歴史から考えるクラフトビール〜①イントロダクション
最近はアメリカのビール関係者と話すと「あのブルワリーが倒産した、あのブルワリーが経営危機でレイオフだ」という暗い話ばかり。アジアのビール関係者も「自国のクラフトビール市場が散々なので日本に輸出したい」という声を多く聞きます。クラフトビール界隈は悲観一辺倒に見えます。こんな時こそ歴史を振り返って、クラフトビールがどこから来てどこに向かうのか自分なりの考えをまとめてみたいと思いました。
歴史から考える意義
2023年のアメリカのクラフトビールの生産量はついに前年割れしました。2010年代の前半は毎年15%くらい伸びていましたが、2026年ころから伸びが鈍化しました。コロナ禍を挟んだ2020年と21年は数値が異常値を示していましたが、2022年にゼロ成長となり悲観的に受け止められていました。ここへ来てマイナス成長になったことで悲観ムードは決定的なものになったと思います。
ブルワリーの廃業数は新規開業数に接近するほど増えています。市場調査会社ハリス・ポール(The Harris Poll)によると、前年に比べてクラフトビールを飲む量が増えた人/減った人の割合は、2015年には45%/10%だったのが、2023年は25%/25%になったそうです。2024年に入ってもクラフトビールの衰退を示すデータは続々出てきています。Brewers AssociationのMidyear Surveyでは、クラフトビールの出荷量は2%減、RTDなど他のジャンルのお酒に消費者が目移りしていると言及されています。
これをもって「クラフトビールはもうオワコン」という見方をする人もいます。たしかにクラフトビールをブームと捉えている人にはそのように見えるでしょう。トレンド、一時的な流行という視点でクラフトビールを見ると、かつてのような勢いはないし、やっている私たちもかつてのような「何かが起こる前のワクワク感」や「新しい歴史を作ってやろう感」はあまりないです。しかし、ズームアウトしてクラフトビールを歴史的な視点で見るとまた違う景色が広がるのではないでしょうか。
クラフトビールの歴史観とは
スティーブ・ヒンディ著「クラフトビール革命」の中で紹介されているダン・キャリーのこのコメントがクラフトビール歴史観を表していると考えます。クラフトビールコミュニティの人たちがビールの歴史をどう見ているのか、ダン・キャリーが言っていることを図にしてみましょう。
歴史観というのは文化やコミュニティ(民族や国民国家)に根ざしているので、正しいとか間違っているとかを論ずるものではないと思います。ビールの歴史もどのように見るかは立場によって大きく異なります。例えばメソポタミア、エジプトなどの古代ビールは現代ビールとは連続性がないという見方もあります。そしてむしろ歴史にあまり残っていないゲルマン人の古代ビールこそビールの起源と考える歴史観があります。
そういう意味では、大手ビールメーカーが主流でクラフトビールは一時的なブームくらいに思っている人が多いなか、「クラフトビールが本質で、ビール文化の正当な後継者だ」と考える人たちがクラフトビールコミュニティを形成していると思います。
このシリーズではこのようなクラフトビールの歴史観について考察していきたいと思います。
予定している内容
内容については以下のような構成を考えています。
第1部: ビールの歴史ダイジェスト
ビールの起源の諸説
キリスト教とビール
近代ビールの萌芽
第1部まとめ: ビールはヨーロッパの文化
第2部: クラフトビールの歴史
クラフトビール前夜のアメリカのビール(移民、禁酒法、大手メーカー)
クラフトビールの2つの歴史観: フリッツ・メイタグとホームブルーイング
クラフトビールの定義とBAの誕生
IPAの再発明とクラフトビールのアメリカンドリーム化
世界のクラフトビール〜①大陸ヨーロッパとCAMRAの国・イギリス
世界のクラフトビール〜②オセアニアと辺境・アジア
ブームの終焉とこれからのビール
例によって途中で書き足したり端折ったり、方向性を変えたりするかもしれません。最後まで書ききれるかどうか自信もありませんが、気長にお付き合いください。私はビールの歴史を専門に研究しているわけではないし、拙い文章で綴るので読みづらいこともあるかと思いますが。。。
参考文献はこんな感じです。読み足したら追記しておきます。
次回へと続く
今回はイントロダクションで、シリーズの展望を紹介しました。次回は古代ビールとビールの起源について考えてみたいと思います。
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お読みくださりありがとうございます。この記事を読んで面白かったと思った方、なんだか喉が乾いてビールが飲みたくなった方、よろしけばこちらへどうぞ。
オススメビールの紹介、1000 Steps。醸造所の1000回目の仕込みを記念して造ったベルジャンスタイル・クアドルペルです。2024年IBCでBelgian-Style Strong Ale Keg部門 金賞、Belgian Heritage Keg部門 Category Championを受賞しました。寒い冬に暖を取るような飲み方ができるビールだと思います。