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農地を守る強力ツール電気柵を使いこなせ!!実力はいかに!?(1/2)#11

こんにちは。
私は道東を活動拠点に野生動物対策に取り組んでいます。

今日の話は、 "電気柵” の効果についてです。
「電気柵は効果ない!」と言う人もいますが、それは張り方に問題があるから、もしくは運用の仕方に問題があるからです。
電気柵は侵入防止に高い効果を発揮する!、しかもその効果は継続する、電気柵の普及に20年取り組んできた私の実感です。
対策ツールとしての電気柵を使いこなして、仕事の成果をあげましょう!

強い電気ショックを与える電気柵

電気柵(でんきさく)は、動物の侵入や逃走を防ぐために設置される柵で、通電させたライン(ワイヤー)を使います。家畜や野生動物の行動を制御するために利用され、適切に設置・運用すれば、動物に大きなダメージを与えることなく、電気ショックで行動を制御します。

野生動物対策の現場では、ナイロンに電線を編み込んだ直径4㎜ほどのラインを木製やグラスファイバー製のポールに架設、対象動物に応じて2~5段で電気柵を設置するパターンが一般的です。農地や住宅地の周囲に設置、野生動物の侵入を防止するために使用されます。

ヒグマの侵入防止のために設置した3段張りの電気柵
電源はソーラーパネル、プラスチックボックス内にパワーユニット
クマが白いライン触れると電気が流れる仕組み

電気柵は、電源(通常はバッテリー&ソーラーパネル、家庭用電源)につながったパワーユニット、設置されたアース、ラインとポールで構成されます。ラインには5000~10000ボルトの電圧がかかっており、動物がこのラインに触れると電気(電流)が流れ、強い電気ショックを与えます。
電気ショックは痛みを伴いますが、一時的なもので無害です。もちろん人が触れてもケガなく無害ですが、ペースメーカーを埋め込んでいる人やお子さんなど、注意を要する場合もあります。

電気柵の仕組みを理解するためには、電池を思い浮かべてもらうといいかもしれません。
電池はそのままでは電気が流れませんが、プラスとマイナスが繋がったときだけ電気(電流)が流れます。プラスとマイナスがつながったとき、電気柵では、動物が電線に接触したときがこの状況にあたります。
電気柵を触れた場合の電気が流れる時間は1/100秒以下、電気ショックは一瞬です。

電気柵は動物が触れたときに電気(電流)が流れる仕組み
電線がプラス、地面はマイナス、動物がスイッチの役割を果たすイメージ
電池でイメージするとわかりやすい

電気柵の維持管理にあたり、もっとも重要なポイントは漏電をいかに防ぐかです。草が伸びてラインと接触したり、風で折れた木がラインの上にかかることで、漏電が起こります。漏電が起きると電圧が低下し、動物が電気柵に接触しても強いショックを与えることができなくなります
定期的な点検やメンテナンスをしながら、5000ボルト以上の電圧を維持することが必須です。

電気柵の侵入防止の効果は?

結論から言えば、野生動物の侵入防止に電気柵の効果は絶大です。

電気柵の効果を私がもっとも実感したのは、ある遠隔地でのシカ捕獲事業です。その事業では遠隔地であるゆえ、捕獲したシカを回収するまでの1~2週間のあいだ、森の中に設けた場所に保管しておく必要が生じました。しかし、ただ単に野積みしておくとヒグマに持っていかれてしまいます。そこで保管場所を電気柵で囲って、ヒグマからシカ死体を守ることにしたのです。

シカを一時保管するために設置した電気柵

シカの死体はヒグマにとって、なんとしても手に入れたい、超魅力的な食べ物です。電気ショックを1回味わっても、なかなか諦めません。同じヒグマが2回、3回とアタックしてきます。そのうえ、時間の経過とともに匂い(人にとっては臭い)も出てきて、次々と新しい挑戦者(ヒグマ)が現れます。

ヒグマによるアタックが多いうえ、週1回程度の頻度でしか管理(修繕)ができない、そんな悪条件から当初は苦戦したものの、最終的にはヒグマの侵入を完璧に防ぎ、ヒグマにシカの死体を持っていかれない方法を確立しました
体重300㎏はあろうかというヒグマが、シカの死体にアクセスしようとして電気柵のラインに接触、強い電気ショックに驚いて立ち上がり後退、電気ショックにイライラしたのか近くの立ち木を叩き、へし折るようなシーンが自動撮影カメラに残されていました…(おおっ怖!)

ヒグマの侵入を防いだ電気柵
周囲を掘り返しているのは、ヒグマが電気柵を嫌がっている証拠
全周掘り返してようやく諦めた模様

電気柵の課題と弱点

電気ショックを与えて、強大なヒグマをも撃退する実力を持つ電気柵ですが、課題や弱点もあります。

1)設置コストと維持管理

電気柵の設置には初期費用がかかり、特に広範囲の農地や山間部に設置する場合、それなりのコストがかかります(物理的なフェンスよりは安価です)。また電圧を維持するため、定期的なメンテナンスが必要です。特に草木の成長に伴う漏電を防ぐための除草作業が欠かせません。

2)電気柵は物理柵ではなく心理柵

電気柵は強い電気ショックを対象動物に与えて、侵入を諦めさせるための道具です。対象動物に「そこに入りたい!」という強い動機があれば、突破されてしまいます
どうしても食べたい魅力的な食べ物が電気柵の中にある場は、ヒグマであれば隙間を見つけて、穴を掘って、なんとか侵入しようと試みます。こうなると根競べです。発見した侵入痕にさらに電気柵をまわすなど、対策の強化が必要となります。大事なのは対象動物に学習させないこと、つまり入りたいという動機を持たせないことです。学習度合いが軽ければ(「入りたい!」という動機がそれほど強くなければ)、根競べ数回で相手は諦めてくれるはずです。

ニオイや光、音を出すグッズとの違い

被害対策のツールとして、電気柵はきわめて有効かつ優秀です。
ニオイや光、音などを使った獣除けグッズとの大きな違いは、電気ショックで動物に痛みを与えるという点です。接触するたびに痛みを与えるため、馴れが発生しにくく、侵入防止の効果が継続します

ちなみにわたしが愛用しているガラガー社の電気柵ユニットは、非常にタフな設計で、過酷な野外で使っても軽く10年は使用可能、非常に長持ちします。

続きの2/2では、電気柵すげーを実感した実際の事例を紹介します。

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