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ウクライナ民謡 沼(8)『シチェドリク(鐘のキャロル)』Щедрик その1


(2024年11月13日追記)
しばらく取り下げていましたが、再公開しました。



今年も残すところ3週あまり。

これまで、ウクライナのクリスマスは、旧暦(ユリウス暦)の1月7日に祝われていたが、ウクライナ国内の法案改正により、修正ユリウス暦の12月25日に変更された。

(出典:毎日新聞、2023年7月30日付)


まもなく、ウクライナはクリスマスシーズン(クリスマスから新年にかけての時期)を迎える。

世界的に有名なクリスマス・ソング、『鐘のキャロル(キャロル・オブ・ザ・ベル)』のルーツがウクライナの民謡にあることは、最近まであまり知られていなかった。

2022年2月のロシアによる侵攻を契機に、本家・ウクライナ民謡『シチェドリク』の存在が徐々に知られるようになり、2023年の映画『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』の公開(制作は侵攻前に完了していたとのこと)を経て、ようやく一般に浸透してきた。

ちなみに、日本ではパロディ曲の『旧支配者のキャロル』のほうが有名で、ゲーム界隈では、怖い曲だと思われているふしがある。


そんな『シチェドリク』=『鐘のキャロル』=『キャロル・オブ・ザ・ベル』≒『旧支配者のキャロル』について、2回に分けてとりあげたい。


1.お勧め動画


その1では、『シチェドリク』のウクライナ語による演奏を紹介する。

Grandma`s Smuzi - Щедрик
Grandma`s Smuzi『シチェドリク』


ウクライナ民謡沼(番外編1 洋楽ロックのウクライナ語カバー)で取り上げた、われらが髭ボーカルこと、トゥファン・チフデム(Туфан Чігдем)。

気になって調べたら、なんと、ウクライナ語学習歴20年のトルコ人だということが判明。

髭ボーカル・チフデム以外のメンバーは全員スラヴ系の名前なので、おそらくウクライナ人だと思われる。

チフデム、私は、完全にウクライナ出身ボーカルだと思い込んでいた。

あのアフロヘアーか、巨大亀の子タワシみたいな髭も、コサックやタタール系の伝統的な髭を、尖ったファッションで伸ばしているのだとばかり思っていた。


チフデム、現在(2023年12月、写真中央)

(出典:Туфан Чігдем インスタグラム)

チフデム、10年前(2013年3月)

(出典:od.vgorode.ua、2013年3月18日付)


10年のあいだに、彼に何があったんだ。

それにしても、外国人だとは思えないほど、ウクライナ語が抜群に上手い。

歌の上手い人は、耳が良いのか、外国語に堪能な人が多い気がする。

今回は、チフデムたちが楽しそう(?)な『シチェドリク』の演奏を取り上げてみた。


もうひと組、楽しそうなバンドの演奏をご紹介。

Bugs & Bunny – Щедрик
Bugs & Bunny『シチェドリク』


ウクライナの民族衣装を着て、民族楽器バンドゥーラ(弦楽器)やソピルカ(ウクライナの縦笛)を奏でながら、アコギ、ドラム、カホン(ペルーの伝統打楽器)も交えての現代アレンジが、とても楽しそう。


2.歌詞の読みかた(発音)


歌詞の発音のローマ字表記は、添付資料のとおり(画像 / PDF)。

2-1.歌詞(ローマ字発音表記)画像

2-2.歌詞(ローマ字発音表記)PDF


民謡の歌詞のアクセントは、辞書に掲載される通常のアクセント位置と異なることがままあるが、『シチェドリク』の歌詞はその傾向が顕著だ。

早口の独特のリズムが関係しているのかもしれない。


3.民謡のなりたち


伝統的に、ウクライナの民のあいだでは、新年(旧正月の大晦日)を迎える際に、「シチェドリウクィ(Щедрівки)」と呼ばれる新年の門付歌が歌い継がれて来た。

現在、最も知られている『シチェドリク』は、ウクライナの作曲家レオントヴィチ(Микола Дмитрович Леонтович, 1877-1921)が、実に18年の歳月をかけて1921年に完成させた。

