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厄落としへ
事故を目の前で目撃した夫は警察からドライブレコーダーの映像提供を求められた。
その後、夫の乗る営業車両の2台後ろのお年寄りの乗る車がブレーキとアクセルを踏み間違え追突。その1台前のポルシャは夫の乗る営業車のハイエースの下に入り込む形で、立派なその車体は無残な姿になったらしい。
夫は車はひどいことになったが幸い怪我もなく済んだ。
「2度あることは3度っていうから、次は自分に降りかかるかもしれないから気を付けないと」と、今思えばそんなこと結構他人事に話していた気がする。
先週の残業中。
私の買ったばかりのスマートウォッチが夫からの電話を告げている。
普段、電話なんてしてこないのに、なんだ?と私は廊下にでた。
「いや、どうしたらいいかと思って」
「なになに、なにがあったの」
「さっき変な音がしたんだよ。事故か取り締まりか、警察が結構いて、道も混んでて、それをよけながら進んでて、絶対にぶつかるはずがないんだけど。でも一応車を止められそうな所で止めて見てみたけど、何も傷とかも何もないから気のせいか、って会社に帰ってきて、でもやっぱり気になってよく見てみたら1cmくらいの小さい傷あって。これって俺、もしかして「当て逃げ」しちゃったのかもしれない。」
悲痛、というか取り乱している、という切羽詰まった様子だったため「とりあえず110番してみるといいよ」と、私こそとりあえず、落ち着いて、普段通りに言葉にして伝えた。
後で聞いた話、たぶんそうして背中を押してもらいたかったんだ、、警察に電話をするのがこわかった、と言っていた。
そりゃ、そうだ。
夫は現場にもどり警察を待った。
居てもたってもいられず、取り止めもない会話をつづけ、「大丈夫大丈夫」と言い続けた。
夫は何年も車の仕事をしているが事故は起こしたことが無い。それに私が言うのもなんだか車の運転はうまいほうだと思う。
そんな夫がぶつかるはずがない。
音がしたというのは何かの間違いであると、信じた。
「あ、あれだ、たぶんあっちの車線にパトカーきたから、じゃ。」
そう言って電話を切った。
警察がきて事情を話すだけのことなら何分もないだろう、でももし大事件になっていて恐ろしいようなことになっていたら、想像もつかない。とりあえず大丈夫、みたいな、そんな言葉だけでも早く聞きたかった。
10分ほどして電話をかけてみた。
電話は、呼び出し音を鳴らすことなく切れた。
何か、電波のせい?ともう一度かけた。でも電話は呼び出し音を鳴らすことなくまた、切れた。
私はムキになって何度も何度も、ストーカー並みにかけまくった。
でも、電話はいっこうに呼び出し音を響かせることは無い。
「あーもう警察に電話を取り上げられて、それでもう、家族とは連絡がとれなくなっているのかもしれない」
絶望になり、吐き気がしてきた。
家に帰る途中の道端で、私はそんな思いにさいなまれながらも何度も何度も電話を鳴らし続けた。
そして30回目くらいに、やっと。
プルルルルル、ガチャ。
「ごめん、ごめん、ごめんね」と夫の声が。
その瞬間に我慢していた涙が噴き出した。
「大丈夫だから、会社に電話したりしてたから、ごめんごめんごめん
」と夫は何度もあやまっていた。
「もう、いい。電話でたから、よかった。」
結局、物損処理だけで済んだその事故は、なんと夫の車がパトカーの横を通った時、おまわりさんが前後確認せずドアを開け夫の車にぶつけたというものだったらし。
おまわりさんが夫の前に到着した時、「いやーごめんごめん、ドアあけちゃったんだよ」と第一声で夫に謝ったという。「もどってきてくれてありがとう」と。
結果はこうしてなんでもなく、どちらかというと警察が前後を見ずにドアを開けたことが原因だったわけであるが、「そうか」と、ここで思い出したことがある。
「なんかやっぱ事故づいているんだよ」
「そうだ、そうだった」と夫。
「なんかこれ、周期的にきてない」
「うん、ちょっとまって、、、、、あ!最初の事故を目撃した時から次の衝突まで38日、それから今日までが38日だ」
夫は今年前厄だった。
来年は還暦を迎える。
私自身も仕事でかなりのダメージを今年は受けている。娘の来春の国家試験を考えると、この不運がこれ以上降りかかるようなことになってはいけない。
と思い立ち、
お盆参り、家内安全、厄払いの参拝に行った。
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日枝神社の静かな朝。
お盆とはいえ、開門直後は人がほとんどいない。
お参りをして、お守りとお札をいただいて、御朱印を書いてもらって。
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早く家を出たので帰りにもうひとつはしご。
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靖国神社で人いなって、すごい!
早起きは三文の徳とはよくいったものだ。
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来年銀婚式の私。
二人ででかけることなんてめっきりなくなって。
お互いやりたいことをやっているせいもあって。
娘は来年この家を出ていくわけで。
たぶんうまくいけばまだ30年は一緒にいるだろう。
手をつなぎ歩く老夫婦になれるだろうか。
参拝の帰り。
都内の神社を全部巡りたい!
スタンプラリー(御朱印)したい(´▽`*)と言ってみた。
夫はいいねー、と。
そうか、この流れ。
恐ろしい思いをたくさんしたけれど、でもそれは、とにかく仲良くやりなさいって亡くなったお義父様、私の父、ご先祖様からの伝言のようなものだったのかも、
しれない。
私はあしたから仕事。夫は夏休み。娘は、よくわからない。
ちょうどいいことがちょうどよくて、
ちょうどいいがわからなくても、長く一緒にいればそれなりの間がわかって、気を遣わない。
私が心地よければ、きっと相手もそうで、
思いやるとは、ただ時間を共有するということで、一緒に何かをすればよいというものでもないが、なんて。
夫の事故、私の事故(インシデント)きっかけで、
なんだかみつめなおす時間に出会えた。
人生は要所要所で、かならず何かを教えてくれるものだ。