ユメに揺蕩う

鉄道擬人化1次/北陸本線×ちびたか(2代目はくたか)
小説投稿テスト。

それは、希薄化していく記憶の中で「失いたくない」と願ったもの。
何もかもが希薄化していく「北陸本線という私」が、「終わり」まで持っていこうと決めた記憶。
…だが、私は遠くない未来に、それを裏切ってしまう。

何に代えても失うまいと、希ったもの。
それは…最愛の人への想いと、彼に付いた「嘘」。

…告白を、始めよう。

***

「…本線さんは、僕が好き?」

それは、彼が就役して数年が経とうとしていた頃。
ちびたか…2代目のはくたかは、ある日、今にも泣き出しそうな声で言った。

「…唐突に、どうした?」
「…僕を…『ちびたか』を、好きで居てくれる?」

いつもは、落ち着いているはずのちびたかが、何処か焦っていたようにも見えた。
それはまるで、何かに急いでいるようで。

「…ああ、お前が好きだ」
「………」

私がそう返すと、ちびたかは一瞬安堵したように見えたが、泣きそうなのは相変わらずだった。
…何か不安でも、あるのだろうか?

「…どうした?いつもと様子が違うが」
「…怖いの」
「何が、怖いんだ?」
「…本線さんが、僕から…皆から、離れていきそう、なの」

泣きそうな、怯えているようにも見えるちびたか。

「…大丈夫だ」

あやすように、彼を撫でて、抱き締める。
安心するように、温かさを分けるように。

「…本線さん…」
「私は、お前から…皆から、離れない」

それは、私が初めて付いた「嘘」だった。
ちびたかを安心させたいが為に、口から出た「嘘」。
しまった、と後悔した時は…既に遅かった。

「…良かった」
「ちびたか…」
「…約束して、本線さん…離れないって」
「…ああ」

また、私は「嘘」を重ねた。
そして私は、きつくちびたかを抱き締めた。
自らの「嘘」から逃げるように、そして彼を守るように。


***

私は、ユメの中で揺蕩う。
心地の良いユメは、私の記憶を、自我を少しずつ希薄化させていく。

それは、「東海道本線の端末」として生まれた私の宿命。
今まで「独立した自我」を保てていた方が、「奇跡」だったのだ。

「北陸本線という私」は、緩やかに壊れていく。
それは「奇跡」が起こった時に最初から決まっていた事。

だがそれでも、私は足掻きたかった。
ちびたかを、皆を、悲しませたくなかった。

どうか。
どうか。
もう一度奇跡を。

私が私の全てを、失う前に。

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黎
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