こびとのくつや
前の記事、「叶えた夢を手放した。」というタイトルのわりに、手放す前に微妙に話が結ばれてしまい、なんだかなって感じだ。アルコールを摂取した後に(もしくは、しながら)書いたものはだいたい支離滅裂だし、たぶんまた気が向くと思うので、いつの日か続きを書きます。
激務だった時代、仲間たちの間で「寝ている間にこびとさんが片付けておいてくれたらいいのに」と言い合うことがよくあった。深夜、大量の仕事を前に、「こびとさえいれば」と忌々しげに同僚が呟く(「こびとさえいれば」の後に続くのはもちろん、眠れるのにor帰れるのに、で、半分本気だ)。「小人の靴屋」というグリム童話からきていたのだろうが、誰が言い出したのかも、今となっては定かでない。そもそもこびとなんて、いるはずもない。おとぎ話の世界だ。そのはずだった。
しかしながら、ある日突然、こびとは私のもとにやって来た。働き始めて5年目あたりだったと思う。日付を超えても原稿は終わらず、打てども打てども終わる兆しは見えず。眠気に完全敗北したわたしは、半ばそれを放棄する形で帰宅した。タクシーの中で「明日は少し早く出社して頑張ろう」と誓った。もちろん翌朝は寝坊した。
けれども翌朝(昼)出社後、会社のパソコンを開き、書きかけのテキストを開いたところ、なんと投げられたはずの原稿は、完璧に仕上がっていたのだった。文字数もばっちり、文章の乱れもほとんどない。紛れもなくわたしの原稿だった。まさかのこびと参上???
…な、わけはなく、私自身がこびとへと変貌を遂げたのだった。ちゃっちゃらーん♪ おめでとうレベルアップ。石の上にもなんちゃら、朦朧とする意識のなか深夜に打った原稿も、飽和状態の頭で指が動くまま深夜に書き留めた原稿も、朝まともな精神状態で見ても合格点を出せるレベルのクオリティを保てるようになっていた。ありがとうこびとさん、いや、わたし?なの?ありがとう???
あのこびとは今も出て来てくれるのだろうか。少しだけ懐かしくて、それを試すのが怖い。会いたいような、会いたくないような。そしていま、忙しくて心が千切れそうなひとのところにも、心優しき働き者のこびとは現れているのかもしれない。「ああ、こびとね。こびとなら俺の隣で寝てるよ」という方がいたら、ご一報ください。