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東山魁夷展のチケット売り場で、一風変わった天使に会ったこと

ちょっと旅行に行ったりしているうちに、すっかり忘れていました。

12月頭に、期間終了間際に東山魁夷展に飛び込んだ。

とても人気ある日本画家である、東山魁夷先生の生誕110年 回顧展。 それに行ったことは覚えていたんだけれど、その日に見知らぬ人に親切にしてもらったことをすっかり忘れていたので、そのことを残しておきたいと思います。

12月頭から旅行に行くことになっていて、その旅行中に会期が終わってしまうことに気づき、なんと観に行けたのは 飛行機に乗る5時間前のことだった。

チケットを買っていなかったので、列に並ばなければならない。

平日の昼間という時間帯や展覧会の内容から、わりと年配の方が2、3人でおしゃべりしながら並んでいる様子が前後に見て取れた。

私はそこにぽつねんと一人列に加わった。

そうですよね、並びますよね、はあ〜 時間がないのにな。(自業自得) と思っていた。

その時列の外側から、年配の方というにはちょっと早いくらいの、そこそこふくよかな女性に声をかけられた。 

「あの、チケットを買われるんですか?」

なんだろう。 普通の主婦というかんじとはちょっと違う、少し不思議な雰囲気のある女性だ。

なんかこう占いとかをやっていそうな雰囲気で、あやしい信仰宗教などに入っていきそうなタイプの人に見える。 

雰囲気はやわらかく、にこやかに話しかけてくれるのだけれど、大変失礼な偏見というべきなのだが、二言目に「あなた、今大変な時じゃないですか?よかったら手相を見せてください。」と言われそうな雰囲気がするのだ。 要はちょっと浮いているかんじがした。

そこで私は、なんか、「もしできたら私の分も買ってもらえないかな? お金を払うから」などとにこやかに頼まれるのではないかと身構えた。

チケット売り場に並んでいるのだからもちろんチケットを買うのであって、彼女のことを大変怪しみながらもひとまず

 「はい、そうですが」と返答する。

すると彼女は、

「これ、あげます!!」

と、小さい紙切れを私に差し出した。目をこらしてそれを見ると、なんと東山魁夷展の無料招待チケットのようである。

お、おお.. 神よ

と私はひとりごちた。(心の中で)

しかしその時他の展覧会もやっていたのに、彼女はなぜ私が東山魁夷展を目当てにしていると予測できたのか。

善良な老男女の皆様が並んでいる中に、独りあやしくサングラスなどかけて無愛想な顔をして並んでいる私に、何故それをくれようと思ったのか?(比較的若者で、そして一人で並んでいるのが私だけだったのかもしれない)

そして果たしてその無料招待チケットは有効に機能する本物なのか? 

それらのことが頭をかけめぐり、また、彼女をあやしい人間ではないかと完全に身構えてかかった自分への自責の念がむくむくと湧いてきて

それでもまだそのチケットの有効性を疑っている自分を ひどい人間なのではないかと思いながら、

まじまじとそのチケットを見続け、

口からは「え、あ...いいんですか?」

というなんとものっぺりとした言葉しか出てこない。

私がおそるおそるそれを受け取ると、彼女はいともにっこりと笑って、颯爽とその場を去っていった。

私はチケットの列の中でぽかんと彼女の後ろ姿を見続け、彼女は振り返ることもなく消えさり、

私は彼女が消え去った後も、彼女が消えたあたりの空間と 手渡されたチケットを交互に見続け ぽかんとしていた。 列の前後の方々は、一体なんなんだと思ったことだろう。

そして、果たして私はそのチケットを信じ、チケットに並ぶ列のロープをくぐり抜けた。

果たしてそのチケットは、展覧会の入り口にて正常に機能したのでありました。

その5時間後に私は飛行機に乗り他国へ旅立ってしまい、すっかり頭から抜け落ちてしまっていたけれど、

彼女への感謝をここに記したい。

完全に疑いの目を向けた私に(彼女が万が一にもこのnoteに辿りつくことがないよう祈ります) 、にこやかにチケットを手渡し、颯爽と去っていったその後ろ姿。

彼女は勇者でした。

私は東山魁夷先生の美しい作品群とともに、このことを一生忘れないだろうと思います。

あの女性がすてきなクリスマスや年末や、これからの長い時間を過ごしていかれますように。

私もそういういただいたものを、またどなたかに手渡していけますようにと、願いたいと思います。

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