僕の中の弱虫
僕の中には弱虫が住んでいる。
だけど、その事を決して他の人に悟られてはいけない。
もし、バレてしまったら僕は病院に連れてかれ、沢山意地悪な質問をされ、体中を徹底的に精密検査されてしまうからだ。
だから僕はそうならない為に、今日も強く振舞わなくてはならない。
今日も放課後同級生の子分たちを連れ、街をあっちこっち練り歩く。
僕が強いんだと示すためだ。
僕は先ず手始めに、一番大きな公園に向った
すると、大きなお兄さんたちが柵の中でサッカーをし、老人たちがベンチで談話をし、小さな男の子と女子二人が砂場で遊んでいるのが見えた。。
砂場にいた女子が僕の方を見た。その子は同じクラスのみのちゃんだった。僕と目が合うと、にっと歯を出して笑う。
僕はみのちゃんの事は気にも止めず子分たちを引きつれ真っ直ぐ歩いた。
敵は外にいるかも知れないので、公園の内側から周りを見回してみる。
「ゆうくん、何してるの?」
気が付くと砂場とサッカー場の調度間の通路に僕はいた。するとみのちゃんが話しかけて来た。
「危ない事が起こらないか、周りを観察してるんだ。」
「ふふふ」
砂場で小さな男の子と砂の山を作っていたうみちゃんが首だけ僕に向けて笑った。
何だかそれだけで僕の中の弱虫が震えあがる。
「良いなぁお前らは呑気に砂場で山作って。世の中では酷い事件がいっぱい起こってるんだぞ?」
つい強がってしまっておっとと口を塞ぐ。
まえ、こういう意地悪な物言いをして母に頬をつねられた事があるのだ。
僕としては正論を述べているだけなのだが、母を敵に回してはならない。
しかし、僕が思ったのとは別に、僕の側に来たみのちゃんは楽しそうに笑って言った。
「ゆうくんって「入れて」って言えないから「良いなぁ」って言うんだよね。」
間。
みのちゃんがそんな意地悪な事を言うなんて。僕は衝撃の余りその場から動けなくなり俯いてしまった。
子分たちが僕のふいた顔を下から覗き込もうとするのを、首を動かし抵抗する。
上には上がいるものだ。僕よりみのちゃんの方が意地悪な物言いが得意だったのだ。
「ゆゆ…ゆうくんたちが一緒に手伝ってくれると、助かるよ?」
砂場で山を作り続けてるうみちゃんがどもりながら言った。
「…わかった」
僕と子分たちは仕方なく山を作るのを手伝った。
「アイツら小学生の癖に砂場遊び何かしてんぞ?」
サッカーボールを持った同じ学校の五年たちが通路を挟んだ砂場の向こう側でにやにやこちらを見て来た。
僕は咄嗟に立ち上がり、砂場の前で大の字になる。
誰かが笑い声を立てていた。
僕の足が震えてると言いだし、また笑い声が増えた。
違うぞこれは、半ズボンが寒いだけだと言いたかったが、砂場の前で大の字になるだけで、精一杯だった。
「おい、サッカー場空いたぞ。」
中学生の誰かが五年達に声をかけた。
気のせいか、五年達は少し背を低くしてサッカー場に入って行く。
「よしよし、お前は強いな。」
誰か知らない中学生は僕に近づいて頭を撫でてくれた。
すると、どうした事か僕の中にいた弱虫が急に光って蝶になって何処かえ消えてしまった。
「あ、見てちょうちょうだよ。」
「本当だ。」
うみちゃんの言葉に子分の一人が声を上げた。
あれはきっと僕の中にさっきまでいた弱虫だ。
何故だか僕はその時そう思った。
「やっぱ、ゆうは強いなぁ。五年の前に立ちふさがる何て。」
子分の中で一番間延びした喋り方をする奴が僕の横に立った。
「ホントだよな。ゆうは誰より強いんだ。」
子分たちにそう言われると、本当にそんな気がして来た。
「ふふん、当たり前だ。」
本当は、そうじゃないと思っている自分がまだ自分の中にいるけれど、何時か誰かに「お前は強い」って僕も言える様になりたいと思って、また強いふりをした。