街とマンションvol.1 代官山
街を歩きながらその街の雰囲気とそこに存在する代表的なマンションを観察するということをちょっとした楽しみ事としている。せっかくなので自分が見たものを共有し、その街に住んでみたい、マンション購入を検討してみたいという方に対して少しでも参考になると幸いである。
第1回は代官山について散歩形式で書いてみようと思う。
1.概要
■立地
最寄駅:東急東横線 代官山駅
東急東横線で渋谷から1駅、渋谷の大規模なオフィスや商業機能による喧騒とは変わり、周辺は低層住宅、小振りな商業施設、豊かなみどりが広がる。都心とは思えないゆったりとした空気感とお洒落な雰囲気で、依然として都内でも最も人気の高い街の一つとなっている。
■街の成り立ち
代官山の一帯については、明治時代の早い段階から西郷従道や根津嘉一郎、山本達雄といった当時の政財界の要人の邸宅が存在しており、古くからお屋敷街としての顔を持っていた。
1935年発行の「東京市渋谷区地籍図」「火災保険特殊地図」の引用を見ると旧山手通りや八幡通りといった主要道路が存在、現在の街区の原型のようなものが形成されていることが分かる。
土地は少数の地主によって保有されていたようであるが、地図の中でも特に目立つのが山本笑氏の所有していた現在鶯谷町一帯の土地。現在はラトゥール代官山、センチュリーフォレストとなっている。
■街の特徴
現在は代官山駅前にある代官山アドレス、旧山手通り沿いの代官山T-SITEを中心としながらも、周辺には小規模な小売店や飲食店、低層マンション、区画の大きい戸建住宅地が広がり長らく東京のトレンドを牽引してきた街と言っても差し支えないだろう。
僕自身も学生時代は代官山周辺のお店で洋服を買って、お洒落なカフェでお茶したり等、熱心に通っていた記憶がある。
渋谷や新宿に行けば何でも揃うはずなんだけど、代官山にしかないモノ、情報を求めに、わざわざ訪れたい街であった。
■現在の街としての求心力
一方で気になるのは、一部から囁かれているように現在の代官山は最盛期と思われる1990年代~2000年代のような賑わいは薄れてきているのではないかという論調。
実際に代官山駅前の商業用の区画にはやや空きが目立ち、代官山アドレスに入居するテナントもどこか人の出入りが少ない。
これには情報感度の高い20代~30代の嗜好性の変化が大きく影響しているのかなと思うところがある。
1990年代~2000年代だと、情報感度の高い層はどちらかというとクローズドな環境の中で個別性の高いモノやサービスを享受する価値観。
まさに従来的な代官山のような喧騒から隔絶された空気感や、小規模で隠れ家的に営業している感度の高い小売店や飲食店が点在している街で成り立ちそうな価値観。ゆえに代官山が憧れの街として広く世間から認知されていたというところだろう。
一方で2010年代あたりから情報感度の高い層はSNSを介して自ら得たモノやサービスを発信し共有することを楽しみ事とするようになった。
モノにしてもサービスにしても一目で分かるインパクトや、より多くの人に認知され共感される汎用性に価値が置かれる傾向があるように思える。
こうした価値観の変化に対し、対応していくのか、それともこれまでの代官山が続いていくのか。
■これからの代官山
上記のように今の時代性というか情報感度の高い層の価値観は代官山にとっては劣勢となる環境を作ってしまっている側面があるものの、今年秋代官山駅前に久々の大規模開発が竣工することで、かつての勢いや立ち位置を復活させることができるか注目している。
フォレストゲート代官山
2023年10月19日に開業する商業・オフィス・住宅の複合施設。
隈研吾設計の代官山らしいデザインの外観は建設途中から存在感があり、注目度の高いプロジェクトであった。
文化と感性の備わった都市代官山に象徴としての「森=Forest」。代官山駅前立地として街の「入口=Gate」であると同時に環境と共生しながらも先端的な都市生活の入口「入口=Gate」でありたいとのコンセプト。
代官山らしいというか、若干的思想的な面が強いきらいはあるが、より開かれた、街の中心となる場を志向している印象を受ける。
