夢、愛、儚さ、正義、人生、怒り、孤独、仲間、救い、未来、絶望、希望、自由、悲しみ、逃避、秘密、痛み、生きる
"You take piano, keys begin, keys end. You know there are 88 of them."
(ピアノを演奏する時、鍵盤には始まりがあり、終わりがある。鍵盤の数は88個だとわかっている)- 映画「海の上のピアニスト」(1998年 イタリア)
海を航行する船の上で生を受け、船の上で育ち、ピアノを弾くようになった主人公は、船のタラップから初めて陸地を見つめた時、何かを悟ったように踵を返す。
ピアノは鍵盤の数が88個。誰が数えても同じ。始まりのキーがあり、終わりのキーがある。88個という限られたキーを自在に組み合わせて、無限の音楽を奏でるのが人間だ。今、僕の目の前に広がる陸地、世界は無限だ。途方もない。終わりがない。僕は音楽を奏でられない。
今から2年前の2020年10月13日。欅坂46は最後のライブを開催し、約5年に及んだ活動に自ら終止符を打ちました。結成は2015年8月21日。21人のメンバーが、最初の"key"を奏で、それから5年が経過した2020年10月13日、最後の"key"を奏でて、鍵盤の蓋を閉じるように幕を下ろしました。
■セットリスト -DAY2-
00. OVERTURE
01. 危なっかしい計画
02. 手を繋いで帰ろうか
-VTR : 小池美波-
03. 二人セゾン
04. 太陽は見上げる人を選ばない
-VTR : 原田葵-
05. 制服と太陽
06. 世界には愛しかない
-VTR : 尾関梨香-
07. コンセントレーション
08. Deadline
-VTR : 2期生-
09. 10月のプールに飛び込んだ
10. 砂塵
11. 風に吹かれても
https://youtu.be/Xl-iDUt7U24
12. アンビバレント
13. ガラスを割れ!
-VTR : 守屋茜-
14. 誰がその鐘を鳴らすのか?
-VTR : 菅井友香-
15. サイレントマジョリティー
MC
-VTR : 櫻坂46- ENDING
16. Nobody's fault / 櫻坂46
■もうそこに無いものに郷愁を覚え、愛着を感じる
いつかテレビ番組で、アニメオタクの芸能人が座談会を開いた時(それをアニメに特に関心がないMCが回していく)、「アニメキャラは裏切らない。生身の人間は裏切る」と語っていて、その言葉だけはなぜか痛切に響きました。
それが本当の本心ならば、この人にとって現実の社会は生きづらくて仕方がないだろうと感じたから。
生身の人間と関わって生きていくしかない。裏切る人もいれば、最後まで裏切らない人もいる。でも最後までそれはわからない。今目の前にいる人は、今は親切かもしれないが、最後の最後に掴んでいた手を離すかもしれない。
裏切らないという保証はない、そもそも何も約束はしていない。
相手も同じことを思っているかもしれない。
そんな脆弱な信頼関係の上で生きていると、愛情を裏切らない存在に強い憧憬を抱くようになる。時間の経過に耐えうる、世間の荒波に耐えうる、絶対的な存在を。そんなものがこの世の中に存在するのならば。
2020年10月13日、欅坂46は幕を下ろした。最後のキーが打鍵された。(そういえば、東京ドーム公演はてちがピアノのキーを打鍵して始まった)
ピリオド。終わり。緞帳が降りる。いくらアンコールを求めても、もう幕は上がらない。
実際には、欅坂の楽曲が「再生」される機会はあった。けれど、そこに含まれている何かが、決定的に「あの頃」とは異なる。その決定的な何かこそが、欅坂を欅坂として存在させていたから、「再生」されればされるほどに、懐かしさや嬉しさと同時に、違和感が拭えない自分がいる。
どちらなのかがわからない。
愛情を裏切らない。
ピリオドが打たれたことにより、欅坂はそこで一つの歴史を終えた。役目を終えた。「終わり」ができた。「始まり」と「終わり」で区切られたことにより、一つ安住の地が生まれたように思う。
役目を終えて、深い海の底に沈んでいく戦艦のようだ。
もう戦わなくていい。ただ、その勇姿だけははっきり脳裏に刻まれている。
有限の存在になったことで、裏切らない存在になった。
安住の地。静かに眠っておくれ。
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