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詩・ショートショート

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趣味の詩、ショートショートです
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#ショートショート

[詩]かわいい家

[詩]かわいい家

夕暮れ
なんとなく出かけたくなった
その辺に転がった服をとり
とりあえずスーパーを目指し進んでみる

ここはスイセン畑で
ここはよく吠える犬がいて
その面影はかわいい家に書き換えられる

地面に刺さるツルの棒、何枚もかかる布団
遠くで聞こえるバイバイの声、微かに香るタバコ

瓦屋根は空き地に
空き地はかわいい家に変わる

この家にはどんな思いが込められているんだろう
どうしてこの色にしたんだろう

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[ショート]タオルクラゲ

[ショート]タオルクラゲ

ブクブクブク

あれはなんて名前なんだろう?

白い息とともに扉をくぐる
今日はまだ割引シールが貼られていない

一人暮らしをして初めて
遅くまで開いている店のありがたさを知り
値引きシールの重みを知る
今日は珍しく早上がり
子どもの声があちこちと聞こえてくる

「ねぇねぇ!帰ったらブクブクしよ!」

どの弁当にしようか悩んでいると
隣のカートからそんな声がした

「ブクブクー?あー、タオルクラゲ

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[詩]ハッピー

[詩]ハッピー

なんとなく
家に誰かいる気がした

パタパタと足音が聞こえるような
そうでもないような

なんとなく
家に君がいる気がした

いそいそと家族の初夢に出てきたり
そうでもなかったり

昨日は君の月命日だね
供えたどら焼きは美味しかったかい?

