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ビールと水〜⑰コロイド前編、濁りとコロイドの基礎理解

前回からの続き
前回は香気成分と水について。Survivables理論の前提理解として、水に溶けやすい香気成分とは何かという話をしました。今回はビールの濁りに大きく関わってくるコロイドについてです。


ビールと濁りの関係

一部のスタイルを除いて、ビールにとって濁りは長年の敵でした。微生物汚染による混濁、酸化混濁などはオフフレーバーを伴うので、濁ったビールは美味しくないビールの証ともされてきました。近年はHazy IPAの流行で濁りに対して好印象を持つ人も増えてきました。

TurbidityとHaziness

濁りは英語ではTurbidityという言葉が当てられます。「混濁」とか「濁度」という意味です。Hazy IPAで日本でもおなじみの言葉になったHazeとかHazinessは、意味は同じですが「霞がかかったような淡い濁り」を指し、Turbidityより情緒的な印象があります。Turbidityは技術的な用語でどちらかというとネガティブに使われることが多く、Hazinessは情緒的な用語で通常はポジティブに使われるという感じでしょうか。Hazy IPAじゃなくて、Turbid IPAだったらあまり美味しそうに聞こえないですよね。

濁りの分類

濁りの分類をしていくと濁る理由が見えてきます。大まかに分けると生物混濁と非生物混濁があり、非生物混濁にはコロイドという現象が関わってきます。

ビールの濁りの分類

コロイドとは

直径が10^-9から10^-7m程度の大きさの粒子をコロイドといい、コロイドが均一に混ざった溶液をコロイド溶液といいます。身近なものだと、牛乳も泥水もにごり湯の温泉もコロイド溶液です。
コロイドは液体だけではなく、気体や固体でも成立します。溶液の場合は水のような元の液体を溶媒、溶けている物質を溶質と言いますが、コロイドの場合も同様に分散媒と分散質という言い方をします。分散媒と分散質の組み合わせによって分類すると下記のとおりです。

コロイドの分類

「溶ける」と「分散している」の違い

ビールの話をするときは分散媒は液体ですので、以下液体を前提として話を進めます。コロイドの分散質は直径が10^-9から10^-7m程度という定義がありますが、これは直感的に分かりづらいです。多くの人は分子量やモル質量は意識してますが、特定の分子が10のマイナス何乗mの直径を持っているかほとんど意識してないですよね。
グルコースは10^-9mより大きくないので、水にグルコースを溶かしたものはコロイド溶液ではなく「真の溶液」といいます。水に「溶けた」状態というのは真の溶液のことです。これに対してデンプン水はコロイド溶液です。極性を持つ分子が水和しているという点では同じですが、化学的に厳密に言うとデンプンは溶けているのではなく分散媒に分散しているということになります。
コロイドの性質の一つとしてチンダル現象があります。グルコース水溶液とデンプンコロイド溶液に、レーザー光線のような光を当てると、グルコース水溶液では何も見えませんが、デンプンコロイド溶液では光の通路がくっきり見えます。チンダル現象は霧が立ち込めた森に光がさすときに見えることで有名ですね。

チンダル現象の例

構造による分類

構造によるコロイドの分類

ビールでもおなじみのアミロースやアミロペクチンなどのデンプンは、グルコースがグリコシド結合によってたくさん繋がっている高分子化合物です。α-1,4結合だけで形成されているのがアミロース、α-1,4結合に加えてα-1,6結合もあるのがアミロペクチンでしたね。このようなグリコシド結合は共有結合なのでデンプンは一つの巨大な分子なのです。したがってデンプンは分子コロイドを形成します。
ミセルコロイドは、小さな分子が集まって分散質になるコロイドです。一つ一つでは直径10^-9に満たなくても、集まることで一定の大きさに達してコロイドが形成されます。

ラウリン酸によるミセルコロイド

上の図は石鹸の原料になるラウリン酸の例です。炭素数12の飽和脂肪酸です。カルボキシ基の部分は極性を持つので親水基、炭化水素鎖の部分は極性を持たないので疎水基になります。これが水の中に入ると疎水性相互作用により、疎水基が中心に集まり、親水基が周りの水と水和したミセルを形成します。
ちなみに会合コロイドより分子コロイドのほうが安定性が高いです。これは直感的に分かりやすいですよね。

水和性による分類

分散媒が水の場合、分散質の水和性に着目した分類があります。

水和性による分類

親水コロイドはデンプンなど極性を持っている分子やその集合体のコロイドです。ビール中に存在する物質は有機物が多く、大体極性を持っているので親水コロイドとしてビール中に分散していることが多いです。一方疎水コロイドは、水和性の低い物質によるコロイドです。無機物が多いと言われています。保護コロイドは疎水コロイドの周りを親水コロイドが保護するように取り囲んでコロイドを形成するものです。ちなみにここで言う「疎水」の程度は、「比較的水和性が低い」くらいのイメージです。炭化水素などの疎水性が高い化合物はそもそもコロイドを形成しないことが多いし、形成しても極めて短時間で分離してしまいます。油は水に分散せずに分離しますよね。
疎水コロイドより親水コロイドのほうが安定性が高いです。これも直感的に分かりやすいですよね。

次回へと続く

今回はコロイドの基礎理解編として、濁りとコロイドの関係について触れました。次回からは、もう少し核心に迫りたいと思います。具体的にはビールにおけるコロイド状の濁りのメカニズムと濁りの安定性についてです。同じ濁りでも好ましい濁りと好ましくない濁りがあるんですよね。

お読みくださりありがとうございます。この記事を読んで面白かったと思った方、なんだか喉が乾いてビールが飲みたくなった方、よろしけばこちらへどうぞ。

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