・・・)

だけどチャンスはいきなり訪れる。
ある朝、コートのポケットに手をつっこんでいた彼女が流れるような仕草でスマホを取り出し耳にあてた。そして口元を覆っていたマフラーに指をかけ、ぐいっとーーー

「見ろ山田! ついにあの子の顔が見られるぞ!」

ところが山田は期待でイッパイの俺を無視してななめ反対方向に視線を向けた。そしてそのまま、なにくわぬ顔をして彼女の前を通り過ぎてしまう。
「なんでどーして? あの子の顔見たくないの?」
「見たくないってゆーか、見なくていいの」
「だからそれはナゼ!?」
「そのほうがいーからだよ」
「???」

あれから少したって、俺はちょっとだけ大人のたしなみを身につけた。
世の中には曖昧なままそっとしておいたほうがいいこともあるらしい。

マフラーのあの子は、山田の思い出のフック。


先日、ハスつかさんの企画に参加させて頂きました(^^)
今年は毎週ショートショートnoteの『夜行おみくじ』で参加。
マガジン登録ありがとうございます。

こちら、年末らしいとっても素敵な企画なんですヨ。
参加するだけで楽しくてですね~~。
noteって面白い空間だよなあと改めて思います。ハスつかさん、ありがとうございました(^^)/

いいなと思ったら応援しよう!