君が駆け抜けた15年を終え
そっちではどうなんだい
そろそろ生まれ変わり先が決まったのかい?
その報せと共に
最後の犬生を楽しみに来たのかい

僕はね
君の最

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[詩]ざっざっざ

[詩]ざっざっざ

冷たい白色 ざっざっざ
踏んだら固く
触れたら溶ける変なやつ

冷たい透明 ぴようぴよう
そこにいるようでそこにいない
白色滑る変なやつ

まぶしい青色 ぽかぽかぽか
白色透明 いなくなった
残った茶色に ぺちゃぺちゃぺちゃ
覗かせ緑も変なやつ

飛んでけ桃色 ひらひらひら
茶色もいつしか桃色絨毯
水色きらきら 桃色いかだ
桃色追いかけ変なやつ

あったか透明 ぴゅーっと吹いた
青色 桃色 さよう

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[詩]不眠

[詩]不眠

あなたの夜はどんな夜ですか

温もりに包まれたやわらかな夜ですか

期待に満ち溢れた
いつもよりも日の出が待ち遠しい夜ですか

寂しさに支配された冷たい夜ですか

不安で消えてしまいそうな
永遠に太陽が昇ってこなければいい夜ですか

煌びやかな夜を彩るために
仕事と向き合う退屈な夜ですか

あなたの朝はどんな朝ですか

目を瞑ればいつのまにか朝を迎える
それを当たり前にしてきましたか

眠ることが

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[ショート]緑のおはぎ

[ショート]緑のおはぎ

「こんにちは」

トンボ眼鏡に古い自転車
荷台に巻かれた漆の箱

お爺ちゃんは
緑色のおはぎを届けてくれる

世間話もそこそこに
母はその箱を持って家に入る

私はこのおはぎが大好きだった

緑色のきな粉に粒の粗い餅
中にはたくさんのあんこが入っている

このおはぎは何故緑色なのか
スーパーに並ぶ物と何故違うのか
その時の私にはわからなかった

「こんにちは」

焦茶色の縁側
白いふわふわと優しい

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[詩]卒業

[詩]卒業

卒業

泣いている者
いつものように談笑している者
記念撮影をしている者
アルバムに書き込みをしている者
先生と会話する者

何がめでたいのだろう
卒業証書の筒は冷たく感じた

アルバムに虚言を綴る
都合のいい人間と連絡先を交換する
何故笑う事ができるのか
何故泣く事ができるのか
全くわからない

ただそこで私を踏み躙った顔が笑っている

「楽しかった、今までありがとう」

「うん、またね」

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[ショート]緑の自転車

[ショート]緑の自転車

「おかえり」

前籠に新聞をたくさんいれた緑の自転車

学校の帰り道
その声が聞きたくて
あたりを見渡す

何をしていた人なのか
いつから話すようになったのか
どんな話をしたのか
今となってはわからないけど
その人に会うと笑顔になれた
白髪に丸メガネ
優しい笑顔がよく似合う人だった

「…開かない」

学校から帰ると鍵がかかっていた
蝉の声を聞きながらどうしようか考えた時
ふと緑の自転車が思い浮か

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[詩]道

[詩]道



よく知っていて
よく知らない道

靴底に石が当たる

転校する前ここには何もなかった

踏み固められた土が僕たちの通学路
田んぼの間を
落ちないように綱渡りするように歩く
横切るカエルにあいさつをして
体操着袋をパタパタと揺らす

給食を残さず食べたら
どのくらい先生より大きくなるのだろう
テストで100点をとったら
どのくらい大きなはなまるがつくのだろう

あの大きな山を越えたら
どんな世

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[詩]僕の知らない人

[詩]僕の知らない人

僕の知らない人

僕の家には知らない人がいる

「美味しいコーヒーを淹れてあげて」

お母さんの言葉のままに
僕はその人にコーヒーを淹れた

知らない人はずっとその場から動かない
ただこちらを見て少し微笑んでいる

「昔は俳優さんにスカウトされちゃうくらい
素敵だったのよ」

その人の昔話をお母さんは楽しそうに
コーヒーの薫りに乗せる

暑い日の夕暮れ
遠くから冷たい風がふいた

それは漂っていた

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[詩]風

[詩]風



ねえねえ!
お空はなんで青いの!

海の色がうつっているからだよ

じゃあ!
お日さまはなんでまぶしいの!

みんなを照らすために明るいんだよ

僕がとうめいなのにも理由があるのかな!

君は君の大切な人の背中を押せる
風になったんだ

ちゃんと押せるかな!

大丈夫
君が願えば
きっと

どこまでも遠くへ

[詩]明日|

[詩]明日|

明日|

いつか夢見たこの世界は
思ったよりずいぶん何もなくて

寂しがりな僕を
わかったふりしてたよね
電子音が脳に響く

「また明日|」

そんな言葉ばかり
その明日は
ちゃんとやってくるの?

神様はここにいるんだと
胸を叩いて教えてくれた

「君に涙は似合わない」
そういう君は泣いていたね

そういう君すら

もういない

いつかの小さなお話

[詩]星の名前

[詩]星の名前

星の名前

「ねえ、星を見に行かない?」

「かしこまりました」

「外は寒いね」

「現在の外気温は3℃、天候は快晴
降水確率は0%です」

「お腹すいたな」

「現在地から飲食店をお調べしますか?」

「ううん、大丈夫」

「かしこまりました」

「ねえ、
あの星なんて名前だろうね」

「現在地から見える星を検索しますか?」

「ううん
なんて名前なのかなって思っただけ」

「ではお調べした方

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[ショート]おやすみの魔法

[ショート]おやすみの魔法

羊が1ぴき

羊が2ひき

なぜ羊を数えるのだろう?

羊を数えるたび
だんだんと目が冴えてくる

「羊が3びき」

カーテンの隙間から
お月さまがのぞいている

僕はきょう
初めて広いベッドに
一人でねむる

少し冷たくて
少し布団のにおいがした

「羊が4ひき」

羊を数えるたび
だんだんと目が冴えてくる

ドアの隙間から
線になった灯りがもれる

「羊が5ひき」

きのうまではおかあさんがい

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