徹底解説!「AV出演被害防止・救済法」【AV新法対応 契約書付】
AV新法対応!出演契約書のひな形を配布中!
2022年6月15日、国会最終日にAV新法(AV出演被害防止・救済法)が参院本会議で可決、成立しました。施行はなんと、同月23日からと異例のスピード。これにより、AV業界内では大きな混乱と批判が飛び交う騒ぎとなりました。
今回は、このAV新法に関する正しい知識の共有と、同人AVクリエイターの方々向けにAV新法に対応した契約書を新たに行政書士に委託し作成いたしました。文末ではひな形を配布しておりますので、ぜひご活用ください。
前半 ~ざっくり解説編~
無料 -約13,000字-
とりあえず法律のことを知りたい方
後半 ~みっちり解説編~
有料 -約12,000字-
AV新法に対応した契約書の配布
&
細かく法律の解説を入れています
AV新法(AV出演被害防止・救済法)って何?
この法律ができた経緯
この法律が可決される少し前の2022年4月1日から、成人年齢が20歳から18歳へと引き下げられました。成人年齢が要因のひとつとされています。
従来の法律では親の同意なくしてアダルトビデオ出演の契約をすることができませんでしたが、今回の法改正の影響で、新たに18歳が成人年齢となったため、さまざまな契約が親の同意なしに行えることになりました。
その契約には「アダルトビデオへの出演」も含まれています。
これを問題視したのが女性支援団体をはじめとするフェミニスト一向です。
昨今出演強要が社会問題として取り上げられつつある中、こうした18歳、19歳のAV出演者が増えることを懸念した団体などから強い声が上がりました。
18歳や19歳に「未成年者取消権」がなくなった影響で「現役高校生のAV被害が増える可能性」が危惧されており、塩村あやか参議院が発起人となり、2022年の2月の質問主意書を提出し、3月8日にこの内閣委員会で質疑し問題提起をしています。
誰のための法律?
このAV新法「AV出演被害防止・救済法」とは、その名の通りアダルトビデオ出演に関わる何等かのトラブルに巻き込まれてしまった被害者を救うための法律です。
一般的には「AV強要」などが挙げられます。
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業界的には迷惑な法律?
今回の法律で救われた人々がいる一方で、迷惑を被る形となったのがアダルトコンテンツに関わる事業者の皆さんです。まっとうにビジネスをしている適正AV制作業者にとっては余計な仕事が増えたにすぎません。
また、同様に「自分の意志をしっかりもっている」AV女優、AV男優にとっても仕事が減る要因になってしまったり、撮影が延期になったりなど、生活に大きな影響を与えています。
今回、新たに追加されたルールは以下の3つです。
このルールにより、業界は大混乱しました。今回の法律が施行されるまでのスピードが尋常ではない異例のスピードで、事前に公表されるべき契約書締結文書参考情報などの開示が施工後に発表されるなど、後手後手に回ってしまったため、各業界法務での書類準備に大幅な遅れが生じました。
また、「契約後1カ月間の撮影はNG」などの重要事項が突然発表されたため、撮影の予定が急遽延期やキャンセルになるなどして、多くの出演者に影響がみられました。制作現場の意見を無視した拙速な立法であるとして、AV業界関係者を中心に批判が噴出しています。
被害に合ってしまったAV女優金苗希実さんのツイート
「7月に決まってたAVの撮影が全部中止…」
想像力が足りてなかった法律の発起人 塩村あやか参議院議員
「決まってた撮影が中止に?なぜ?」
同人AV業界にはどんな影響が?
