私の大好きな本~わが家は祇園の拝み屋さん~
最初の出会い
新型コロナウイルスが流行りはじめ、「すぐに収まるだろう」という楽観的な気持ちから、「これは今まで経験したこともない大変な状況になるのでは?」と得体のしれない恐怖を強く感じるようになった2020年。
連日報道されるコロナのニュース。規模を縮小して実施された娘の晴れの小学校の卒業式。そして入学式早々から休校で始まった中学生活。完遂間近だった数年越しのプロジェクトの無期限延期・・・。今まで過ごしていた普通の日常とかけ離れた世界に突然放り込まれ、先がまったく見えない日々。
混乱のなか、不要不急の外出が禁止され、ステイホームを余儀なくされる連休がやってきました。シリーズで読める軽い読み物を探している時に、たまたま出会ったこの作品。失礼ながら、内容も作者の望月麻衣さんのことも全く何も知らずに、ブックオフでシリーズ売りしていたのをたまたま見つけただけの本でした。
40代の私が読むには可愛らしすぎる表紙で、しかも主人公は高校生らしい。主人公の母親ぐらいの年齢の私が読むのって・・・?とも思ったのですが、難しいお話を読みすすめる気力も体力も、心の余裕も無い状況。せめて本の世界の中では、可愛らしくて、心が温かくなる世界に浸っていたい・・・そんな気持ちにこたえてくれそうに思い、選んだ本なのでした。
あらすじ(ネタばれあり)
突然人の心の声が聞こえるようになった中学3年生の主人公小春。自分に対する悪意に満ちた友人たちの心の声を聞いてしまい、学校へ行けなくなってしまう。
そんな小春に手を差し伸べたのは、京都に住む祖母の吉乃と叔父の宗次郎。祖母の一族は陰陽師家業で有名な家系であり、そして祖母自身も嫁ぎ先の和雑貨屋の女主人として店を守る傍ら、まちの拝み屋さんとして、アヤカシや不思議な現象に悩む街の人たちから頼りにされているのだった。そんな祖母の一面を知らされていなかった小春は、最初は戸惑いつつも、自分の不思議な力とともにそれを受け入れていく。
後に恋人となるハトコの澪人や、後に親友となる愛衣など、たくさんの仲間とも出会い、成長していく小春。そんな小春が、信頼できる仲間達とともに街や人々を守ろうと奮闘するお話。
お話は15巻で完結。EX(エクストラ)で登場人物たちのその後が描かれています。
お話を読んで感じたこと
自分の嫌なところを全部否定しなくていい
「私自身も誰かを妬んだり羨んだり、悔しくて仕方がない時がある。だけど、その人を前にすると『おめでとう』って言うの。それは自分のプライドだったり、その人とこれからも付き合っていきたいからであったり、やっぱり、表の言葉も嘘じゃないんだって。」
友人から妬まれ、影で酷いことを言われて傷ついた過去を、澪人の姉の杏奈に話した小春。その時杏奈が小春にかけた言葉です。
私は常に自分のことを偽善者だと思っていました。なぜなら自分の本心を言うことはあまりなく、その時の状況を見ながらその場をやり過ごせる言葉を探して会話してばかりだったから。そしてそんな自分が本当に大嫌いでした。
いわゆる私は「空気を読む」ことをかなり重視するタイプ。そのため、傍若無人に振る舞い、自己主張が激しい人を見ると、自分とは合わないと思いつつも、眩しく思うことも・・・。周囲に嘘をつかない点で、私よりも誠実であり、正直で率直だと思っていたからです。
でもこの杏奈の言葉を読んで、心の中にずっとあったモヤモヤが少し晴れたような気がしました。私の行動も「皆とその時を楽しくすごしたい。」「誰かの発言で傷つく人がいないようにしたい。」という気持ちが多少なりとも入っているということに気づいたからです。(もちろん自分が嫌われたくないという思いが一番強いのですが。)
正直に自分の気持ちを話せることが一番良いという思いは変わりませんが、周囲を考えて発言したり行動したりできる自分も悪くないなと生まれて初めて思えたのです。
良い自分であろうと努力することは大切
