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ドリンク・ルーティン【エッセイ】

 ルーティンとは、決められた動作を繰り返すこと、日課。

 私にとって、そのルーティンと言えるものは「朝、アイスコーヒーを飲むこと」なのです。
 ただし、毎日ではなく仕事のある日の朝だけ。

 ことの始まりは数年前。出向社員のエンジニアとして、とあるグループに所属していた時でした。
 同じ会社から来ている人も、話せる歳が近い同性もいない。右も左も何もわからない。
 泣きそうな気持ちを胸に会社へと行き、仕事が終わってからは業務になんとか食らいつくために勉強をする日々。
 今思えば、よく耐えられたなと思います。

 そんな状況ではありましたが幸いにもグループのメンバーにとても恵まれていて、仕事の振り出しを行うリーダー意外にも時折私のデスクに来て雑談を交わしてくれる方がいました。

 昔の仕事の話、会社のイベントの話、奥さんの話…。
 決められた休憩時間以外にも、ふとした仕事の息抜きで話しかけてくださったので、そのおかげで少しずつ会社に馴染むことができたなぁと思います。

 ある日、前日遅くまで勉強していたので午前中は睡魔に襲われ続け、休憩時間にホットコーヒーを買い午後の仕事に取り組んだことがありました。
 コーヒーは好きだけれど休日やランチ後に飲むことが多く、仕事中に飲むことはあまりなかったので、デスクにコーヒーがあることはこの日が初めてでした。

 目ざといその方はすぐにそのことに気がついて、私の作業の切れ間を狙って話しかけてきました。

「コーヒー飲んでるの珍しいね。好きなの?」

「コーヒーは好きなんですが、今日は眠気覚ましに…」

「へぇ…リーダーみたいな感じだね」

「そうなんですか?」

「うん。彼ね、眠くなるからって朝にアイスコーヒー、昼にホットコーヒーを必ず飲むようにしてるんだって」

 リーダーは寡黙でいつもキリッと集中していたので、なんだか意外な一面でした。
 気になったので翌日からリーダーのデスクをチラ見してみると、本当に朝にアイスコーヒー、昼にホットコーヒーを飲んでいるじゃないですか。

 何が起こっても冷静で、的確にミスなくコードを書いているリーダーにこっそりと憧れを抱いていたので、私もそのルーティンを少しずつ真似るようになりました。

 正直、手取りの少ない若者にとって毎日200円の出費というのはだいぶ厳しいものがありましたが、コーヒーを飲んでいるうちに少しずつリーダーに近づけている。そんな気分になっていました。

 あれからもう何年経ったんでしょう。
 転職をして、また同じようなエンジニア職について、朝はアイスコーヒーを片手に出社。
 残念ながら私はカフェインに対して強過ぎてしまいホットコーヒーを飲んでも眠たくなってしまうので、残ったのは朝のみ。

 それでも、朝アイスコーヒーを飲むと、コーヒーの独特な苦味とキリッとした冷たさで目が覚めて仕事のスイッチを入れることができる。
 今となっては、仕事をする日に必ずしないと落ち着かないルーティンになりました。

 同じリーダー職になった今、チームメンバーから私も彼のように見えているのでしょうか。

 そんなことを考えながら、今日もアイスコーヒーを買いに行くのでした。

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