大手インディーズAVコンテンツ「FC2動画」では出演者の身分証と契約書の提出が義務化となりました。また、DLゲッチュでは契約に関するフォーマットが設定されました。
一方でPornhubなどの海外サイトでは、こうした契約書に関する提出義務は今のところ発生していません。
同人(インディーズ)業界においても、プロ同様に契約書が必要になります。また、販売サイトによっては出演者の身分証を確保する必要があるため、今までパパ活やナンパを利用して撮影しているクリエイターにとっては大きな痛手でしょう。
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AV新法をざっくり解説
下記、内閣府より公開されている条文、および概要です。
(1)目的(1条)
ここでは、この法律の対象となる人物について触れています。
こんな意味で捉えていただいてOKです。
注意したいのは契約対象が出演者全員であることにあります。主演女優はもちろん、男優やそれを補助するモブなども対象です。
(2)定義(2条)
ここでは「AV」って何?ということについて定義付けをしています。
この法律の指す「AV」とは、便宜上そう言ってるだけで、アニメ、音声作品、写真、もちろんネットの映像なども含め、概ね全てが対象になります。
したがって「うちのは音声作品でビデオではないので!大丈夫でしょう!」という判断は誤りです。
また、ここでは性行為についての定義がされていますが、性交(正常位・騎乗位・座位・バック(後背位)・側位によるペニスの挿入)の他にも、性交類似行為(アナルファック・フェラチオ・口内射精・クンニ・シックスナイン・素股)も含まれます。
解釈としては従来の「わいせつ」などに挙げられる定義に近いのですが、注意したいのは「全体として専ら性欲を興奮させ又は刺激するもの」という表記です。
これは、えっちなコスプレやヌード、パンチらなども対象になってる可能性があります。つまり、R-15作品だから、といった逃げ道は塞がれている印象です。
(3)実施及び解釈の基本原則(3条)
ここでは、AV事業者(同人AVクリエイター含む)が、出演者のライフイベント等を考慮し私生活の平穏等を害しないものとすることが求められます。
①AV撮影以外の性行為の強要をしてはいけません
撮影前や撮影後など、仲良くなったモデルに対して強引な性行為を行うようなことや、枕営業などを持ちかけることについて法律で明確に禁止をしています。
②公序良俗に反する契約は無効
これは元々、民法90条に「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする、という記載があり昔からあるものです。ここでもわざわざ記載が入ってるというのは、業界的にこうした契約が蔓延しているということでしょうか。
具体的には妾契約、愛人契約などがこれに該当します。
③売春等は許容されない
撮影外に同意とはいえ、売春行為は認めないということも法律で定められました。
逆を返せば、上記の原則を守って撮影すれば合法的に活動できるとも解釈できます。重要なのは契約者としっかりとコンセンサスが取れているか?ということです。世界でもこうした法律を敷く国は珍しいですね。
(4)締結に関する特則(4~6条)
ここでは、契約に関わる事項が細かくまとめられています。
今回の法律で最も厄介な部分といっても過言ではありません。
①AVごとに契約しなくてはならない(かも…)
ある企画で「人妻〇〇との不倫旅行」というタイトルのAVを作ったとします。このとき、モデルさんとの締結する計約書の内容は「人妻〇〇との不倫旅行」に関するものになります。
専門家により解釈が分かれてしまい、正直微妙なところで、以前販売したものの再編集は許容範囲かもしれません。
過去のボツ動画や、未販売の箇所、未公開映像などを再編集した場合、アウトになるのだと考えています。
また別の企画で「人妻〇〇との不倫旅行」を「不倫旅行シリーズ」として再販したいときは、別途契約書を締結し直す必要があります。
②AV契約書等の交付義務
「交付義務」というのは一般的には不動産や賃貸契約などに使われる言葉ですが、まさかAVで同じ言葉を聞くことになるとは。
モデルさんに対して必ず契約書面を渡して契約するように、というお達しですね。
具体的には、モデルさんの氏名や住所、撮影内容や取引代金といった事項が法定事項に該当し、必要事項を漏れなく記載することで、正式に契約が成立するのです。
③AV契約の説明義務
契約書の一文、一文を上から下になめていく。大変、面倒ですがこれを割愛することは許されなくなりました。
同人AVにありがちですが「契約書後で見といてー」という粗雑な対応はNGです。
説明者(クリエイター)は当然、モデル側から出る様々な質問に対しても答えられるようにしなくてはなりません。
(5)履行等に関する特則(7~9条)
「履行」とは「撮影後」というニュアンスで汲み取っていただいてOKです。
撮影した後は…という具合です。
①契約書面の交付から1か月間の撮影の禁止
あるモデルさんと7月1日に契約を締結したとしましょう。
撮影はその1か月後である、8月1日以降からセッティングしてください、という理解でOKです。
もしも、それよりも前の7月10日に撮影しようものなら罰則受けてしまいます。
