言えるようになった
「ロン。3200は4100。」
オーラスアガリトップ。幸運にも手が入ってくれて、早い巡目に役ありでテンパイ。無理せず自分のトップを確定させることが出来た。
今日は麻雀大会。
ネット麻雀のリニューアル記念大会で、予選を勝ち抜けば参加できるこの大会は、交通費支給・参加費無料の超高待遇のイベントだった。
普段ゲストにプロが呼ばれるイベントとなれば、だいたい参加者数十人に対してプロ数名が一般的。
誰かプロと同卓できたら「今日はついてたなぁ。」なんて思うのが普通だと思うけど、この日はなんなら一般参加者よりプロの方が多いビッグイベント。それも麻雀を知っていれば必ず名前を見かけるような人気プロばかり。とんでもないイベントだ。
* * *
「3200 (2ハン50符)、言えるようになったんだね。」
同卓記念にサインを書いてもらいながら、そう声をかけてもらった。
その人は私が麻雀を始めたきっかけのプロだった。今日の大会はこの人に会いに来た。勉強中の身とは言え、成長した姿を見せたかった。
私には先生と呼べる恩師が3人いる。
2人は麻雀教室の講師であともう1人、このnoteでは麻雀を始めたきっかけのその人を、以下 "先生"として記載する。
* * *
色紙にはナイストップ!と書かれていた。
運が良かっただけだけど、すごく嬉しかった。
そしてさっきかけて貰った言葉を思い出して。
それくらい先生と会っていなかったんだなと思った。
* * *
最後に先生と同卓したのは1年以上前になる。麻雀を覚えたばかりで、1日ルールミスしなければ上出来なくらいの初心者だった。
あれから先生は本人の努力あって、急激に注目されるようになった。元から多かったSNSのフォロワーも倍以上に増えた。
イベントにも引っ張りだこで、ゲストに呼ばれれば会場に人が入れなくなるくらいだった。
私は麻雀を覚えたばかりの頃、公認のフリー麻雀に参加して、移動に2時間かけて毎日通ってゲスト同卓優先券を手に入れた。その頃先生はゲストの仕事はしてなかったけど、先生がいつ呼ばれても良いようにと思った。
だけど、先生の初ゲストが決まった時に予約日にすぐ行ったものの、その時には先生はものすごい人気で、予約開始時間に会場に着く程度ではもう既にお店の常連さんで優先枠が埋まっていた。
優先券は先生の初ゲスト記念以外には使うつもりはなかったから、もういらなくなった。
一番行きたくてお祝いしたかった先生の初ゲストに行けなかったし。比較的古いファンの私は十分楽しい思いをしたし。
今後そういうイベントの参加枠は新しい人に譲ろうと思った。先生ほどの人なら一度会えばきっとファンになる。
フォロワーのみんなが先生のイベントに並んでいる間、私はネット麻雀の人気投票イベントで先生の順位を上げるポイントを稼いでいた。そのほうが先生のためだと思っていた。
だから先生から見た私は、あの頃の私で止まっていたんだな。
* * *
先生。3200言えるようになりましたよ。
いや、めちゃくちゃ緊張してたから、何度も何度も頭の中で確認したけど。
でも先生に会えない1年半。少なくとも4000半荘は打ちましたよ。
符計算はもちろん。フリーに通ったり、本を読んだり、参考になると思った人の牌譜検討動画や何切るは毎回欠かさず見たり、AI解析に手を出してみたり……。体調を崩して入院していた時期以外は、麻雀のことを考えない日はありませんでした。先生が居たから、ここまで来れましたよ。
なんて思うけど、麻雀をやればやるほど、自分の下手な部分や自分より強い人の存在が見えるようになり、自信はどんどん無くなっていった。
それを伝えるには実力も時間も足りない。今はまだ。
* * *
SNSには麻雀のことは書かなかった。
SNSに麻雀のことを書くと変な人が集まりやすくて息苦しかった。
よくわからない謎のリストにも複数追加されて怖かった。(ネト麻ユーザーのグループなのかな)
