意匠と構造のストーリーを理解する その3
全4章
設計検討 3
押山:前回から少しずつ解像度が上がってきました。今回も事前にデータをお渡していますので、夏目さんからお話いただければと思います。
夏目:まずは前回お話した、ブレースを入れた状態で解析したものを紹介します。長期、短期X、Yのすべてのケースで許容応力度以内になる最小断面になるように断面最適化を行っているため不連続な断面が出ていますが、断面構成のイメージとして見ていただければと思います。短手と長手方向からみるとわかりますが、四隅にブレースを集める計画にすると両側の断面は太くなり、中は断面が細くなります。下屋の方は少し違っていて、短手にブレースが入っていないので、全体が同じ断面になっています。現状はシンプルな最適化の条件設定にしていますので、もう少し具体化すると小さくなるかもしれません。
高橋:ありがとうございます。3Dモデルでブレースが入った場合の力の流れがとても分かりやすいです。では当初の、全体でバランスよく力を分散したいと考えていた案について説明します。この案では水平梁を増やして座屈を抑える方向で考えています。実際の計画で必要になる耐風梁やメンテナンス用の歩廊も構造部材として積極的に効かせて、座屈長さを短くする方が計画的に有利になると考えています。
夏目:ありがとうございます。これまでの解析では屋根面の地震荷重しか設定していなかったので、ご指摘の通り中間に部材を設ける案はちゃんと外壁や仕上げ重量を考えた際に合理性があると思います。解析結果を見てみましょう。今回は鉄骨量も出力しています。用途や規模によりますが、普通の建物なら100kg/m2前後が相場だと思ってください。ブレース案程ではないですが、やはり角部は力が集まっています。Karamba3Dの断面最適化のアルゴリズムの関係で他と比べて断面が大きくなっていますが、全体として大きく断面の差がないモデルとなっており、変形量としてはどちらのモデルも同等でした。以下が各案の鉄骨量になります。
ブレース案 鉄骨量:89 kg/m2
水平ブレース案 鉄骨量:86 kg/m2
鉄骨量が先ほど言った100kg/m2 を切っていますが、最適化でうまく鉄骨量が減っているという意味ではなく、荷重も床面積もざっくりとした設定で計算をしているので、その設定がそんなに間違っていないくらいの意味でとらえてください。
ただし2つのモデルで荷重と床面積は同じなので、2つのモデル間での比較には意味があります。
高橋:ありがとうございます。意匠側で考えた構造を初期に検討・比較できたことで、意匠のストーリーとリンクした構造のストーリーが作れた気がします。
夏目:今後の検討要素としては、以下の内容があげられると思います。・下屋部分の柱断面が今は角型にしているけれども、片側にブレースがある構造なので、柱をH鋼にすることで多少変わるかもしれない
・外壁やバスケットゴール等の重量物も含めた、より細かな構造解析
・下屋部分の鉄骨梁や、基礎梁を通過する設備配管用の貫通孔なども含めた梁断面の検討
・意匠を考慮したジョイント部分の具体的な形状検討
押山:夏目さん、高橋さんありがとうございます。
提案として解像度がとても上がり、勉強会の趣旨である指針となる意匠・構造のストーリーを作れたと思います。それではドーム案に進みたいと思います。夏目さんよろしくお願いいたします。
夏目:それではドーム案について応力解析モデルを見ていきたいと思います。分割数と間隔係数aは名前の通りフレームの部分の分割数と間隔がパラメトリックに変更でき、それに伴って応力解析が行われます。それに対して、構造評価のパラメータを用意しています。構造的にOK/NGという評価が難しかったので、鉄骨量率を用意しました。鉄骨量率は分割数と間隔係数aの2つのパラメータの中で一番鉄骨量が少ない状態を基準とし、そこから何%増加しているかを示しすものです。構造合理性率も同様に2つのパラメータから多目的最適化計算を行い、もっとも合理的だと思われるものを「1」に設定し、合理性が悪化するほど値が大きくなるようになっています。どちらのパラメータも「1」になるパターンは存在しないため、意匠側で鉄骨量と合理性を見ながら基本計画となる鉄骨梁が決められるように作っています。設計を詰めていくと検定比が1超えてるからそもそも NG などありますが、そういったことは関係なくざっくり構造の雰囲気を見て方向性を決めることが大切かと思います。
次のステップとしては意匠プラン側を考慮した構造計画をどうするかです。現状は屋根と下屋が独立していて、上に何も乗らないので、特に下の架構が構造的に問題になることはないと思います。
宮崎:このモデルは大梁のみの状態ですが、小梁なども入れて検討を進めていくのがいいのでしょうか?
