【ショート】最後のマスカラ #毎週ショートショートnote
「なんじゃこりゃ」
本日最後の清掃場所であるK公園西端の東屋のベンチの上に、細くて小さな筒状の容器がころりと転がっている。
表面にはなにやら文字が並んでいるようだがーーー
「くっ、見えん」
老眼鏡は事務所のロッカーの中。裸眼のワシには解読不能である。
ゴミか。それとも落とし物か。
判断に迷っていたワシの前に、突如、可愛らしい女子高生がひょいと顔を出した。
「あっ、それ私のマスカラ!」
「なあんだ化粧品か。おいさんには無縁のモンだからわかんなかったよ」
アハハと笑うワシを少女がじっとみつめる。
「おじさん、これは女子だけのモノじゃないよ?」
鏡の中にはキリッと涼しげな目元の男前が一人。
『興味があるなら弟子にしてあげる』
ワシにアイメイクを施しチラシを握らせると、少女は颯爽と東屋を立ち去っていった。
駅前商店街『美ューティうめもと』
未知のトキメキに胸が躍る。
思わず知らず、ワシは小さく呟いていた。
「ーーーしっ、師匠ッ・・・」と。
(405文字)
今週の裏のお題
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