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第5回:MVのディレクション
shiroANのキービジュアルは設定画としてもまとめてもらいつつ、2021年5月ごろから本格的に「アナログで変わった正解で」のMV制作もスタートしていく。
制作ディレクターとして関わりながら映像を仕上げていくことになったが、楽曲部分に関しては自分は知見がないため平子さんと当時在籍していた制作会社の別の人間がやりとりを進めていった。MV制作にあたっての前提条件としては、イラスト1枚を使って省エネで見せていくリリックビデオの想定となった。
ちなみに結果的には「アナログで変わった正解で」が最初のMVとなったが、2曲目となった「幻愛流(きめる)」の楽曲も同時進行で進んでおり、歌唱キャストの選考も進められていた。
さて、MVはその名の通りミュージックビデオなので映像としては音楽が先立ったものだ。その音楽から感じ取れるイメージを映像に落とし込んでいくというのが順番となる。
要は音楽ができていなければどんな映像にするのかは決まらないということで、最初の楽曲ということもありMV制作がスタートできる仮楽曲の段階になるまでにいろいろな調整が入った。
いついつまでに公開をする、というスケジュールラインは設けずに制作に集中する進行となっていたので、いったん楽曲の形が出来上がってきたところからMVとしてイラストと映像を仕上げていこうという仕切りにしていく。これは制作的な判断。
納品日や公開日が決まっているケースでは、そうも言っていられないため仮楽曲(ボーカロイドに歌わせたものなど)からコンテを起こしたりラフイラストでMVのベースを作ったりなど出来るところから作業工程を進めていくこともあるので、そういう意味では贅沢かつ余裕のある作り方をさせてもらった。
ひと月の楽曲制作期間を経て、6月の初めにはMVの内容面に関するディスカッションが行われた。MVの方向性のイメージとして、
暗闇の中で1人カセットテープで音楽を聴いている
あとにも先にも進めない、それでも進んでいく時間(を感じさせる)
アナログ感の演出として90年代のフィルムカメラで撮られた写真のようなイメージ
というような方向性を決め込んでいった。
ディレクターの仕事としては、楽曲をもとに自分が想起したイメージを上記のような言葉で書き出していき、すり合わせの手がかりとしていくことになる。
やり方によっては自分で画コンテやイメージボードまで描くこともあるが、今回はときちさんの1枚絵が中心となるため、そのイラストをどう描き出すのか、可能な限りどのように映像的な演出をつけていくのかという点でアイデアを出して実行していくことになる。
イメージを固めていくためのディレクターということで、最終的なMVのクレジット上はイメージディレクターという肩書きにはなっているが、作り方やスタイルによってディレクターという仕事の定義は多岐にわたる。
自分の中のイメージを描き出すスタイルもあれば、さまざまな条件を調整して最適解を導き出すスタイルもある。スタイルの問題だけであればいいのだが、ディレクターが制作進行や映像編集や渉外交渉など雑務も含めて兼任するケースも多い。
手っ取り早くひと言でまとめられて横文字のそれっぽい肩書きということで便利に使われているなという客観的な視点も出てきてしまうので、なんとも言えないところだ。
スケジュールや予算を司る制作とクオリティや内容を司るディレクター。水と油のように相反する2つの役職を兼任する制作ディレクターとは、それくらい矛盾したような意味合いを持つものだ。
自分の場合はスケジュールを自ら調整して自分のやりたいことやこだわりたいポイントに注力して時間を使うというやり方は割と性に合っているので、これもまた1つのスタイルだとは思っている。
ものつくりにおいては正解は1つではなく、やり方や過程によっても変わってくるものという結びで「アナログで変わった正解で」というMVのディレクションの話はまとめておくことにする。
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