なぜ、1か月も時間を空ける必要があるのかというと、これは出演者側における「熟慮期間」です。
②意に反する性行為は拒絶できる
契約内容にあったとしても、出演者が「やっぱヤダ」と思ったら拒否できるという内容です。
③出演者の安全等に配慮する義務
これは主に「衛生面」に関してです。性行為撮影の際に、不衛生な性行為に係る姿態の撮影や最悪のパターンですが、中絶を余儀なくされるような望まぬ妊娠を避けることが義務付けられています。
また、撮影に際し、インタビュー形式で出演者のプライバシーに関わることや出演者の特定を容易にするようなことを質問し答えさせるような行為なども、ここに該当します。
④事前確認の機会の付与
AVが完成したら、販売前に事前確認の機会を与えなくてはなりません。完成した作品のROMやURLなど、やり方に指定はありませんが、見ていただく機会を設けます。
⑤全ての撮影の終了から4か月間の公表の禁止
ここで再び「熟慮期間」の登場です。
全ての撮影が終了した日から4か月間は公表してはいけないというルールです。
(6)無効、取消し及び解除等に関する特則(10~14条)
ここでは、契約を無効・販売の中止・刺し止めなどが要求できる内容について細かく記載があります。後半部分で細かく解説しているので、より学びたい方は後半へ。
①AVを特定しないで出演義務を課す契約条項
モデルさんが「何のAVに出るか聞いてません」と意思表示すると、契約を無効にできるという内容です。
先ほどの(4)で触れた「AVの作品毎に契約書を作る事」というルールに付随しています。
これにより、「A子ちゃんでたくさん撮り溜めしてあるし、後から作品名決めよ~」ということができません。
撮り溜めした作品が売るには、手間だけど再契約が必要です。
また、再販する際にも再契約が必要です。
②書面交付義務及び説明義務に違反があった場合
モデルさんが「ちゃんと説明受けていません」と意思表示すると、契約を無効にできるという内容です。
ちゃんと説明する必要がありますが、同時に「ちゃんと説明を聞きました」という紙も作成しておくとよいでしょう。
③(5)履行等に関する特則に違反する場合
モデルさんが「契約して1か月たってないのに撮影された」
モデルさんが「契約にない性行為があった」
モデルさんが「性病をうつされた」
モデルさんが「勝手にAV販売された」
モデルさんが「撮影してすぐにAVを配信された」
などの意思表示をすると、契約を無効にできるという内容です。
具体的には、先ほどの「(5)履行等に関する特則」に含まれた内容全てが該当します。
④全てのAV出演契約
モデルさんは、全てのAV出演契約を無効にすることができます。これはいかなる理由であれ、この意見は尊重される、という認識で良いと思います。
⑤AV出演者は、AV出演契約の解除によって損害賠償義務を負わない
モデルさんは、出演キャンセル、販売キャンセルによるペナルティの発生時、その義務を負いません。
今までは強制的にペナルティを課す契約が作成できましたが、今後はそういった契約書作成ができません。
ただし、義務を負わないだけで、損害賠償を請求することは可能です。
⑥各当事者は、解除により原状回復義務を負う
この各当事者というのは、クリエイターもモデルさんも含みます。契約の解除は、有効に成立した契約の効力を当初に遡って消滅せしめるものであるから、契約によって給付がなされていれば、それがなかったときと同一の状態(原状)に戻す義務を生ずる、という意味です。
まぁ、平たく言えば「なかったことにする」ということでしょうか。
⑦任意解除を妨げるための不実告知又は威迫・困惑行為の禁止
モデルさんに嘘をついたり、脅迫したりするような迷惑行為を働くと罰則がつきますよ、という内容です。
(7)差止請求権(15条)
販売後にモデルさん側から作品の指し止めを要求することについて書かれています。
モデルさんは、クリエイターがここまでの(1)~(6)までのルールを守られなかった場合においては、販売されてしまった商品について「販売停止」&「販売前のストップ」を請求することができます。
(8)プロバイダ責任制限法の特例(16条)
ネットで配信されているAVの削除に関する内容です。
元々、プロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)というものがありますが、通常は「削除してください」と依頼してから7日間くらいかかります。
今回の特例として「削除してください」と依頼されたら2日で消さなくちゃなりません。(消すのはプロバイダ会社です)
(9)相談体制の整備等(17~19条)
AV被害を撲滅するために、国や自治体などが協力して相談窓口の開設に動いています。
AV制作者は事前に相談窓口の準備をしましょう。会社や組織にそうした体制を用意することが困難である場合は、権利団体などを紹介するなどの対策も有効です。
事前に配布する説明資料などにも連絡先を書いておくとよいでしょう。
(10)罰則(20~22条)
この法律に違反すると、罰金刑が科されます。
「解除妨害」とは、契約を破棄させないように、脅迫や嫌がらせなどの迷惑行為をして、解除させないようにする行為です。ここでは「不実告知」=「嘘をつく」といった内容にも言及されています。
