さよなら、「いい子」の魔法
さて、娘たちに本のお話をするとして、最初はなにがいいかしらと一晩考えました。
荻原規子、梨木香歩、上橋菜穂子、いややっぱり小野不由美……。
魔女の宅急便も好きだし、ジブリの映画にもなっているから分かりやすいかしら。
それでいったらハリー・ポッターシリーズは外せないけど、でもこのタイミングではなさそう。(なにせ、長くなりそうだもの)
いろいろ悩んだけれど、やっぱりね、母は一番ショッキングだった本から始めようと思います。
それがこれ。
さよなら、「いい子」の魔法
(ゲイル・カーソン・レヴィン著.三辺律子訳)
ざっとどんなお話か紹介しておきます。
主人公の女の子はエラ。
彼女は生まれたとき、妖精から贈り物として「いい子」になるように魔法をかけられてしまいました。
これが本当に困った贈り物で、どんな人の言うことでも、どんなことでも絶対に言うことを聞かなきゃいけなくなってしまったんです。
絶対に「いい子」でいなくちゃいけない魔法。
想像してみて。
母に怒られてるとき、「こっちに来なさい!」って言われても、
怒ってる母の傍になんか来たくないでしょう?
でもね、エラはどんなに嫌でも、それがどんなときでも言うことをきかなくちゃいけないの。
怒ってる母の傍に来なくちゃいけない。
とっても理不尽で、嫌でしょう。
エラもそう思ってたの。
だから、エラはなんとか魔法をなかったことにするとか、そういうことができないかってずっと考えてるの。
そうして、ある日魔法を解くために家を飛び出しました。
今までやっちゃいけませんって言われてきたことを、思いっきりやってみる。
そうやって冒険に出たエラは、とても生き生きしていて素敵な女の子だったよ。
この本との出会い、衝撃
この本は、小学校の図書館にありました。
母はそのとき十歳です。
読書が好きな友達に、図書館に入った新しい本が面白かったって聞いて、なんとなく手に取ってみたのです。
読んで、びっくりしました。
母は単純なので、それまで「いい子」でいるって言うのはとても良いことだと思っていました。
いつも「いい子」でいたら、きっと皆に褒めてもらえるし気持ちが良いんだろうなあ。
そうして褒められてたら、幸せだろうなと思っていました。
なんとなく、そういうものだと思ってたんです。
でも、この本を読んでから、そう考えるのが難しくなりました。
エラは「いい子」なのに、これっぽっちも幸せそうじゃないからです。
もしかして、「いい子」でいても幸せにはなれないかもしれない。
むしろ、いつも無理矢理「いい子」でいたら大事なものがなくなってしまうのかもしれない。
そんなに無理して「いい子」でいるよりも、もっと大事なことがあるんじゃないかな……。
こうして母は、当たり前のことを疑ってみるってことを覚えました。
この本と出会えていなかったら、きっとこんなふうには考えなかったでしょう。
娘たちも、少し考えてみてください。
自分がしたいこと、したくないこと、そういうのを全部無視して「いい子」でいることって、本当に良いことでしょうか?
そういうことを考えるのに、この本は少し力を貸してくれると思います。
本を読むこと、知ること
母はこの本と出会って、それまでなんとなーく
『まあ適度に「いい子」にしてたら大人からは何も言われないし、どうしてたって幸せになれるでしょ』
と思ってた自分の甘さに気付きました。
別に「いい子」は幸せを保証してくれるものでも何でもないのです。
(さっきから母は何度も乱暴に「幸せ」という言葉を使っています。ごめんなさい。この幸せっていうものが厄介で、千差万別、いろいろあるので何をもって幸せかって言う話は長くなるし面倒なので割愛します。この文章で大事なのは、子供の頃の母は漠然と「いい子」=褒められる=幸せ、みたいな単純な図で考えていたってことです)
じゃあ、自分の思うように自由にやってればそれで良いのでしょうか。
でも我ばかりを貫くと、お友達と喧嘩になったり、家族を傷付けてしまうこともあるでしょう。
そういうのは、母はちょっと嫌だなあと思いました。
どうすれば良いのでしょう。
母が出した答えは、「何事もほどほどにするのが良い」です。
どんなに頑張っても完璧な「いい子」、理想的な「いい子」なんかにはなれませんし、ならなくて良いのです。
そんなことよりも、自分を大切にしようと思いました。
その次くらいに、周りの人も大切にしてあげようと。
そうすれば、この本の最後のエラみたいな女の子に近付けるんじゃないかと母は思ったのです。
本を読むって不思議なもので、出会ったことのない考え方にハッと気づかされたりします。
でもそれが楽しいのです。
娘たちも、そういうビックリするような考え方なんかに出会えたら、母に教えてください。
最後になりました。
この本は2016年に「魔法にかけられたエラ」というタイトルで新装版が出ています。
お友達に教えるならこちらの方が良いでしょう。
旧版で良いなら母の本棚の奥から出してきますから、読む気になったら教えてください。