商業はブルーボトルコーヒー、ザ・ガーデン自由が丘、ジョーマローン等、お馴染みのラインナップであるが、グリーンを取り入れたライフスタイルを提案するSOLSO HOMEや「食」×「ミュージック」×「アート」を感じるカフェ&レストランのMIDTREE等、独自の個性を持つお店もあり、開業が楽しみ。
また、シェアオフィスやイベントスペースを設置した木造棟もあり、ややオフィスイメージの薄い代官山にどのような変化をもたらすのか、こちらも気になる。
2.エリア内各所を散策
ここまでは代官山エリアの概要について書いてきたが、ここからは代官山内を幾つかに分けてそれぞれの特徴をお散歩形式で書いていこうと思う。
■代官山町、猿楽町
八幡通り沿い中心に感度の高いお店が軒を連ね、住宅は中・低層のマンション、戸建てが中心となる。基本的には八幡通り以外は閑静な住宅地といった風景だ。
まず八幡通りから
代官山というと誰もが思い浮かべるであろうアイコン的な存在、代官山アドレスが中心に存在する。
90年代に某テレビドラマの舞台としても利用されており、まさに東京都心の高級住宅地として広く認知されているのではないだろうか。
特にタワー棟は周辺に大規模タワーマンションが存在しないということもあり、その存在感が際立っている。
元々は同潤会のアパートが建っていた場所であったが、老朽化により解体され、再開発プロジェクトとして代官山アドレスが建ち上がる形となる。同潤会アパート自体も関東大震災の教訓により耐震性、耐火性に重きを起き、当時としては先進的であった鉄筋コンクリート構造を採用した設計となっており、時代の先端を行く住宅として選ばれる立地であった。
同潤会アパートの思想を受け継いだプロジェクトとして、代官山アドレスも耐震性、耐火性を重視しており、地下2階レベルを人工地盤とし、高層住宅棟は粘性体制振壁を採用したり等、力の入れようが伺える。
【参考資料】日本設計HP:代官山アドレス
https://www.nihonsekkei.co.jp/projects/6228/
八幡通り沿い、代官山アドレスの反対側には近年プラウド代官山町フロント等の存在感ある高級レジデンスが竣工。こちらも代官山駅前周辺では規模感の大きいレジデンスで美しい外観デザインも相まって存在感がより際立つ。
エントランスのキャノピーやゆるやかなコーナーサッシが美しく、野村不動産らしいデザインへの拘りが感じられる。
プラウド代官山フロント
・東急東横線「代官山」駅徒歩4分
・総戸数74戸
・地上4階
・2021年築
八幡通り周辺には相応の築年を経過した築古マンションも数多く存在するが、管理が行き届いており外観は綺麗に維持されている。築古リノベを検討している方にとっても魅力的なエリアではないかと思う。
八幡通りを越えて猿楽町方面へ歩いていく。
このあたりは代官山らしい感度の高いファッション、小売、飲食店が軒を連ね休日を中心に一定の賑わいを見せている。僕自身も学生時代このあたりのお店には熱心に通っていたこともあり、どこか思い入れのある場所。
フレンチカジュアルの代表格であるAPC、シンプルなアメカジテイストで根強い人気があるスタンダードオブカリフォルニアにはよく通っていた。
ボンベイバザーも散策の一休みでよく利用し、ブルーベリーの大判焼きを食べたりしていたこと等思い出す。
色々と思い出しながら代官山T-SITEへ近づくと次第に閑静な住宅地へと雰囲気が変わっていく。
猿楽町の住宅地は低層中心で、エリア内には起伏の無い高台立地を活かした低層高級マンションが点在。
プラウド代官山猿楽町
・東急東横線「代官山」駅徒歩5分
・総戸数15戸
・地上4階
・2018年築
低層レジデンスを得意とする野村不動産の代表的な物件の一つ。
写真の通り、白基調にガラスを多用したファサードが美しい。
総戸数15戸と、マンションながらプライベート感を損なわない余裕ある設計。
規模感は小さいものの、現地で見ると外観の美しさにより存在感が際立っている。
パークマンション代官山
・東急東横線「代官山」駅徒歩4分
・総戸数10戸
・地上4階
・2008年築
三井不動産の最高級マンションブランドのパークマンション。都心部のマンションも多く手掛けている三井不動産だがパークマンションブランドを付けたレジデンスは年1棟あるかないかのレベルのため、この立地が最高級レジデンスを建てるのに相応しい立地であることを示している。
