ハロウィンの花嫁で学ぶロシア語(その1)
警視庁前。オレグのスマホに届いたSMSメッセージ。プラーミャのタブレット。
2022年4月に公開された劇場版名探偵コナン『ハロウィンの花嫁』(以下、「ハロ嫁」と略称)。
昨春の金曜ロードショーで地上波放送され(部分カットあり)、今春にはサブスクも解禁されたので、そろそろネタバレを気にする必要もなくなってきたかと思う。
※ 以下、ネタバレになるので、未視聴の方は先に映画をご覧ください。
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映画では、ハロ嫁の公用語は日本語とロシア語なのか?と錯覚するぐらいに、コナンも安室透(公安警察官・降谷零)も、流暢なロシア語を披露していた。声優さんたち、凄すぎる。
とくにコナン(CV:高山みなみ)の発音は、とてもクリアで美しい。
さすが主役。
バルシェ肉買ったべかの後、わずか2か月で、ハワイで親父に特訓を受けてマスターしたのだろうか。
安室(CV:古谷徹)も、結構な長文を、きれいな発音で演じている。
ゲスト声優が演じたエレニカ(CV:白石麻衣)の演技も、とても良かった。
ロシア人役だったためか、他の声優より圧倒的にロシア語のセリフが多く、本当に大変な苦労と努力があったと想像するが、彼女のよくとおる美しい声質が演技に存分にいかされていたと思う。
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私は、地上波アニメと金曜ロードショーの劇場版をたまに見る程度のコナン・ライト層なので、全作品を俯瞰した考察などは手に余る。
コナン作品そのものの考察や他作品との比較については詳しい方にお任せするとして、とりあえず、自分が少しは貢献できそうな、ロシア語の文字起こし、文法・語釈・ニュアンスなどの紹介、ロシアやスラヴのレアリアとのかかわりなどの紹介につとめたい。
ハロ嫁のあらすじ、時系列、他作品(『揺れる警視庁 1200万人の人質』『警察学校編 Wild Police Story』など)との関係などについては、既存のまとめサイト等で確認されたい。
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1.警視庁前、オレグのスマホに届いたSMSメッセージ
※ SMS(スマホ・携帯電話のショートメッセージサービス)
オレグ・ラブレンチエフ(エレニカの兄) Оле́г Лавре́нтьев
(発音)
(出典)
(出典)
オレグのスマホ画面
メッセージは下から上へ。
Где ты?「どこにいるの?」
(発音)
Верни́сь「戻ってきて」
(発音)
пожа́луйста「お願い」
(発音)
2.タブレット爆発、オレグ死亡
オレグが右手に持つ、画面のひび割れたタブレット。
炎を連想させる、深紅に染まるモニターに、キリル文字「Пламя(プラーミャ)」が浮かびあがる。と同時にタブレットが爆発。オレグは命を落とす。
Пламя の文字が、全角キリル文字で表記されているところだけが惜しい。
フォントは Arial だと思われるが、できれば半角だと完璧だった!
タブレットの画面
プラーミャ Пла́мя
(発音)
(性別不明のプラーミャ、死神プラーミャ)
пламя は、ロシア語で10個しかない -мя で終わる中性名詞の一つ。
ハロ嫁では、普通名詞ではなく固有名詞(犯人の名前)として用いられているので、大文字の Пламя となる。
プラーミャについて、公安の風見が以下のように報告するシーンがある。
「正体不明の殺し屋だ。国籍・性別・年齢・・・全て不明。世界中で活動しているが、活動拠点はロシアで、プラーミャと呼ばれ、恐れられている」
連続爆弾魔プラーミャの「性別不明」という属性は、пламя という語が中性名詞である事実により、更に効果的に演出されているように見える(プラーミャという名前からは、性別を推測できない)。
このほか、プラーミャには、明らかに異界の住人を連想させる要素が散見される。
生物をあらわすロシア語の男性名詞(活動体名詞)と単数の女性名詞(厳密に言うと、複数の女性名詞活動体も)は、動詞の目的語(直接補語)になる際に、語尾が変化(対格)する。
いっぽう、中性名詞は変化しない。
通常、中性名詞というのは事物をあらわす。
例外的に、怪物 чудовище、動物 животное など、わずかな語のみ、中性名詞ながら活動体名詞あつかいとなる(城田によれば、活動体中性名詞になるのは「男・女、オス・メスの区別が無視できる生き物」とのこと)。
※ 城田俊 『現代ロシア語文法 中・上級編』東洋書店、2003年。
普通名詞「炎 пламя」も、固有名詞「プラーミャ Пламя」も、活動体名詞としての変化をせず、ざっくり言えば事物あつかいなのである。
監督や脚本家がどこまで意図したかは不明だが(単なる偶然かもしれないが)、プラーミャの名前が連想させる上記のような事物性・人外(じんがい)性は、随所で死神の形象と重ねられるプラーミャの異界性・異形(いぎょう)性とも密接に結びついているように(筆者には)思われる。
死神=プラーミャについては、別途、詳しく述べたい。
本日はここまで。