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SHIROが手掛ける「ホテルプロジェクト」のお金を公開する

キャッシュアウト寸前のホテルをSHIROが引き受ける形で始まった、「砂川パークホテル」のリニューアルプロジェクト。実際、リニューアルにはどれだけの費用がかかり、回収の見込みはあるのでしょうか? SHIRO会長の今井浩恵とSHIRO社長の福永敬弘が、他では聞けないリアルなお金事情を赤裸々に語ります。


年間6000万円の赤字ホテル

──まちづくりや企業再建というと聞こえは良いですが、お金の話抜きには語れません。砂川パークホテルのリニューアルプロジェクトは、どのようなお金の回り方をしているのでしょう。

今井:本当のところを聞いたら、「うわあ、リスクが大きすぎる!」と思われるかもしれません。でも、本業で稼いだお金で税金を払うよりも、まちづくりにお金を使っていった方が良いというのが私の考えです。

今日はそのあたりを、隠すことなくお伝えします。

──まず砂川パークホテルは、2022年6月に「事業譲渡」されています。株式取得のお金はかかっていないのでしょうか。

福永:はい、無償譲渡です。当初は、株主さんも少しばかり値段をつけたいという意向があったのですが、資金繰りに困っているような状況のパークホテルを引き取るだけでも大変だったので、無償にさせていただきました。

ホテルの経営状況は、今も厳しい。譲渡される前の2021年が6000万円の赤字。翌2022年も同じく、6000万円の赤字でした。月にしてだいたい500万円の赤字です。
年間売上は1億4000万円程度で、コスト構造を踏まえると現状の仕組みでは黒字化は極めて困難です。

事業譲渡後に経営体質を筋肉質にしたのですが、それでも2024年度の赤字額は4000万円を見込んでいます。

しかも、2026年初からは本格的な改装に入って休業するので、その間の売上はゼロ。もちろん、赤字額は膨らみます。

──無償譲渡を受けてからリニューアルするまで、赤字を補填するために必要な金額はどれぐらいになるのですか?

福永: 3億2000万円ぐらいです。初年度の赤字額は6000万円でしたが、キャッシュが回っていなかったので、株式譲渡が完了してすぐに、1億円資金注入しました。

これに加えて、建築費がかかります。現時点での見積もり額は27億円。ホテルの改装で20億円強、隣接するサービス付き高齢者向け住宅を新築する費用を含めると、7億円プラスされます。

建設費が高騰しているので、27億円で収まるかは不透明です。赤字補填のために投入した運転資金を含めると、総額で30億円の投資になる予定です。

──これだけの金額がかかることは、事業譲渡前からわかっていたのですか?

今井:いえ、そこまでは考えていませんでした。

まずはパークホテルを引き継ぐことの意義、意味を考えた。そこで「やる意義がある」と思えることが大切で、お金の話は事業譲渡を受けてから考え始めました。

福永:パークホテルを引き継ぐことで得られる経済合理性までは、何も考えていませんでしたね。そこはもう使命感みたいなところだけです。

今井:それに、福永は入社2~3年目に、「shiro hotel」という商標を登録したことがあることを思い出して、「あれ、この人もしかしてホテルをやりたかったのかな?」と思い、SHIROとして取り組むことを決めました。

「数カ月分の利益」を放出するだけ

今井:福永はすごく真面目だから、最初の1年ぐらいは、「SHIROのお金をホテルに使うのはおかしいんじゃないか?」とずっと言っていました。

でも私は「いいことに使うなら、別にいいんじゃないの?」と。建て替えでもリニューアルでも本気でやったほうがいいと言っていたのです。きっと、このホテルはまちのハブになるはずだから。

福永:僕は、「SHIROと区別して考えたい」という考えはありました。言葉は悪いのですが、SHIROとホテル、最終的にどちらを守るかというと「絶対にSHIROを守る」と思っていたので。

