清水、井林の2失点目の原因。鳥栖のリバプール式コースカットプレス
2022年7月31日 J1リーグ第23節
J1今節唯一の日曜日開催、清水にとっては、北川・乾・ヤゴピカチュウといった夏の大型補強を行うなど、注目の集まる試合だった。
結果としては、3-3のドローだった。
前(0-2)
後(3-1)
そして、この試合はスタジアムの雰囲気・熱気が異様だった。
この試合の走行距離は、真夏なのにも関わらず、清水が119.552㎞で鳥栖が122.329㎞であった。
この数値は、今節のJ1の試合の中で、ダントツの一位である。
(札幌108.824㎞ 名古屋110.211㎞)
(磐田107.005㎞ 湘南108.502㎞)
(浦和106.894㎞ 川崎99.786㎞)
(横浜FM109.202㎞ 鹿島106.443㎞)
(G大阪107.488㎞ 京都104.625㎞)
(C大阪107.808㎞ 福岡105.739㎞)
(神戸112.714㎞ 柏113.346㎞)
(広島108.708㎞ FC東京109.734㎞)
スタジアムの拍手・声援が選手の足を動かしたといっても不思議ではないだろう。
さて、ここからが本題。
後半のスタジアムの熱気、選手たちの気迫はもちろんだが、特に気になったのは、前半の鳥栖の守備・選手の攻撃時の立ち位置、清水のビルドアップである。
鳥栖のリバプール式コースカットプレス
前半
鳥栖の守備時フォーメーションは4-2-1-3
清水の攻撃時のフォーメーションは4-1-2-3からの3-4-3可変である。
清水の二失点目のシーン。
鳥栖は、清水の3-4-3可変に合わせてプレスをかけてきた。
トップに入った宮代が井林→ヴァウド間のパスコースを消しながら、プレス。
右サイドに入った長沼が井林→山原間のコースを消しながらプレス。
そうすることで井林のパスコースを消しながら、2人で3人をみることができ、逆サイドへの展開も防いだ。
そして、アンカーの松岡に対しては森谷がほぼマンマーク。
清水の両インサイドハーフの選手には、小泉・福田がマーク。
CBの田代とソッコはサンタナを見つつ、GKの朴と共に、サイドバック裏・ディフェンスラインの裏をカバー。
こうして、清水の選手に対して、前向きでボールを受けさせないということを徹底した。
鳥栖は、ビルドアップ能力の低い清水のCBに対して、コースカットプレスという理論的なハイプレスをかけ、ボールを奪取し、二点目を取るという最高の結果を出した。
もちろん、ほぼマンマークともいえ、突破された場合には、長い距離ランニングしなければならない。ショートカウンターにつなげやすい攻撃的な守備で、かなりの運動量が必要になる。
清水のCBの選手のようにビルドアップに長けた足元の技術に自信のないプレーヤーに対しては、ハイプレスをかけると焦りからミスが生じるなど特に、上手くいった場合は良いプレスの形になる。
前半は、ほぼ鳥栖がペースを握り、2-0で終了した。
後半
疲れや清水の選手交代、交代によるスタジアムの雰囲気など、様々な影響によりだんだんと清水にペースが移っていく。
真夏に両チームの平均走行距離が120㎞という試合で、鳥栖は、前半と同じようにプレスをかけ、ボールの奪取を狙うが、暑さのせいもあり、少しずつ足が止まる。
さらに、途中出場の選手は、スタメンの選手に比べて、コースカットプレスが甘く見えた。
そして、2点差を守り切れず、3点目を取ったが、それも追いつかれドローとなった。
しかし、これは前節の横浜FMでも同じことが起こっていた。
リードを守り切り、試合終了間際の時間帯をうまく進められるかが重要になってきそうだ。
(補足)20-21シーズン リバプール式プレス
そして、この鳥栖のプレスのかけ方は、20-21シーズンのリバプールの守備に似ている。
CFのフィルミーノは、相手CB→アンカー間のコースを消しながらCBに対して牽制。
右ウイングのサラー、左ウイングのマネは、相手CBからSB間のコースを消しながらCBに対してプレス。
相手の中盤にボールが入った時は、リバプールの中盤がプレスをかけ、後ろ向きでボールを受けさせ、前を向かせない。
SBも中盤と同様である。
CBは、自分のサイドのSB裏をカバーする。
