[ショート]タオルクラゲ

ブクブクブク

あれはなんて名前なんだろう？


白い息とともに扉をくぐる
今日はまだ割引シールが貼られていない

一人暮らしをして初めて
遅くまで開いている店のありがたさを知り
値引きシールの重みを知る
今日は珍しく早上がり
子どもの声があちこちと聞こえてくる

「ねぇねぇ！帰ったらブクブクしよ！」

どの弁当にしようか悩んでいると
隣のカートからそんな声がした

「ブクブクー？あー、タオルクラゲね
じゃあお母さんとどっちが大きいの作れるか競争だ」

タオルクラゲ？
あぁ、湯船でタオルに空気を入れて
沈めて遊ぶあれか

自信あり気に話す子供を横目にレジに向かう

ﾋﾟｯﾋﾟｯ
「お会計1580円です」
いつもより買ってしまったと悔いながら
店員の声を背中に少ない荷物を抱え店を出る

そういえばいつからか
湯船に入らなくなった

帰ってすぐベッドになだれ込み
しばらくしてゆっくりと身体を起こす
なんとなく好きな動画を開き
なんとなく飯を食う
洗濯や家事を一通り終え
そろそろゴミの日かと思いながら
シャワーを浴びる

明日こそは絶対に定時にあがる
そんな泡のような決意とともに
溶けるように眠る
毎日その繰り返し

…たまには、入れるか

「給湯温度を　43度に　変更　しました」

熱い風呂が好きで
いつも母親に怒られてたっけか

(ねぇねぇ！帰ったらブクブクしよ！)

…

……

ポコポコ

あれ、こんなに膨らまないっけ

…

……

ブクブクブクブク

…

……

あの子はお母さんより
大きいクラゲを作れたんだろうか

いつもよりほてった身体を
冷たいシャワーで流し
タオルをきつく絞った

少し大人になったお話