「契約書等交付義務違反・説明義務違反」は、でたらめなことをいって契約させたりするような行為を指します。
同じ「わいせつ罪」の中でもトップクラスに厳しい罰則です。
(11)附則
経過措置として、出演者は今年の6月15日以降に発売される全てのAV出演契約は全て無条件で解除することができます。
この無条件というのは厄介で「どんな理由であれ」解除できるという強い意味合いを持ちます。
よくある質問
Q. 女性が主体的に活動する場合は適応されますか?
A. 適応されないと解釈しています。
女性自身がライブ配信やFantiaのようなファンサイトで、企画し、届出、撮影、編集して販売などを行う場合はこの法律は適応外です。もちろん公序良俗に反してはいけない、わいせつ物を見せないなどの法律上のルールはありますが、この法律とは関係がありません。
Q. AVを再編集したりして販売することはできますか?
A. AVの再編集をする行為に違法性はなく、また、販売も規則に則っていれば問題がないと認識しています。ただし、再販する場合は再度契約が必要と解釈しています。
これは法律家によって解釈が分かれるところですが、この法律の原則では出演契約は、アダルトビデオごとに出演契約を締結することが定められています。
「指止請求権」の項目を読むに、撮影した映像を再編集したものは、既存の性行為映像制作物と同一性のない性行為映像制作物を制作したことと同じとなります。そのため、同様の内容であっても、契約書のどこかにタイトルなど作品が特定できる情報を記載しておきましょう。
Q. 身分証が出せない、出したくないなどの場合はどうしたらいいですか?
A. 基本的に撮影NGです。
法律上、身分証の提示は必須としていませんが、前提として18歳以上の出演について認められているため、そのエビデンスとして身分証の提示、確認、記録、保管は必然的に求められていると解釈しています。
また、大手販売サイトでは出演者の年齢確認書類として免許証やパスポートの提示が義務化しているなど、身分証提出に関しては避けられないと考えています。
免許証などの取扱は個人情報になります。企業であれば個人情報保護に関する規約があるのが当然ですが、個人事業主(同人サークルなど)ではそういった準備がありません。あらかじめ制定しておくことをおすすめします。
Q. この法律が悪用される可能性はないの?
A. 可能性はあります。
本来守られる立場の出演者がこの法律を悪用するこ可能性があることは容易に想像ができます。
この法律は出演者がとても強い立場にいられるための法律です。
例えば…
SNSである女性が撮影に応募してきたとしましょう。
あなたは撮影のためにと高額なギャラを支払い、実際にAVを撮影しました。
ところが「やっぱり心変わりしたので販売はやめてほしい」などと販売停止の要求を受けてしまいました。
残念ながら販売自粛をせざるを得ません。
実はこの女性、普段からデリヘルで働いており、小遣い稼ぎがてら、こうした詐欺の常習犯だったのです。あなたもうっかり騙されてしまったのです。
なんてことがありそうですよね。(フィクションです)
場合によっては、あることないこと言われて賠償請求するような輩が現れるかもしれません。
これはれっきとした詐欺行為なのですが、撮影行為があったのは事実ですので逮捕・起訴するのがとても難しく、クリエイターは泣き寝入りするほかありません。
Q. キャンセル料は可能?
A. 可能です。
出演契約が解除されたとき、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負います(第14条)。これは、出演契約における制作公表者、出演者それぞれの給付について、これを原状に復することをいうため、出演者は契約に基づいて受け取った出演料の返還を(受取済みの場合)、制作公表者は出演者の役務を金銭評価した額(撮影が終了している場合)を返還することになります。なお、出演料の返還は、解除権行使の条件ではありません。
出演契約の任意解除等をした場合でも、取消しや法定義務違反解除に該当する事由を根拠にした損害賠償請求は可能です(民法545条第4項)。
しかし、必ずしも支払ってもらえるかは定かではありません。クリエイターは強く出れない立場です。
お読みくださりありがとうございました。
ここまでで「前半」とさせていただき、一旦、区切ります。
「後半」ではAV新法に対応した契約書を作成していますので、そちらの詳しい解説と細かい注意点などについてご紹介いたします。(およそ13,000字)
アダルトビデオ出演に関する契約書などは以下よりダウンロードください。
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