Twitterは苦手だ。苦手とはいえ、先生のツイートにはリプライして応援するべきなんだけど、そうすると知らない人に反応されるようになってもっとしんどくなってしまった。
麻雀のことは通っている麻雀教室で質問するから、別に困らなかった。
私が麻雀をやっているのは先生と麻雀教室のみんなだけ知っていてくれれば良い。
アピールしなくても正しく続けていれば結果がついてくる。
そして結果を出せないなら、自分はその程度だと思っていた。
* * *
麻雀を本気で勉強しようと思ったきっかけはイベントで先生と初めて会えた日。あの時は文字通り何もわからなかった。
イベントが発表されてから付け焼刃で麻雀を覚えたけれど、それまでは「平和? アプリで立直ボタン押したらたまに出ますよね。」レベルの初心者だった自分にとって、数か月くらいでは短すぎた。
わからなすぎてボロボロだったから、帰り際に「もっと勉強してきます」と先生に伝えたら
「強くなってくれたら嬉しい。」
と言ってもらえた。リップサービスでもなんでもいい。喜んでもらえるなら、誰よりも強くなろうと思って勉強を始めた。
でも麻雀は本当に難しい。進めば進むほど高い壁が見えてくる。進んでるように見えて後退しているような時もある。
話は戻り、そんな中で今回の大会が発表され、私は迷わず予選に参加した。
勝てば先生に会える。
勝った人の権利なら自信を持って会える。
先生に成長した姿を見せたかった。
* * *
全ての対局が終わった。
参加者よりプロの方が多いイベントなだけあって、終了後のサイン会の時間が非常に長かった。それでもほしいサインを集めきれなかった人もいて、本当に濃いイベントだったんだなぁと思った。
私は初めて買った麻雀本の著者の方がいたのでその人に挨拶とお礼を伝えた。そして残りの時間は隅の席でずっと何もせず暇していた。スマホいじるのも態度悪いし、どうしようかなぁと思いながら使われていない卓をずっと眺めていた。
1人1枚の色紙は先生と同卓した時に目一杯書いてもらうようにお願いして使っちゃったし (後悔はしていない。むしろそれが良かった。宝物です) 、大会で知り合った一般の人たちもサイン集めで忙しそうだったから、完全にすることがなかった。
先生はやっぱり人気で、列が絶えなかった。
もう少しくらいお話したかったけれど、先生の努力した成果だから、それで良かった。
それでも、成績発表の後に先生から「入賞おめでとう。がんばったね」と声をかけて貰えた。そうやってファンひとりひとりを気にかけてくれるところも知っていたから、私は先生が今ほどの人気になっても驚かなかった。
そしてその言葉は何よりも嬉しかった。
なんなら、せっかく褒めてもらえるなら優勝したかった。その日の対局は運が良かっただけに、裏を返せばもっと上手く打てば優勝できた可能性も十分あった。明確な反省点もあった。もっと勉強が必要だった。
* * *
一時期はもう会えなくても陰ながら応援できればそれで良かったが、会えてしまうと欲が出るもので、また会いたいと思ってしまう。今までのスタンスを変えるつもりはないので、次はいつ会えるかわからないけれど。
* * *
もうすぐ、また今年もネット麻雀でプロの人気投票イベントが始まるだろう。先生本人の努力があったから、きっと今年は今までで一番盛り上がる。たくさん努力されていることを知っているから、少しでも高い順位になってほしい。
そして、対局してポイントを稼いで投票した分だけユーザーにもランキングがある。前回私は先生の1位だったので、盛り上がったからと言ってそれで今回1位を取れないなら自分はその程度。その程度なら会えなくても良い。
でも、1位を取ったらまた喜んでくれるかな。
強くなってまたいつか会いに行きます。
待っていてください。
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