このお話に出てくる登場人物は皆、拝み屋の活動でも、勉強でも、何事にも一生懸命で良い自分であろうと努力しています。学生時代の私は先生に反抗する度胸もなく、かといって勉強や部活に邁進することもなく、なんとも中途半端。
真面目であることがなんとなく格好悪いと思っていた自分。でもそんな自分が一番格好悪かったなぁと大人になった今気付きました。もちろんそういう気持ちを持つのも若さの特権だと思うので、一概に否定する気はありません。でも、もう一度学生時代をやり直せるのなら、このお話の登場人物たちのように真面目で真摯でありたい。
いやいや学生でなくても、今からでも頑張れるはず!そう思った私は、「できることから一つずつ、今すべきことに一生懸命になる。」ことを心がけるように・・・。
その結果何かが大きく変わったということはありませんが、ただ何気なく過ごしていた日々の中で、小さなことに意識が向けられるようになりました。
ただのルーティンワークだと思っていた仕事で新しい発見が出来たこと。
苦手にしていた人の意外な一面を知ったこと。
普段当たり前だと思っていた家族の行動の中にさりげない手助けや優しさを見つけられたこと。
目の前のことをとにかく頑張っているだけなのですが、自分の意識が変わるだけで、世界は少しずつでも確実に変わるのです。
だけど無理は禁物
「良い自分であるように努力しよう!」という気持ちとは正反対になってしまうように思いますが・・・。
小春の特別な力を上手に導くために、指南役として様々なアドバイスをする澪人。でも小春の家に居候をし、吉乃や宗次郎と生活を共にすることで、クソ真面目と言われてた自身の考え方が変わっていきます。
「・・・今までの僕は、『こうしたらええ』ということに囚われすぎていたと気付きました。ここで生活することで、それは危険なことやと気付いたんです。それがたとえ『良いこと』だとしても、何かに囚われてがんじがらめになるのは違てると。大事なんは、『自分の心が、いかに快適でいられるかということ』。まずは心を優先にすること。それが一番やと。」
ここで澪人は運気を上げるのに掃除をするのが良いけど、多大なストレスを感じながらするのなら、それは無意味と言っています。
掃除が苦手な私は「うんうん!そうよね!」と掃除をさぼる大義名分にしそうになりましたが、それはまた違う!
健康に良いけど苦手な食べ物を飲み込むように食べること。
駆け足で何か所もパワースポットをはしごすること。
物への愛着の気持ちを無視して無理に断捨離すること、また、家族に強要すること。
部屋をきれいにすることにこだわるあまり、少しでも汚すと怒ること。
良いと思うことをするのは大切だけど、行き過ぎて周囲を不快にさせたり、ただこなすだけになってしまっては、全く意味がないことですよね。
自分を高めるために、ちょっと無理するのは必要。でもそれが過ぎたり、気持ちが伴わないただのアクションになってしまっているのであれば、立ち止まって振り返るべきなのかもしれません。
自分が本当に欲しいものは何か?自分の思いだけでなく皆の思いも尊重できているか?
狭くなってしまいがちな視野を広げることを心掛け、自分の周りにあるたくさんの可能性を見つけ出し、皆が幸せになれる方法を模索する。これが大切なのかも。
終わりに
アラフィフの私が読んでも、考えさせられる部分や、心に残るフレーズがたくさんあるお話でした。
ただそれ以外でも、可愛らしい小物たちや美味しそうな和菓子たちもたくさん登場し、読んでいてとても楽しい!特に和菓子の描写がとても美味しそうで、実際にお店があったら絶対に買いに走っていただろうな・・・。
冒頭にも書きましたが、このお話は既に完結しています。でも2023年2月発売の「寺町三条のホームズ19巻」にこの拝み屋さんの澪人が登場するそう!
もちろん早速購入し、あとはユックリ読む時間を確保するだけ。準備万端です。
またこの拝み屋さんの世界にドップリ浸れることがとても楽しみ。
大好きな本との時間って何物にも代えがたいですよね。