1922年、ウクライナ国立合唱団がアメリカ公演で『シチェドリク』を披露し、聴衆の心をとらえたという。

1922年の録音はこちら。


その後、1936年、ウクライナ系アメリカ人の作曲家ウィルウフスキー(Peter J. Wilhousky [ウクライナ語ではПетро Вільговський], 1902-1978)が英語でクリスマスキャロルに改変し、世界で知られるようになったとのこと。

『シチェドリク』について、詳しくは以下を参照されたい。

(出典:ukrainer.net)

(出典:songs.in.ua)

(出典:ウクライナ語ウィキペディア「シチェドリク(レオントヴィチ)」)


作曲家レオントヴィチについて、詳しくは以下を参照のこと。

(出典:ウクライナ語ウィキペディア「レオントヴィチ」)


4.歌詞の意味


歌詞の翻訳は以下のとおり(筆者=訳者に詩心は無い定期)。

シチェドリク、シチェドリク
ツバメが飛んで来て
気ままにさえずり、主を呼びはじめた
「家主さん、出ておいで
羊小屋をごらんなさい
そこで羊たちが寝転んで
子羊たちが生まれたよ。

お前のところは良い品が揃っている
金持ちになるだろう
たとえお金が無くても、もみ殻がある
お前のもとには黒眉の女性がいる」

歌詞のなかで、春先に飛来するツバメが、その年の多産・豊穣について告げるのは、異教時代の名残りではないかという説もある(かつては3月に新年を迎えた)。


5.映画『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』


2023年夏、『シチェドリク』をモチーフにした映画、『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』が本邦で公開された。

映画の公開はすでに終了しているが(2023年7月公開)、現在、DVDや一部のサブスクで視聴が可能なようだ。

映画配給会社彩プロ提供によるトレーラー(公開当時)

(出典:映画配給会社彩プロ公式Youtubeチャンネル)

映画『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』の公式ページはこちら。

(出典:映画『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩』オフィシャルサイト)


このほか、以下の媒体で、映画の詳しい解説を読むことができる(記事の1~4までのリンクがたどりにくいので、全リンクを挙げておく)。

(出典:ステラnet)


ちなみに、貴志謙介ディレクターの記事は、どれも入念な取材と文献リサーチに裏付けられており、読み応えがあり、とてもお勧めである。


私は、下記の記事を参考に、ナターシャ・ヴォ―ディン著『彼女はマリウポリからやってきた』(川東雅樹訳、白水社、2022年)を読んだ。

(出典:ステラnet)

軽い気持ちではとても読了できない作品だが、ナチスドイツとソヴィエトの板挟み(と呼ぶにはあまりにも過酷な状況)に陥ったウクライナの人々が、どのような苦境にあったのかを知る貴重な機会だった。


(※ 2023年12月29日追記)

2023年11月、『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩』のオレシア・モルフネッツ=イサイェンコ監督が来日した。

以下のURLで、フォーラムに参加した監督の発言を読むことができる。

(出典:ステラnet)


6.いろいろな演奏


ウクライナで長く愛され続けている『シチェドリク』には、プロアマ問わず、無数の音源がある。

クラシカルな合唱から、ロック、メタル、ヒップホップ、ジャズまで、多様なアレンジがなされてきた。

あまりに人気の曲なので、「歌ってみた」系の動画も極めて多い(そして、レベルも高い)。

ここでは、主にプロのミュージシャンによる演奏をとりあげる。

私なりに厳選したつもりだが、絞り切れず大量になってしまった。


Олег Скрипка та Ле Гранд Оркестр "Щедрик" (мультфільм)
オレフ・スクルィプカ&グランド・オーケストラ『シチェドリク

全編、本格的なクレイアニメのMV。
途中、不穏な展開もあるが、MV自体は2011年12月の公開なので、ロシア軍による侵攻とは無関係(のはず)。


Воплі Відоплясова "Щедрик"
ヴォプリ・ヴィドプリャソヴァ『シチェドリク』

上にあげたオレフ・スクルィプカがボーカルをつとめるバンド「ヴォプリ・ヴィドプリャソヴァ」による『シチェドリク』のMV。

バンド名の「ヴォプリ・ヴィドプリャソヴァ」は、ロシアの作家ドストエフスキイ(Фёдор Михайлович Достоевский, 1821-1881)の長篇『ステパンチコヴォ村とその住人(Село Степанчиково и его обитатели, 1859)』に登場する従僕ヴィドプリャソフ(Видоплясов)に因んでおり、「ヴィドプリャソフの悲嘆」の意。


