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【二次創作】サラマンダーとルー・ガルー【ハトプリ映画】

(2011年4月11日、個人サイトより再掲)

「桜の下」


その国を訪れるのは、たしか二度目だった。
幼いころ、彼の赤い髪を遙か頭上に見ていたころ。
今、ふり返れば、その彼とまっすぐ視線が合う。彼は肩をすくめ、芝居がかった仕草で両手を広げてみせた。
「まさに花の都だな、ルー・ガルー。パリも真っ青だ」
春になれば、花が咲く。世界共通の現象だが、どんな花が開くかは千差万別。
どうやらこの国では、緑の葉ではなく花が芽吹くらしい、と思ってしまうほどに、その淡いピンクの並木は圧巻だった。もちろん新緑も眩しいけれど、この光景には言葉を失う。
「サクラを見るのは、初めてじゃあないだろ?」
「前に来たときは、秋だったから……」
そう答えながら、花の名を持つ戦士のことを思い出す。
「元気かな……」
彼女たちよりも幼かった自分が、今はもう大人なのだから、向こうも今は完全なレディだろう。もしかしたら結婚しているかもしれない、と考えて、少し妙な気分になる。
「ルー・ガルー?」
名を呼ばれて我に返った。少し先を歩く彼が、首をかしげている。あわてて駆け寄り、肩を並べた。
あたたかい春の風が吹き、満開の花の枝が重たげに揺れる。ぱらぱらと、こぼれるように花びらが舞い落ちる。その下を歩く人はだれも急いでいない。足を止めて眺める者も多い。皆がこの花を愛しているというのはきっと真実だ。
「きれいだね」
「……ああ」
思わず呟けば、意外なほど素直に同意されて少し驚く。横顔を盗み見ると、彼は微笑すら浮かべて桜並木を見上げていた。
妙に胸の奥がざわついて、目を逸らした。彼はたしかにここにいるのに、どうしてときどき、今にも消えてしまいそうに見えるのか。
水平線に沈みゆく夕陽、乾いた音を立てる枯れ葉の絨毯、陽光でとけていく淡雪……泣きたくなるくらいに美しくて儚い風景と、その中にいる彼の姿は、常に同じものとして記憶されている。
彼がいることを確かめたくて、その手を握ろうとする。たとえ振り払われたとしても、それが彼の存在する証拠だから。
指が触れそうになったとき、急にだれかの声が聞こえた。
「オリヴィエ……?」
それが自分の名前だと、どうして思ったのだろう。
でもなぜか疑わなかった。すばやくあたりを見まわす。その名前で呼ぶのは……
一車線の道の向こうに、若い女が立ちつくしている。頭上の花と同じ色のシフォンスカートが、風でふわりと揺れた。
「……つぼみ?」
道の向こうに、その声が届いたはずはないのに。
「やっぱり、オリヴィエなんですね!?」
彼女の笑顔が花みたいに開いた。ああ、あの顔を知っている。
「どうしたのさ」
「なに騒いでんの……」
前を歩いていた女二人が彼女に駆け寄ってくる。着ている服の感じも髪型も、あのころとはなにもかもちがう。小柄な彼女はコケティッシュで、ボーイッシュだった彼女は髪が長くなっていて……でもまちがいない。
思わず彼の手をつかんだ。
「ねえ、つぼみたちだよ!!」
「は? なんでプリキュアが……」
返ってきたのは怪訝そうな声と表情だったけれど、そんなことを気にしている余裕はない。もどかしくて、その手を引く。
「おい……」
車が途切れたのを見て走り出した。
「早く、父さん!」
ピンク色の並木の下で、自然と笑みがこぼれる。
花の都……それがどこだっていい、花が巡り合わせてくれる場所。この場所で、きみたちに伝えたい。
おれは今も、大切な人といっしょだよ。


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初めて見たプリキュアでした。

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