夏目:どこまで検討するかにもよりますが、基本計画段階であれば今のままでいいと思います。もし基本設計で外装とどう取り付けるかまで考えるのであれば、直角方向に梁を入れる方がいいと思います。また現状は幾何的に良し悪しを決めているため、今後はどう部材化し構造断面を実現していくか考える必要があります。よくある構造としてはラチスがあり、この場合であれば矩形で表示されているのが応力の大きさなので、地面に近い方は大きく上に行くほど小さくするということも考えられます。
宮崎:例えばこの応力の数値から線材に取り付く断面を指定するのは可能なのでしょうか?
夏目:線材に取り付くのは難しいですが、大梁の線に対して仮にH鋼みたいな断面を最適化することは可能だと思います。ラチスの部分もやる場合はGrasshopper側でその線を定義する必要があります。
押山:この架構の最適化検討は出来ていると思いますが、このような特殊形状において構造架構のパターンをいくつか検討するというのは意味のあることでしょうか?それとも構造側からするとだいたいこうなるだろうなというイメージがついてしまうのでしょうか?
夏目:とても意味のあることだと思います。このような特殊形状の場合はそもそもやったことがある人がいない場合があり、実務的にも一部分だけ切り出したモデルを作成し解析検討を行うこともあります。最初は悩みどころなのでパターンはあった方がいいと思います。
押山:それでは次回は構造架構パターンを3つほど用意して、どれが妥当か検討してみたいですね。あと門型に直行する梁がないので、そこまで線データを作成し解析できればと思います。高橋さんのレンズ案はここまでとし、次回宮崎さんのドーム案検討を最後にしましょう。そのあとは夏目さんと一緒に構造計算書はどのように作られているのかのワークショップを行いたいと思います。
設計検討 4
押山:前回の段階で高橋さんのレンズ案は完成し、宮崎さんのドーム案の検討が残っていましたので、事前にお送りした3パターンの構造架構の比較について、夏目さんから解説いただければと思います。
夏目:まずはアーチ案から見ていきます。鉄骨量の最小化を解くとこのような形になります。架構の計画がきれいで、円弧柱が柱のようであり、ブレースの効果もあるので、このようにVの字型に連なるのは力学的にそこまで変ではないと思います。鉄骨量がだいぶ少ないのですが、今回は金属屋根程度の荷重のみを屋根面に一様にかけているのみで、あまり大きな荷重をかけていないため、鉄骨全体としてはレンズ案より小さめだと思います。今後、天井に吊り物やライトが付くなどすると増えていきますので、3案の相対値として見ていただければと思います。
アーチ案 鉄骨量:鉄骨 64.7kg/m2
今回は評価をよりわかりやすくするためにグラフを追加しました。
左から順に鉄骨量・スパン数(分割数)・間隔係数aとなっており、3つのパラメータの関係性を表したグラフになります。また色が濃い線ほど鉄骨量が少なく、傾向としては色が濃い組み合わせが、鉄骨量が少なくなる組み合わせとなります。
左側の鉄骨量の小さいところから見ていくと、真ん中のスパン数はだいたい11分割前後で、間隔係数aだと2~3の範囲だと鉄骨量が減ることがわかります。薄い線はスパン数が多く、間隔係数aが小さいため、鉄骨量が多くなりあまり合理的ではないことを可視化しています。
パラメータと鉄骨量の関係は以下のようになります。
鉄骨量: 64.7kg/m2
長期変形: 70mm
地震X変形:29mm
地震Y変形:80mm
続いて門型の最小鉄骨モデルを見ていきたいと思います。
面白かったのはキールアーチのような効果が出ていて、長手に二本引張りが出ており、短手にかかる門型が全体圧縮になっています。
少しわかりにくいですが、Topから断面のヒエラルキーを見ますと、キール梁の外は太めで、内側になると細めになっています。平面のアーチが連なっているのだけれど、キール梁を設けることで縦と横で構造的に効くような構成であることがわかりました。
グラフを見てみるとX分割が2~3くらいで、Y分割は11以上はあった方がいいのかなという傾向がありました。パラメータと鉄骨量の関係はこのようになります。
鉄骨量:57kg/m2
長期変形: 66mm
地震X変形 :76mm
地震Y変形:78mm
宮崎:横の梁部材がなくなっていますが、これは最適化する上で不要と判断されたのでしょうか?
