夜、桜。
空に咲く白花の君たちは、くさめをちゅんと一つ漏らした後のハニカミのような、柔らかい何かを宿していそうだ。
慣れない紫煙を肺に詰め込んだような、息苦しい風が一陣、花弁が一枚地に落ちる。
灰と木屑を溶かして混ぜたような気だるげな騒音が、チックタックの音と一緒に響き渡る。
また散った一枚が、路上に落ちて茶色く汚れる。
何かに怯えてビクついた手が、ゴツゴツと硬い木肌に触れた。
君は何も語らず、私のなすままに撫ぜられている。
私は君に見下ろされ、肩に降り積もる死んだ白を受け入れている。
もし、君が、その力強く張った根を何の気なくするりと引き抜いて、自由気ままに地を行くことができるとするなら、どうか一つ、頼まれてはくれないだろうか。
今と同じく何も語らないままで、何も思わずにそっと私を踏みつぶしちゃくれないだろうか。
そうしたらきっと、僕はくしゅんとやった後の、ちょっとしたこっぱずかしさの余韻の中で、ふっと舞って踊る花のように、静かに散って消えることができるだろうから。
できるはずなんだ、消えて、散って、静かに。
ーーあとがき
これまた声部に投稿した雑記
まぁ、正直なところ、そんなに満開に咲いた桜のことを好きだと思ったことはない。冬の葉が散った後の丸裸の桜の方が親しみ深いものがある。