旅行記|カタールの砂漠の真ん中でエンストして絶望する
カタール現地で働いている友人がイラク人の旦那さんと結婚するということでお祝いに行った。
飛行機の離陸時間が早まって成田空港を爆走したり、エコノミーで隣の人にもたれかかられてあまり寝られていない上、金曜の仕事を終えてからのカタールだったので、友人と会う時はもうすでに満身創痍だった。
友人カップルに「結婚おめでとう」を伝えてプレゼントを渡す。
江戸切子のペアのグラスにした。
超慎重に持ってきた逸品である。
「エキゾチック!日本!」と旦那様が喜んでくれたので良しとする。
ガラスが割れたら一大事だと思って、乱気流の時は抱きかかえていた努力が報われた瞬間である。
「今日はエスコートさせてね」
「ありがとう」
「どこ行くの?」
「砂漠だよ」
この時は、ジープのようなもので砂漠を観光すると思っていた。
しかし、砂漠に着くと、「じゃあ3台貸してね」と友人の旦那さんがバギー屋さんに交渉していた。
「え?」
「砂漠の醍醐味って自分で運転することっしょ」
私は自転車に乗ることが出来ない。
小学校2年間+中学2年間+社会人1年間練習した結果、電柱に激突して自転車が壊れるといったことが二回あったため断念した。
そして、当時は免許も持っていなかった。
つまり、アクセルとブレーキを概念上でしか知らないのである。
結果、ブレーキとアクセルを両方回すといった暴挙に出たり、
アクセルが加減で着なくて友人夫婦よりはるか先まで暴走したり、
そして、極めつけは砂漠の真ん中でエンストをした。
友人の旦那さんが、借りたバギーの主に対して「エンストした」「やばい」「どうしたらいい」「このまま置いていくか」など英語を話しているのを、身を小さくして聞いていた。
そして何度目かのアクセルの時、ようやくバギーは答えてくれた。
クララが立った!レベルの歓喜だったと思う。
だって、四方八方を見ても砂漠か海しか見えず、バギー屋からはもう遠いところまで来ており、バギーは二人乗りの設計になっていないのである。
これは死か?みたいに気が遠くなっていた。
砂が目に染みて涙が出た。
その後四苦八苦しながら、もうどこまで来たか分からないくらい遠くに来た。
ちなみに今考えればよく帰ることが出来たものである。
道しるべなんてないから、なんとなくしか戻れなかったはずなのに。
友人と友人の旦那さんは、合流前にスーパーでBBQの肉や野菜を買ってきてくれたらしい。
「で、機材は?」
一か月前に使ったけれど洗われていない網とトングを出された。
「海水で洗えば大丈夫だよ」
「お腹痛くなったらごめんね」
友人はどうにもカタールで衛生管理についておおらかになったようである。
「で、火は?」
海水で洗った器具を横目に聞いた。
「あ、忘れた」
その後、偶然にも砂漠をジープで走っている車を見つけ、ヒッチハイクよろしく車を止めてライターを借りることが出来た。
奇跡がそろいすぎている。
生肉をかじっていたとしてもおかしくないシチュエーションだった。
砂漠は美しかった。
はてもない砂の地は壮観だった。
海も淡い水色が広がっていて、この世の楽園だった。
ラム肉も美味しく、旦那さんがドーハに二店舗しかない酒屋で買ってきてくれた冷えたビールもこの上なく喉に染みた。
ちなみに、帰りも一度エンストした。
美しさより「やばかったぜ」が記憶に残る旅であった。