このプレスは、カバーリングの意識が選手全員に浸透していることが重要である。各選手がチームメイトの動きを把握しつつ、強度高くプレスをかけることは容易ではない。
しかし、理論上、これが90分行えるなら良いプレッシングの方法になるかもしれない。
清水のビルドアップの整理
前半
清水は、鳥栖のプレスに対して、解決策を見い出せずにいた。
選手それぞれの距離が遠く、パスを通すには、強く速いパスでなければ途中でカットされてしまう。
前半、白崎がヴァウドに対して、開けとジェスチャーと交え、指示していた。
白崎からすると、足元の技術がそこまで高くない井林がボールを持たされ、ヴァウドが近くにいると、より鳥栖のプレスにはまり、ゴールに近い場所で失いやすくなると思ったのだろうか。
清水は、この試合の前半ほとんどロングボールを意図的には使用していなかった。
ビルドアップ能力の高くないCB、GKがいるのにもかかわらず、パスを繋いでいくというコンセプトを徹底した。
適当に前線の選手にロングボールを放り込む「縦ポン」などという言葉もあるせいか、どこかロングボールがあまりよくないもののようになっているような気がする。
しかし、目的をもってロングボールを使うことは悪ではない。
この試合の清水は、ゴールを奪うという目的のためにボールを繋いでいるのではなく、ボールを繋いでいくこと自体が目的になっているように感じた。
試合を行う上での目的は、相手よりも得点を取り、相手に勝つことである。
この試合で、ロングボールを選択することは良い策であったように思えた。
なぜなら、鳥栖がハイプレスをかけてくるということは、中盤とディフェンスラインの間にスペースが生まれやすい。
鳥栖のCBはサンタナを見ているため、サンタナが立ち位置を上げ、ディフェンスラインを押し下げる。
そして、ボールが出てくる瞬間に降りてくるなどをすれば、鳥栖のCBは中盤が競り合うのか、CBが競り合うべきかという迷いが生じる可能性がある。
ロングボールを利用し、サンタナが競って、ボールがこぼれたのをインサイドハーフやサイドハーフが拾うといった、セカンドボールの奪取を得点の手段とするという方法もある。
下から繋ぐことを徹底した清水だったが、上手くいかずに、前半を0-2で折り返した。
後半
後半の清水は、選手交代によりビルドアップの形が変わった。
前半は山原が残り、片山が上がる形の3バックをとっていた。
しかし、後半は、山原が上がり、片山の上がりが抑えめになっていた。
これが起きた要因は、選手の特性にある。
前半、山原と縦のコンビをとっていた後藤は、基本的に外でボールを受けるタイプの選手である。一方、山原も内でプレーするというよりは、外でプレーするタイプの選手である。
山原と後藤の特性(外でプレーする)がかぶってしまい、山原が内側をとっていた。
右サイドは、ピカチュウが内側に入ることで、片山が外の高いポジションをとるという流れがスムースであった。
個人的には、片山は内でプレーした方が良いと思うが、外でも普通に良いプレーできる。監督からしたら、縦のコンビを組ませる選手に合わせて変えられるため、使い勝手がいい。
山原の攻撃のポテンシャルを活かすには、片山が下がって山原が上がる左肩上がりの3-4-3が期待できる。
なぜなら、この試合に限ったことではないが、この試合で山原のクロスからの得点が2つあることがなによりの根拠である。
内と外を使い分けられる乾が左サイドに入ったことで、山原が上がるスペースができた。
右に入ったカルリーニョスも内と外でボールを受けられるタイプの選手だが、外で受けることがより得意なように見える。そのため片山が内に入り、下がり目のポジションをとっていた。
そして、ヴァウドは数か月ぶりの復帰戦がこのようなインテンシティの高い試合だったことは少し不運に思えた。
ヴァウドに変わった原は降りてきた選手に縦パスを通すなど、いつも通り良いプレーを見せてくれた。
なによりも、北側の復帰戦ということもあり、何かが起きそうなスタジアムの雰囲気は圧巻だった。
選手の特性に合わせた配置の大切さ、サポーターの応援の持つ力を再び感じることができた日になった。
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