SHIROのお金と分けたかったのは、「30億円を回収しなければいけない」という意識が強かったことがあります。SHIROで得た利益を投資に回しているわけですから、ホテルでそれを失うわけにはいかないと思っていた。回収できないかもしれないものをつくるわけにはいかない、と。

今井:もちろん、赤字は許容できません。リニューアルしてからも赤字が続くようであれば、それはSHIROの経営にとってマイナスですから。

でも、初期投資だけであれば、究極的には収支がトントンでも、社会のためになっている事業であれば、やる意味はあると思っています。

福永:誰かに投資いただいているわけでもないし、出資いただいているわけでもない。「SHIROの利益を放出するだけか」と思えたことで、気持ちは楽になりました。
 
今井:そうそう、これは微々たるものです。

だから回収できるかどうかなんて悩む必要はない。それに、回収しようとするなら、その投資額を生み出せるだけの仕組みをつくればいい。

「赤字」には絶対ならない

──赤字のホテルをどう利益体質にしていくのでしょうか。

今井:今までのように、宿泊と宴会場、レストランの運営だけでは無理です。

福永:今の宿泊料は1泊6800円。これは砂川という立地を差し引いても安すぎます。客室を改装することで、金額を倍ぐらいに上げたいと考えています。

とはいえ、稼働する部屋数は24室から変わらないので、うまくいっても客室の売上は倍増止まりです。

宴会場はそんなに売上を見込めるものではありませんし、レストランも座席数に限りがあるので、いわゆるホテル3事業では限界があります。

今井:だから重要になってくるのが、その3つ以外のことをすること。

福永:そうすることで、今の年商は1億4000万円ですが、初年度の2027年6月期の年商は3億8000万円に達する見込みです。投資金額を全額回収する絵はまだ描けていないのでが、利益を出すことだけなら、初年度に出せるメドがたちました。

今井:絶対に利益は出ますよ。

──具体的に、ホテル3事業以外で何をするのでしょうか。

今井:どんな集客装置をホテルにつくれるかにかかっています。

「みんなの工場」にあるフレグランスのものづくりが体験できる“ブレンダーラボ”はその一例ですね。砂川パークホテルの鍵を握るのは、ホテル内に設置するSHIROのアウトレットショップです。

福永: 今も、「みんなの工場」のショップは年間10億円ぐらい売り上げています。

その店と違う製品を置けば、パークホテルのアウトレットショップは「みんなの工場」の3~4割は十分売れるでしょうし、5割売れても不思議じゃない。そうすると全体で4億という数字はまったく非現実な数字ではありません。

今井:同じ砂川にあるお店で、かたや売上10億円で、かたや売上2億円ということは考えられません。だからショップだけで年間2億円以上は絶対に達成できると思うのです。

さらに、温浴施設やサウナ、サ高住など、ソフトの部分をたくさん用意していて、そちらも期待できます。

福永:18室あるサ高住の稼働率が上がったり、客室の稼働率が上がったりというのを積み上げていくと、さらに売上は上がります。

年間3億8000万円の売上だと、利益は数千万円にも達しません(1億円程度の減価償却後)が、売上が上げれば、利益額も増えていきます。

今井:ホテル以外にも、「みんなの工場」との相乗効果で、砂川のまちに人が回遊することも考えられるので、見えないことがいっぱい出てくると思うのです。移住者が増えて、店ができて、人が増えていけば、今は想像もできないような事が起こるんじゃないかって。

福永:そうなれば、いつかは30億円を回収できるのではないかと思っています。

──事業再生プロジェクトは緻密な数字計画があるイメージでしたが、割とざっくりとした感覚で進めているのですね。

今井:でも、これくらいで良いと思います。利益は預かりものですから。

売上が下がっていく中で苦しみながらの投資ならともかく、本業は順調です。そもそも、緻密に数値計画を作っても、その通りにはならないし、良くも悪くも想定外のことが起きるはず。

