【二次創作】文秀と灘【新暗行御史】
(2008年9月5日、個人サイトより再掲)
煙草
口元を、長い指がかすめた。
くわえたばかりの煙草が、唇から離れていく。
「おまえ……」
「最後の一本、部下に取られちまったんですよ」
文句を言おうとして、その横顔に目を走らせたとたん、なにも言えなくなった。
息絶える仲間に、最後の一服を。戦場ではよくある光景だ。
今、眼前に広がる凄惨な景色の中にも、うんざりするくらい転がっているだろう。
「……………」
煙草をゆくらせる灘は、さまざまな感情を押し殺して苦笑を浮かべている。
文秀は苛々と長い髪をかきまわした。戦いに勝利したからといって、この痛みに慣れることなどない。
「……ふん!」
灘の唇から煙草を奪い返す。
「将軍……」
呆けた顔でこちらを見るのも、彼らしくない。
「おまえが死んでも、煙草はやらねえぞ。自分で取りにこい」
彼は隻眼を見開いてから、再び苦く笑った。
「ずるいですねえ……」
言われたら言い返す、それが二人の身分を超えた気安さだった。
だが今は。
「将軍が死んだら、なんて俺に言えるわけないでしょうが……」
絶対無敵の軍隊を率いる大将軍。その死は、国の滅亡を意味する。仮定でも思ってはいけないことなのだ。
「言ってるじゃねえか」
文秀はせせら笑いながらも、それが絶対的な事実であることを知っていた。
死ぬのは自分より灘が先なのだ。灘だけではない、全ての兵士が息絶えても、この自分は倒れてはならない。
それを避けたければこの戦いに完全勝利すること。
「てめぇに恵んでもらう機会なんぞ、永久にねえから安心しろ」
灘はひとつしかない目を細めた。
「わかってますよ」
紫煙は風に乗って流れ、死体を焼く煙に混じって空へと昇っていった。
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アニメでは灘は出てないんですけども大塚明夫っぽいイメージです。
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