先ほどのプラウド代官山猿楽町と隣接する立地。こちらは白基調の石張りとガラスを組み合わせた外観であり、プラウドよりも重厚感を感じる。総戸数も10戸であり、プライベート感ある低層レジデンス。
パークマンション代官山の隣接地には現在NTT都市開発が低層マンションを建設している。現状一般公開された情報は特になく、戸数も小規模であることが予測されるため、恐らくアンダーでの販売となるのではないだろうか。
プラウド代官山猿楽町を横目に見ながら代官山T-SITEの敷地内へ入る。
代官山T-SITEは低層商業施設にみどり豊かな景観、蔦屋書店を施設のアイコンとし、感度の高い飲食店等が入る。
書店はファッション、カルチャー、旅行、料理等を中心としたラインナップであり、僕もちょっとした情報源として活用している。
代官山で今一番賑わっているスポットといっても差し支えないだろう。
駐車場にはテスラのスーパーチャージャーが4機設置されており、時々なんか見たことあるような著名人がいたりする。
T-SITEを抜けて旧山手通りに出てみる。
旧山手通りも代官山エリアのメインストリートの一つ。八幡通りが小規模な商業ビル中心であるのに対し、旧山手通りは先述した代官山T-SITEや代官山ヒルサイドテラス、大使館、西郷山公園等があり、より解放的な雰囲気が感じられる。
旧山手通りといえば代官山ヒルサイドテラス。
代官山ヒルサイドテラス
1967年〜1992年にかけて段階的に開発されてきた商業施設。この土地を所有していた朝倉家の土地活用として性急な開発は望まず長期的な街の変遷に合わせた開発を志向したプロジェクトであった。
【参考資料】代官山ヒルサイドテラスHP
https://hillsideterrace.com/about/story/
近頃はCONRAN SHOPもオープン。ハイセンスなインテリア、雑貨は相変わらずだが、より和のテイストが感じられる。
旧山手通りはそのほかにも大使館やお洒落な飲食店、ファッションブランド店が点在する。
代官山と言えばASO。代官山といえばということでイメージする人も多いのではないだろうか。通りがかった時点では改装期間の模様。9/16(土)にリニューアルオープン。
旧山手通りを西郷山公園方向に進み青葉台エリアに入っていく(青葉台は目黒区)。
■青葉台
代官山エリアは高台が中心となるが、青葉台は目黒川に向かって南向き傾斜する高低差の大きい場所になっている。
まずは山手通りを西郷山公園へ向かってあるく。
Saturdays NYC
Saturdaysはニューヨーク的なシンプルカジュアルな洋服とサーフグッズを扱うショップ。
店内にはコーヒースタンドも併設されており、ちょっと一休みできる。
テラス席からは青葉台の高台ならではの抜群の眺望が拝める。テラス気持ちいいので紹介しておいた。
旧山手通りを道なりに歩いていくと西郷山公園が見えてくる。
西郷山公園
西郷隆盛の弟、明治維新の三傑の一人、西郷従道の屋敷跡に整備されたちなんだものとなっているが、青葉台の高低差を活かした滝石組などが見られ風光明媚な風景。
目黒川方向に坂を下ると同じく西郷従道の屋敷跡を整備した菅刈公園が広がる(こちらは中目黒エリア)。
山手通り沿い、西郷山公園横の敷地に積水ハウスのマンションが建設されている。恐らく分譲マンションと思われるが、一般には詳しい情報は公開されていない。
青葉台のマンションについても幾つか書いてみる
ディアナガーデン代官山
・東急東横線「代官山」駅徒歩8分
・東急東横線、東京メトロ日比谷線「中目黒」駅徒歩9分
・総戸数38戸
・地上6階、地下3階
・2005年築
旧山手通りからの長いエントランスアプローチで外部からうまく隔絶されたロケーション。南傾斜の高台最前列に位置しており、住戸からの眺望がすごそうである。青葉台周辺としては規模感が大きいにも関わらず1戸当たりの専有面積が広く総戸数38戸という贅沢な敷地配置、プランニングでプライベート感もありそう。
ザ・パークハウス目黒青葉台
・東急東横線「代官山」駅徒歩4分
・総戸数13戸
・地上3階
・2021年築
青葉台高台の築浅低層レジデンス。三菱地所らしいアースカラーのタイル張りで落ち着いたデザイン。総戸数13戸と、プライベート感ある他、全住戸が南西向きに配置してあるあたりも三菱地所のプランニングの秀逸さによるもの。
