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芸能人は歯が命、野生動物も歯が命!シカは何歳まで生きるのか?♯14

おはようございます!
先日、ある人からシカは何歳まで生きるのか?という質問を受けました。「何もなければ(人に狩られなければ)、メスはおおよそ20歳」と話したところ、「え~!」となりました。そう彼らは意外と長生きなのです。
今日はシカの年齢について書きたいと思います。

年齢を知るための方法

野生動物の年齢を知るための方法をご存じでしょうか?
尋ねても答えてくれない、戸籍もない野生動物の年齢を調べるには、すこしだけ手間とコツが必要です。

体の大きさや体重は参考にはなりますが、正確ではありません(人間に大きな人と小さな人がいるのと同じです)。
ここではオールディーズ&アナログな、ふたつの方法をご紹介します。
最近はDNAの状態から年齢を調査するという画期的な方法も出てきましたが、それはまたの機会にご紹介します。

1)乳歯・永久歯&歯の摩耗状況で判断する

野外現場でもできる簡単な方法です。
ちょいと口をあけて、歯の様子を確認するだけです
年齢があがっていくと、おおまかな年齢しか知ることしかできませんが、この方法でこと足りることが多いのも事実です。
判断するポイントは次の2つです。

a)乳歯or永久歯からの判断
人間と同様、シカも生まれたときは乳歯、徐々に永久歯に切り替わります。
I1と呼ばれる第1切歯に注目してください。
第1切歯が乳歯か永久歯かで、0歳もしくは1歳以上(1+)かが判断できます。

第1切歯(I1)が乳歯→0歳のシカ
第1切歯(I1)が永久歯→1歳以上のシカ

第1切歯は中央の大きな歯、
この個体の第1切歯は永久歯、その横の3本(I2~4)は乳歯のまま
この状態から1歳と判断
こちらは0歳、切歯4本の大きさがすべて揃っている=すべて乳歯な状態

b)歯の損耗状況から判断
シカに限らず野生動物は、加齢とともに歯の損耗が進みます。
損耗状況が軽ければ若い、損耗が激しければ老齢、申し訳ないくらい至極単純な話です。

シカであれば、切歯と呼ばれる下顎の前歯8本を見てあげるのをお勧めします。老齢な個体は、歯が削れて短くなっていたり、歯が欠損しています。(おじいおばぁ世代になると、入れ歯を入れないといけなくなるのと同じです…)

損耗したシカの奥歯、損耗が激しいので老齢だと判断できる

人間と異なり、シカは歯医者にかかることが出来ません。
虫が損耗したらお終い、歯が抜けたらお終いです。
「芸能人は歯が命」なんて歯磨き粉のCMがありましたが、野生動物は人と比較できないほど ”超本気 ”で歯は命です。なんせ、”食べることが出来なくなること=死”ですから。

2)歯にできる年輪を読む

歯の根元にできる年輪を読む方法です。
それなりに正確な年齢を知ることができます。

顎から歯を取り出して、薬品を使ってあげて柔らかくして(脱灰して)、凍結状態にしてから薄くスライスしてから染色、それを顕微鏡でのぞいて年輪を読みます。
工程を書くと簡単そうですが、かなり骨の折れる根気のいる作業です。

歯の根元にできた年輪(層)、矢印は3本目のライン
このサンプルからは4本のラインが読める
紫に見えるのは染色しているから、染色しないと透明なので年輪(層)が読めないのです

シカは何歳まで生きるのか?

ようやく本題です。
かつて私は、歯の年輪を読む方法で徹底的にシカの年齢を調べました。

その結果はこちらです。
(かつての上司がしっかり論文にまとめてくれています、感謝!)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hozen/16/1/16_KJ00007225529/_article/-char/ja

「野生化でシカは何歳まで生きるのか?」の答えは、知床岬のシカの年齢調査の結果を見るとわかります。「09岬冬」を見ると、オスの最高齢は10歳程度、メスは20歳程度だということがわかります。
(2009年の調査時点で、1999年生まれは10歳、1989年生まれは20歳、4ページ目のグラフを見るとわかります)

知床岬は知床国立公園内に一番奥地に位置する場所です。
周辺に定住する人はおらず、道も通じていないため、ほとんど人が立ち入らない場所です。また、鳥獣保護区に設定されているため、ハンターに狩られることもありません(ハンターが入る地域のシカは総じて短命です)。
つまり人為的な影響をほとんど受けていない場所=野生化で何歳まで生きるのか知ることができる場所です。

知床岬の自然草原(ササ原)、道に見えるのは獣道(シカクマ道)

まとめ

歯は野生動物に関する多くの情報をもたらしてくれます。
興味のある方はこちらの本がお勧めです。
https://amzn.asia/d/aEVKmjH

執筆の励み、新たな気付きにつながりますので、ぜひ「いいね」と「コメント」をお待ちしております。
本日もお読みいただきありがとうございました。


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