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ポカール準決勝バイエルンvsフランクフルト
普段この2チームを追いかけているわけではないんですが、自分なりの試合の分析、そして感想を書いていこうと思います。サッカーはそんなに単純化して語れるものではないことは重々承知しているつもりですが、何かを語るためには一定の枠組みにはめざるを得ませんし、何よりすごく楽しい作業ですので。
それでは参ります。まずは前半から。主に、というかほとんど全てが、バイエルンのボールポゼッション局面でした。両チームの配置は、概ね以下の感じです。一方のフランクフルトは、5-3-2の守備陣形で相対します。結論から言うと、フランクフルトのこの守備は上手くいきませんでした。なぜなのか、これから両チームのやり方を見ながら考えていきましょう。
まずはフランクフルトの守備方法から。まずは、2トップのうちアンドレシウバが、ボールを持っているCBに対して中央から斜めに寄せます。2トップのもう一方、ガチノビッチはボールサイドのボランチ、特にキミッヒを捕まえたところからスタートします。2枚のIHとアンカーは中央のエリアを閉じつつ、2トップの脇のところにボールが出たタイミングでスライドして寄せます(主に相手SBに対して)。それに合わせてもちろんDFラインもスライドして、ライン間のトップ下あたりを捕まえる。おそらくはそんな意図だったように思います。5-3-2のよくあるパターンです。しかし、この意図はほとんど実現せぬままでした。その理由は、相手がバイエルンだからです。具体的に述べるなら、3つに分けられると思います。
1つ目は、いいボールを蹴れる相手CBの前を空けてしまったことです。アンドレシウバ1人で2人(プラスGK)を追うのは限界があります。一応ガチノビッチがキミッヒを隠しながらCBに寄せたりもするんですが、キミッヒの動き直しにマークの受け渡しが間に合わなかったり、GKを使われてやり直されたり、あっさり無に帰することがほとんどでした。こうしてCB、しかもアラバとボアテングの前が空くと、どこにでもボールが出てきます。狙い澄ました正確なやつが、特にアラバから出てきます。中央を通されるのが怖い分トップ脇へのIHのアプローチは遅れます。そしてフランクフルトのラインは決して低くなかったので、裏を狙われることも多かったです。特にバイエルンのSBにフランクフルトのWBがかなり早めに出るようになってから、左右サイドの裏にばんばんボールが入り、危険の連続でした。CBは一番その場から離れづらいポジションなので、WBが出るためには必ずボールにプレッシャーがすでにかかっている必要がありますが、そこに不徹底が見られました。
2つ目は、バイエルンの選手のポジション移動に惑わされたことです。これは1つ目の問題、相手CBの前が空いているということと相まって、大きなダメージになりました。基本的に守備側は、ボール保持者がフリーだと動きづらいです。もしうかうか相手についていった場合、自分がいたスペースに別の選手に走り込まれ、そこにタイミングよく狙いすましてボールを出されると、大ピンチになります。別の選手には別の味方選手、マークの担当者がついていけばいいっていうのもあるんですが、ボールがオープンな時点でDFは受動的についていくことになるので、大概間に合いません。ということで、ボール保持者の前が空いていると、守備側はひとまず中央、そしてゴール前のエリアを埋めるところから始めることを強いられます。これが上手くできればいいんです。ただ、フランクフルトはラインも低くないですし、これが上手くいきませんでした。相手のポジション移動についていくか、それとも裏を守るために受け渡したり狭くしたりするか、という判断がチームで揃いませんでした。結果、アンカーの脇やサイドの裏で余裕を持って受けられるシーンが相次ぎました。バイエルンのこのポジション移動は、バリエーションが豊富かつ巧みで、上から見ていてもなかなか読みづらいものでした。SBが大外に進出、SHが中に入ってカバーは逆SBないしボランチが入るってくらいならわかるんですが、CBが隙を見てそのまま前進して突っ込んだり、トップ下とトップ、SHが適宜入れ替わったりが頻繁に、スムーズに行われていました。また特筆すべきはリスク管理で、後ろの選手が持ち上がったときに入れ替わって下がる動きが、他のチームよりもかなり丁寧であると感じました。これにフランクフルトは苦しみました。
最後に3点目、バイエルンのサイドチェンジ能力です。5-3-2の中盤3枚がスライドした逆サイドというのは、システム上の泣き所ですが、なかなかメカニックにサイドチェンジできるチームはありません。ところがバイエルンはあっさり開始間も無くこれを危なげなくやれてしまいます。パバールの保持時のプレー選択はあまりよくないものも結構ありましたが、サイドチェンジはバシッとしてました。これはフランクフルトにとって非常に苦しいです。この問題も1つ目の問題と関連していて、CBが空くからトップ脇に寄せきれず、サイドチェンジの余裕を与えてしまっているわけであります。区分の仕方は難しいですが、ひとまず僕の所感としては、ボール保持者へのプレッシャーが甘いことと、ライン設定含めたチームの意思共有を欠いた結果、これら種々の問題が生じたということになります。
これらの問題の時系列的なもう一歩先を書いておくと、フランクフルトDFラインは裏を取られます。序盤は左サイドのペリシッチ、だんだん右サイドのコマンがサイドの裏を取っていきました。またライン間にボールが入った時のアタッカーの裏狙いも、非常に鋭いものでした。得点シーンはGKがフリーでボールを持ったところから生まれました。早めに出てきたチャンドラーの背後のコマンへノイアーからボールが入ります。コマンはCBのエンディカから逃げながらカットインして前を向き、裏に走ったレバンドフスキへパス、ミュラーに落として、前を向いたミュラーからゴール前に走り込むペリシッチへ。ボール保持者が前を向いた状態での裏狙いがどれほど怖いものか、痛感させられるシーンです。だからこそ、この場面で言えば、蹴れるノイアーがノープレッシャーに状況においてチャンドラーが出すぎてはダメなのです。理想はまず背後と中を埋めてから、ボールの移動中に適切な距離感で受け手の選手に寄せることです。埋める、適切な距離感の度合いは相手の技術レベルやその時の状況に大きく依存するので、そんな簡単に言えることではないんですが、一応原則であることは確かです。