マンションだけでなく、周辺は区画の大きい邸宅街となっており、個性的な建物外観を見るだけでも楽しい。
旧山手通りを渡り、渋谷区側に戻り、鶯谷町・針山町・南平台あたりを散策する。
■鶯谷町・針山町・南平台
代官山エリア内でも渋谷に近い立地となる。
場所によっては渋谷駅から徒歩10分圏内となり、閑静な住宅地ながら渋谷の利便性を享受することができる。
周辺は低層マンション、区画の大きい戸建てが中心となり、起伏に富み、みどりが多い景観が魅力的。
高級賃貸の代表格であるラトゥール代官山、ウエストミンスター南平台、グランツオーベル南平台等、規模感があり威圧感のあるマンションが点在する。
ラトゥール代官山
・東急東横線「代官山」駅徒歩9分
JR「山手線他」渋谷駅徒歩11分
・総戸数139戸
・地上7階、地下1階
・2010年築
住友不動産の手掛ける高級賃貸マンションブランドのラトゥール。その中でも基幹物件の一つとして非常に有名であり、特に芸能関係者の居住者が多いと言われる。代官山エリアはマンション、戸建てに関わらず瀟洒な住宅が多い中、ラトゥール代官山は別格レベルの存在感を誇る。エントランスアプローチが巨大で車歩分離しっかりと余裕ある形でなされており、高級マンションたる風格がある。
建物は住友らしいダークグレー基調の外観、そして植栽が豊かであり全体観がとにかく美しい。
そしてこのラトゥール代官山に隣接するもう一つの大規模マンションがセンチュリーフォレスト。
センチュリーフォレスト
・東急東横線「代官山」駅徒歩9分
JR「山手線他」渋谷駅徒歩8分
・総戸数244戸
・地上6階、地下1階
・2011年築
ラトゥール代官山が賃貸マンションであるのに対し、センチュリーフォレストは分譲タイプのマンション。鹿島建設分譲・施工であり、鹿島らしいシンプルな形状に白基調の外観、ラトゥール代官山とは好対照な機能美を感じられる。
巨大なエントランスアプローチはないが、車道からしっかりセットバックされており、高級マンションらしい。
また高層建築ではないが免震構造や4重のセキュリティを採用していたり等、ハイエンド層が納得する設備を備える。
鶯谷町からより渋谷方向に向かうと南平台アドレスに入る。
このあたりも鶯谷町と同じように低層住宅が中心で起伏富んだ景観が広がる。
ザ・ウエストミンスター南平台
・東急東横線「代官山」駅徒歩11分
JR「山手線他」渋谷駅徒歩8分
・総戸数52戸
・地上4階、地下1階
・2004年築
英国のエリック・パター・スタジオが手掛けた高級低層マンション。施工は鹿島建設であり、白基調の外観に豊かな植栽という雰囲気はどこかセンチュリーフォレストと似ているようにも見える。2015年に英国グロブナー社によるリノベーションが入っており、より洗練された雰囲気が保たれている。
グランツオーベル南平台
・東急東横線「代官山」駅徒歩11分
JR「山手線他」渋谷駅徒歩8分・総戸数43戸
・地上4階
・2008年築
ザ・ウエストミンスター南平台の向かい合わせにある高級低層マンション。
外壁には御影石を採用しており、ザ・ウエストミンスター南平台と比較するとより重厚感を感じる外観。
そしてウエストミンスター南平台の隣接地に現在建設中なのがプレミスト南平台。先日HPリリースとなり、デザイン性の高い外観が注目されているが、当初アンダーで販売するも捌けず一般公開されたとの話もあり今後の販売動向も気になる案件。
ザ・パークハウス南平台
・JR「山手線他」渋谷駅徒歩8分
・総戸数100戸
・地上10階
・2019年築
南平台周辺では数少ない築浅のマンション。三菱地所らしくアースカラーの石材を基調としながらも、バルコニー手摺のガラス素材により効果的にデザインにメリハリが付けられている。
このあたりはどちらかというと渋谷駅が最寄りとなってくるが、その玄関口桜丘に2023年11月のオープンに向けて準備が着々と進んでいるのが渋谷サクラステージ。
現地の建物を見るとその規模感には圧倒される。サクラステージのオープン伴い、桜丘から代官山方面にかけての人の流れが変わってきそうで、今後より注目したい。
今回改めて代官山周辺を広く散策してみたが、時代の変遷と共に色々と言われるものの、街の魅力は健在。代官山独特の優雅な空気感は維持しつつ、再開発等による回遊性の向上等、今後の進化に期待したい。
次回は中目黒について書いてみる予定。