THE HARDKISS – Helpless / Щедрик
THE HARDKISS『Helpless / シチェドリク』

前半は英語歌詞だが、後半、ウクライナ語で『シチェドリク』を歌っている。


Шпилясті кобзарі – "Щедрик"
シュピリャスティ・コブザリ『シチェドリク』



Гурт «Джерела» – "Щедрик"
ジェレラ・バンド『シチェドリク』



Злата Огнєвіч – "Щедрик"
ズラタ・オフニェヴィチ『シチェドリク』

ズラタ・オフニェヴィチの日本語ウィキペディアを発見。

(出典:ウィキペディア日本語「ズラータ・オーフニェヴィチ」)



NAVKA – "Щедрик"
NAVKA『シチェドリク』



Тіна Кароль – "Щедрик"
ティナ・カロリ『シチェドリク』



NK – "Щедрик"
NK『シチェドリク』



Ірина Доля – "Щедрик"
イルィナ・ドリャ『シチェドリク』



Eileen – "Shchedryk" / "Щедрик" Carol of the Bells.
Eileen『シチェドリク』


メタルアレンジ。

Alex Vas – "Щедрик"metal cover
Alex Vas『シチェドリク』


メタル・インストゥルメンタル。

The Raven's stone – "Щедрик"
The Raven's stone『シチェドリク』


ロック・インストゥルメンタル。

Микита Рубченко – "Щедрик"
ムィクィタ・ルプチェンコ『シチェドリク』



ZAPAL – "Щедрик"
ZAPAL『シチェドリク』


ヒップホップで『シチェドリク』。

LIL KLEF – "Щедрик"
LIL KLEF『シチェドリク』


クラシック、合唱団のコーラスなど。

Хор імені Г. Верьовки – "Щедрик"
ヴェリオウカ記念合唱団『シチェドリク』



Хор Львівської національної опери – "Щедрик"
リヴィウ国立オペラ合唱団『シチェドリク』



Вокальный ансамбль INTRADA – "Щедрик"
ヴォーカル・アンサンブルINTRADA『シチェドリク』



Вокальна студія Art-Style – "Щедрик"
ヴォーカル・スタジオArt-Style『シチェドリク』



最後は、日本で活動するナターシャ・グジーによる『シチェドリク』。


ナターシャ・グジー『シェドリック』


(おまけ)


ウクライナ民謡 沼(2)『おーい、隼よ!』Гей, соколи! で、初音ミクがウクライナ民謡をウクライナ語で歌っていたことに衝撃を受けていたのだが、そんなのは序ノ口だった。

すでに、ボカロにウクライナ民謡を歌わせている猛者、もとい、ボカロPは何人もいて、『シチェドリク』も例外ではなかった。


なんと、『シチェドリク』のパロディ版である『旧支配者のキャロル』ではなく、ウクライナ語で原曲を歌い上げるボカロもいた。

感動。みんな、熱量すごい。しかも、完成度高い。

【さとうささら】Щедрик 新年のキャロル



(※ 2023年12月11日追記)

ウクライナ民謡 沼(6)シェウチェンコ詩『遺言』Заповіт その2 でも取り上げたポッドキャストで、ウクライナのクリスマスと『シチェドリク』が取り上げられたので、URLをあげておく。

(音声)オリハの今まで知らなかったウクライナ #19 ウクライナのクリスマスの祝い方(part 1)(PodcastQR、2023年12月6日)



(※ 2023年12月19日追記)

上記の続編のリンクを追加。

(音声)オリハの今まで知らなかったウクライナ #20 ウクライナのお正月の祝い方(part 2)(PodcastQR、2023年12月19日)


ウクライナ民謡 沼(9)『シチェドリク(鐘のキャロル)』Щедрик その2につづく。

※ ヘッダー写真の出典は、Grandma`s Smuziの公式Youtubeチャンネル。

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