想定外が起きないと面白くないので、ざっくり「大丈夫そう」ということがわかれば、あとはいかに中身を整えられるかに時間を割く方が、絶対に良いものができます。

──それにしても、本当に数字のことをあけすけに話していただけるとは思いませんでした。

今井:公開しても誰にご迷惑をおかけするわけでもなく、特に隠すことではないと思っています。

数字があることで、Podcastのリスナーさんやnoteを読んでくださる方、これからプロジェクトに挑戦される方の解像度が上がるのであれば、出しても構わない。そんなシンプルな感覚です。

プロジェクトの「唯一の懸念点」

──このプロジェクトで福永さんが一番心配していることは何ですか?

福永:やっぱり「人」ですね。

「みんなの工場」も、開業から1年半が経ち、構想から含めると結構な年数が経つのですが、年間30数万人の方にお越しいただいても、働き手の採用は簡単ではありません。

パークホテルでは、アウトレットショップやレストラン、温浴施設などで、40人ほどの従業員を見込んでいます。でも、素晴らしいサービスを提供できる人を工面するのは、料理人の方を含めて難易度が高い。もちろん機械で対応できる話でもないので、そこは少し不安ですね。

今井:「みんなの工場」ですら人が足りなくて欠品が続いて、ものがつくれていない状態なのに、さらにホテルでも集めようというのだから大変ですよね。

でも、砂川市の人口が1万5000人しかいないからといって、それを言い訳にしてはいけないと思っています。人手不足は、今や日本全国どこでも一緒ですよね。

──SHIROで働きたい人は多くても、「砂川市に住んでください」というと、ハードルがぐっと上がる印象です。

福永:実は砂川市に移住してもらうよりも、砂川近隣に住んでいる方にSHIROで働いてもらうことの難易度の方が高いのです。

というのも、近隣の方は、動機が「SHIROだから働きたい」ではなく、「近いから」「時給が高いから」ということが多いのです。

今井:コンビニ、最寄りのユニクロ、そしてSHIROの「みんなの工場」で迷っているという感覚です。

もちろんどの仕事も素晴らしいのですが、できれば「SHIROで働きたい」という方に関わってほしいのが本音です。

福永:だから、「家から近いから応募した」と言われたら、採用に二の足を踏んでしまいますね。

その他に大きな不安材料があるかというと、今のところは計画を頓挫させるようなものはありません。

今井:建築費が高騰したとしても、税金を払うよりは良いですからね。

福永:まあ…現在の30億円から40億円になったら大きいですけど(苦笑)、だからといって白紙に戻す話ではないと思います。

──パークホテルのプロジェクトは、SHIROがこれまで手がけてきたプロジェクトのなかで、投資額としても過去最大ですか?

福永:「みんなの工場」がちょうど13億5000万円だったので、その倍ですね。

投資総額でいうと、イギリスも利益が出ていないまま赤字が積み上がってものすごい額になっています。出店して丸8年ですが、売上が家賃を超えた月が3回しかありませんから。累積投資額でいうと10億円を超えています。

今井:イギリスは、1回も利益が出たことがないのです。

先日、ロンドンに行って店長会をした時に、「あれ?気づいたら赤字額が10億円も超えている!」という話になりました。

福永:なんかもう…1回引いてもいいんじゃないかと思えてきますね。

今井:でもやっぱり「引く」と決めるのは嫌だなぁ。

福永:はい。いつも、こういう会話になるのです。

だから、僕らは引かないと思いますけど…。自分たちに火をつけなきゃダメだなと。理屈ではなく、こんな感じで意思決定をしています。

今井:企業の成功ストーリーはいろんなメディアで見られるけど、こういうお金の話や失敗の話はほとんどありません。

でも、どんな会社やプロジェクトでも、裏側ではこういうことが起きています。もっと失敗を語っていけたら良いなと思います。

(編集サポート:泉秀一、杉山直隆、バナーデザイン:3KG 佐々木信)

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