【ライズ・アンド・フォール、レイジ・アンド・グレイス】エピローグ:ステアリング・アット・ザ・サン
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何処とも知れぬ闇夜の空間を、彼は歩く。視線の遥か先には熱帯びた淡い光。そこへ向かい、彼は歩く。
時折立ち止まり、後ろを振り返り、手を伸ばす。濁った空色の瞳をしたドレスの少女へと。虚無的な嗜虐心と笑顔を浮かべ、残酷なビジョンを幻視し……苦しみ、呻き、蹲る。胸をおさえながら……。
彼の胸元に空いた不可思議な風穴、そこに浮かぶはエメツではなく、弾丸。狂気と妄執に呑まれそうになる度、彼の胸で弾丸は龕灯のように光り輝く。そうして苦悶して暫く立ち止まり……また前へと向き直って立ち上がり、足を進める。
先に何があるのかはわからない。ここがオヒガンなのか、そうでないのか、自分がどこにいるのかもわからないが。
兎角、彼は光差す方へ歩いてみることにした。理由は特にない。何となく、そうしたいと思った。
ただ、それだけだ。
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「悪いけどね、お嬢ちゃん、ここまでね!」
日に焼けたグラサン男が後部の座席に座る少女に声をかけた。彼女は外の風景を軽く見渡した。デコボコに隆起した地面に、切り立った小高い丘、暗色の草々。少女は無表情のまま、グラサン男を見やった。
「見ての通り道悪いね!バス走れないからね、それに最近あの、あれ、『ネザーキョウ』!コワイからね、おっそろしい黒帯巻いた『カラテビースト』も一緒になって、遠路はるばるお越しになったりしててアブナイから、これ以上はね、行けないね!」彼は運転席の側に立てかけられたショットガンの存在感をアピールし、周囲の景色を指差しながら声を荒げて捲し立てた。
「聞いてないけど」「言ってなかったからね!それじゃ、Uターンするよ!帰り道は別料金ね!」ナムサン!観光客狙いの悪徳バスドライバーだ!
「ここで降りて歩いていくってんなら別だけどね、まぁ、人生の勉強の授業代だと思ってね」「わかった。なら、ここからは歩いていく」少女は座席を立ち、平然と言い放って搭乗口へ向かった。
「……ハ?お嬢ちゃん、何言ってんの?」目を丸くするグラサン男を後目に、彼女はシャトルバスを降りながら言う。「慣れてるから」
「慣れてるッて……ウワッ」少女は背を向けたまま、親指で硬貨を彼に向けて弾いた。キッチリ片道分の代金だ。そしてシャトルバスを一瞥することなく、悪路を軽々と飛び渡り、小高く立った丘の方へと向かっていった。日に焼けた屈強なグラサン男は、遠ざかって消えていくその後ろ姿を呆然と眺めていた。
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見晴らしのいい丘に辿り着き、ギラつく太陽の残響を浴びながら、少女は遠景に目を凝らした。ここからそう遠く離れてはいないところに、『山形電影有限公司』の文字が見える。
丘の斜面を下り降り、道なき道を掻き分けて進んでいく。
晴れ渡る晴天の空色の下を少女は歩く。
目的地へ向かって、確かな足取りで。
ライズ・アンド・フォール、レイジ・アンド・グレイス 【完】