夏目:そうですね。鉄骨量最適化のため、あまり効いてないものは結果としてカットされてしまい、今回の結果の方が優れた状態となりました。
続いてはダイヤモンド型を見ていきますが、結果的にはこれが一番鉄骨量が少なくなりました。鉄骨としては結構密にはいっているような状態です。
応力を見てみると、外周に回っているリング部分は引っ張りになっているのがわかります。またその他の部材が軸力を伝える部材という構成になっているのがわかります。全体を通してブレースの効果を最大限にするため角度が45度になる位置に最適化されていることから部材が細かくなり、X、Y共に変形が少ない構成になります。当初目論んでいた全体抵抗の理想に近いと言えます。鉄骨量だけを見ると一番少なく良い構造に見えますが、実際にはジョイントが他の構造に対して多く高くついたり、部材数も多いため施工により人工がかかるなど物理的な鉄骨量とは別に、施工を考えたときに本当にいいのか?というのはあります。
グラフを見ていくと、2FL以上の水平梁位置は中央くらいがよく、水平梁分割は多めがよいのがわかります。頂点部水平梁位置はなんとなく真ん中あたりにありますが、大きな影響を与えるパラメータでないことがわかりますね。
鉄骨量:47kg/m2
長期変形: 69mm
地震X変形:11mm
地震Y変形:25mm
宮崎:今回の3案をジョイントを抜きにして考えた場合、構造的にはどのように評価をしているのでしょうか?
夏目:見ていただきたいのは変形の値です。
アーチ案と門型案ではどちらもY変形が大きく出ています。これは短手方向にブレースが無くラーメンとして効いているため、上手く抵抗できていないと言えます。しかしダイヤモンド案は全体にブレースが入っているような構成なので、上手く地震時にも抵抗できており、地震時にほとんど変形していないのがわかります。今回だと地震に対する抵抗が軸力型なのか曲げ型なのかで違いが表れたと思います。
押山:今回は基本計画段階で3つの架構パターンを作成することで構造構成的に得意な部分と不得意な部分が見えたと思います。鉄骨量も評価基準の1つになりますが、詳細な部分の検討や施工方法を総合的に判断して3案の中ではアーチ型案か門型案の方が現実的であることがわかったことがよかったと思います。
夏目:そうですね。アーチ型案も門型案もどのようにブレースを入れるかは考えなければいけませんが、抵抗できるような構成を考えられればまた結果が変わってくると思います。またダイアモンド案は鉄骨量が明らかに少なく済んでいるため、ジョイント部分をいかに合理的で安いものを考えられるかで現実味を帯びてくると思います。
宮崎:夏目さんからみて、解析する前からダイヤモンド案が鉄骨量が少なくなるとわかるのでしょうか?
夏目:いえ、解析しないとわかりませんでしたね。結果としてここまで鉄骨量が少なくなるとも思っていませんでした。むしろこちらの方が鉄骨量が増えるかなと思っていました。
宮崎:ありがとうございます。構造設計側でも解析しないとわからない場合があるんですね。
押山:これらを踏まえてどのような建築物を作っていくかを発注者(建築主)と意匠設計者で共有できるといいと思いますね。日本の発注者は予算さえ守ってくれればいいというのがほとんどです。このような検討をせずに進めた結果、後々ステークホルダーが苦労するのが目に浮かびます(笑)。結果建てられた建築も5年10年と経つとボロが出てきますが、それは発注者が負う責任ですから仕方ないと言えば仕方ないですね。
それでは、夏目さん本日もありがとうございました。次回は株式会社ストラクチャーが公開している一貫構造計算ソフトの Building Editor 5.13を使って構造計算書がどのように作られているのか見たいと思います。
まとめ
・設計初期段階でブレースの配置検討をすることで意匠の実現性が高まる
・設計初期段階で架構パターンをいくつか提示するとよい
・解析してみるまでのはその架構パターンの特性が見えない
※夏目 大彰 / HIROAKI NATSUMEさんのHPはこちらです。
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