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今日の1冊 その10(終戦記念日特別編)

またまた1冊なのだが………今日は8月15日終戦記念日だ。だからこそ新たに戦争と平和について、考えさせられる1冊をあえて挙げてみたい



今回だけはあえてネタバレしていく。何故ならこちらは反戦小説とは言えない。だが戦争と平和を考えるには適している作品だ。その上で私個人の気持ちも書いていこうと思ってる



それでは紹介しよう。今日の1冊はこちら


佐藤大輔
皇国の守護者外伝 観光資源

このシリーズの初作品
どんな話になるかと思っていたが………
かなり俯瞰して文化とは?について語っている


ネタバレあらすじ

〈大協約世界〉の〈皇国〉小苗市市役所。ここに務める観光課職員、貢馬と百棚は新たな観光資源を見つけ出せと命じられた。しかしこの市は人口約5万、元々が小さな村の集合体で特にこれといった物は何も無い、そんな田舎町だった

困った2人は将来の市長候補で同級生の珠瀬華希に相談することに。頭の回転が早い彼女はいろいろ模索し、彼らを馬車馬のように働かせるが全くこれというものは見つからない。だが彼らが本屋で見つけた、というか見かけた女性達の立ち読みしてた本を見つけ出して思いついた!

ここは毀誉褒貶激しい大昔の将軍、新城直衛が初めて史実に登場した古戦場だったのだ。それを活かして大規模な”好きな人向け”な軍事祭りを開催するのだった。男性には史実を体感する楽しみを、女性にはBL要素の楽しみを感じてもらうに最適な催しは大成功。毎年の開催が決定する

しかし少子高齢化の進む昨今、いずれは消滅都市となる小苗を劇的に救う方法では無い………市長になった華希には分かっていた。3人の中に既婚者はいなかったし………そして問いかける彼女に百棚が一言……

人口を増やす方法はひとつしかない
それは戦争……




非常に残酷というか冷徹な現実を突きつけるラストだ。その前にも散々「何故戦争が必要なのか」についても語られているのだが、最後のセリフは平和主義の方々にとって受け入れ難いものだろう


だが作品中の百棚も、また作者たる佐藤大輔もあくまで現実として述べているに過ぎない。ここで作品途中ページから引用したいと思う

戦争とは文化のあらわれに他ならない。だから、戦いを忘れた国、戦いを棄てた国は精神的に不健康な症状を呈し、やがて衰退しはじめる。
これは善悪好悪といった良識ではどうにもならない現実だ。

これは辞書にて「平和」という言葉を調べてもらうとわかる。「戦争をしていない時のこと」と(もしくは類似の書き方)書いてあるはずだ。つまり戦争状態こそが人類の一般的な状況である、とも言える


もちろん平和を否定するものではない。経済もまた戦争であり、戦後日本は失われた繁栄を取り戻すべく粉骨砕身働いた。それを可能にしたのは平和を享受できたからに他ならない。が、その労働人口は太平洋戦争にて誕生した我々の親世代が支えていたこともまた事実だ


つまり事はそう単純ではない。作品中ではこう続く

  戦わないことの不健康さ、その最悪の影響といえるのは人口の老齢化や減少である。戦争で命が濫費されないのだからこれは当然だ。戦わない国は若者――社会制度上の消耗品をさほど多くは必要としなくなるから、子供を産み育てる者が少なくなっていく。 それは個人の選択肢としては正しいのだろう。永遠に三〇代あたりで生きていられるならば。

  しかし人はさらに老いていく。刻時器の時針は逆に回らない。やがては現実に向き合うことになる。老いた、頼るべき家族も持たない時、どうしたらよいのか。社会の――国家の保護に期待すべきなのか。 だが、そうした老人ばかりが増えたとき、国家もまた老いている。すなわち時の流れを呪いながら冬のような日々を過ごし、迫り来る終わりを見つめているしかない。

つまりは不健全な状態が社会の死に直結すること、それを容赦なく明らかにしているのがこの作品なのだ。日本で自由が飛び交う今、個人にとっては幸せだと私も思う。だが自由には責任が伴う、という当然の事に目を背けていることも私は考えさせられている


第2次ベビーブームの我々世代が自由を拡大させたことで、確実に出生率は下がり国家としては一気に衰退期に入った。これは我々の責任でもあり、選択の結果でもある。社会に活力がある時は平和が必要不可欠だが、活力がなくなってきた時どうするのか?

当然ながら戦争を自ら起こすのは愚の骨頂ではあるのだが………と同時に、なければないで逼塞するのが国家なのだろう。人類が生態系からは分離し、文化的生活を送るようになったからこそ、そこまで考えざるを得ない。生態系内では秩序が保たれていれば、常に飢えや天敵の脅威の中で緊張感を持ち生きていかなければならない。だからこそ子供を産み育てることを続けるからだ


こうした問題をひとつ確かにした楽園25実験というものがある。マウスを使ったこちらだが、ずっと続く平和がいかに悪影響を及ぼしてしまうか、よく分かる結果になっている


内容は上記YouTubeなどで見てもらえたらと思う。必ずしもどの動物でもそうなるとは限らないが………その他の実験を考えても同じとはいかずとも似た傾向になるのではと感じる


さて「一般的な平和論」とは全く別の視点から、「戦争と平和」について考えてみた。大サトーの言うとおり、善悪好悪関係なく先進諸国で必ずしも人口減が起きているのはこういうことなのだろう。アメリカ大統領選など見ても、どうにも健全な方向性に向かっているようには見えないし、日本の政治も言わずもがなだ


もちろんだが、私はこの考え方が絶対正しいとは決して思わない。別の考え方を否定するつもりもないし、平和が素晴らしいものであることも疑っていない。が、敢えてこういう事も含めて考えることは、決して無駄では無いと思う。感情論でも戦争論でもない、そんな視点も忌避するのとなく考慮してみるのはプラスになる、そう信じている


最後にラストの百棚のセリフを引用して、この長文記事を終わりたい。見てくれた方々が何か感じてくれたら嬉しく思う

「か、簡単な話なんだ」かすれた声をさらに高くしつつ百棚はこたえた。「若者の――というより、子供の数を増やす方法はひとつしかない」
「なんなのよ」
「戦争」
百棚はこたえた。
「みんな死にたくないから子供をいい加減につくる。たくさん生まれたらたくさん死んじゃうけど、生き残る数も自然と多くなるから、若年人口はあっというまに回復する」
呆気にとられている華希に、かれは復讐でもしているかのようにくっきりした発音で告げた。
「僕らには戦争が必要なんだ。僕らはその戦争で死んでしまうかもしれないけど、未来を手に入れたいならそれも仕方のないことなんだよ。ふざけてるよね、なにもかも」

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