数は少なかったですが、フランクフルトの攻撃にも触れておきましょう。バイエルンが同数でプレスに来ていたというのもありますが、基本は素早い攻めが中心です。アンドレシウバ等中央の選手に収めて相手を集める。IHやアンカーに落とす間に両WBがオーバーラップ、外に展開、という形です。これは再現性が高いものでした。ただ、思うようにチャンスは作れませんでした。バイエルンは、中央に入るボールにはまずブロックの横幅を狭めて対応、外に展開されるタイミングでうまくラインを下げて時間を稼ぎ、クロスを上げる選手のえぐるドリブルを許さず、クロスのコースを限定しました。また、フランクフルトは守備局面でだんだんラインを下げるようになり、それ自体は合理的な行動ですが、その反面としてカウンターがーを打づらくなりました。守備をするエリアがゴールに近ければ近いほど、選手の距離感は狭まり、振り回されるのが通常です。その分FWは孤立し、奪った後の一本目のパスを収める段階で苦労します。陣地回復できません。
以上、前半はバイエルンが圧倒する内容で終了します。ただ、点差は1点です。ひょっとしたらヒュッター監督は、やや守備に無理があることを自覚しつつ、筋の通ったベタ引きやガンガンプレスよりも、個別具体的な期待値計算の上で勝算があったのかもしれないなとも考えました。例えばたくさんピンチを作られたとしてもエリア内でギリギリ防ぐ自信があったとか、多くはないけれども敵陣で奪ってカウンターが打てる確率を高く見積もったであるとかです。穴があるからと言って必ず突かれるスポーツでもないですし、相手のミスもありますから、これ自体は合理的な考え方です。これはカップ戦の一発勝負であり、後半に策があると言ったようなことであれば、十分あり得ます。ただ、この試合では誤算でした。不徹底な守備から高い位置で奪えたというシーンはなく、無人のゴール状態で座して死を待つべしというシーンは2回ありました。このように、チームがとった方法は監督の方針どおりだったが、その根拠となった確率計算に誤りがあったのか。それとも、そもそも監督の思い描いたものとチームがやっていたことがずれていたのか。失敗の原因は不明確ですが、前半の内容はおそらくチームの理想からは外れており、1失点で済んだのが僥倖であった。フランクフルトからすれば、計算通りではない前半だったと思われます。このままでは勝てないことは確かです。
そこで後半、フランクフルトは明確に手を変えてきました。前の選手がボールにプレッシャーをかけ、それに連動して後ろの選手が人を捕まえに出るようになりました。これは筋の通った守備です。積極的にエネルギーを使う分、信頼と勇気が必要ですが、これがはまりました。前半は相手のボールホルダーがどこに出すかわからない状態で、受動的に守らざるをえず、置いて行かれましたが、後半は違います。プレッシャーを主体的にかけ、相手のパスコースを読み、そこにボールを誘導しながら奪うことができるようになりました。これにより高い位置に留まって守り、前向きでボールを奪うことができます。これがしっかり機能します。対するバイエルンは、マンツーマンプレス受けても個人でプレスを外し、起点になれるチアゴを投入し、安定したボール保持を確保しようとします。チアゴはこの役割をしっかりと果たしますが、それでもチーム全体としては窮屈な時間帯が続きます。フランクフルトは、時折ふっとプレスが消えて無防備になることもありましたが、なんとかDFラインの踏ん張りで耐えました。こうした守備の改善は、攻撃にもプラスに作用します。狙った形で奪えれば、選手それぞれの頭の中にあるポジションに味方の選手がいます。しかも一体としてブロックを作ってスライドした後なので、選手間の距離も整っています。フランクフルトの得意な、縦つけて落として外、サイドチェンジが効きます。ここで鎌田投入です。縦パスを前につけられる状況で、ライン間で相手を器用に引き付けられる鎌田が生きました。相手の同数プレスをかわしてエンディカから中盤脇の鎌田へ、DFラインを絞らせてから外のチャンドラー、折り返して最後はダコスタで同点です。最終的には、フランクフルトは自陣の守備で、セカンドボールを拾われたところから相手選手にアタックするタイミングが合わず、勝ち越しを許しましたが、フランクフルトの後半の修正は見事だったと言えます。
以上、フルタイムのスコアは2-1、バイエルンの勝利に終わりました。多分僕の気付いていない戦術的駆け引きがたくさんありそうですが、それはさておいて、両者のプレーぶりがとても楽しい試合でした。勝因敗因を論じるにはわからないことが多すぎますが、バイエルンのビルドアップの丁寧さ、配給の質、対するフランクフルトの前半の守備の不徹底、というところは挙げておきたいと思います。そういう意味では、バイエルンは前半で2、3点リードを奪うべきだったと言えます。フランクフルトの方は、後半の守備を前半からやるとおそらく道半ばで力尽きます。そこで改善するとすれば、前半のライン設定、人につくタイミングのところだと思います。相手CBに対するプレスのかかり方でマークの段階を変えること、まずはスペースを埋めるという意識がやや欠けていたように思います。
これからもっと勉強して、こういう試合を見た時にもっと多くのことに気が付いて、多くのことを学べるようになりたいです。そして伝えられるようになりたいです。面白い試合でした。