意匠と構造のストーリーを理解する その4
※本記事はBuilding Editor 5.13の操作説明ではありません。
全4章
構造計算書
押山:構造設計者側でどのような修正、検討が必要か分からないために、意匠側は意匠設計での変更と同じような感覚で構造側に修正を依頼している気がします。構造側がどんな苦労をしているのかを知ることで、どのような検討やデータ、依頼の仕方をすべきなのかを考えるきっかけになればと思います。では夏目さん本日もよろしくお願いします。
夏目:では事前にお送りしたPDFをみて進めていきたいと思います。
今回は簡易な東屋を想定して入力していきます。
Building Editor 5.13は比較的古いソフトになりますが、無料で使える一貫計算プログラムの構造解析ソフトです。一貫構造計算そのものの機能は、例えばSS7などの新しいソフトと大きな差はなく、それらはよりユーザーフレンドリーになっている部分が差だと思ってください。まず起動して、柱を配置していきます。一貫計算ソフトでは、軸に部材をおく仕様であることを理解する必要があります。ここでは黄色の部分が節点でこの箇所に部材を置きます。まずはSC1と符号をつけ一番小さい断面情報を登録してみます。
その後、黄色の部分をクリックしていくと柱が配置されます。
押山:全然違う(笑)新鮮な感覚。
夏目:一貫計算ソフトというのはこういうもので、いわゆる3DCADとは仕様が異なります。(笑)次は一階に基礎梁を作ります。これも同じように部材情報を登録してから作成します。今回はRCなので配筋を決める必要があります。デフォルトでは最小配筋になっています。断面がNGだった場合などは主筋を増やしたり、径を変更したりします。
高橋:これは2段筋までですか?3段も設定できるのでしょうか?
夏目:これは2段筋になります。3段もできるのですが、適判によっては撥ねられる場合があるのであまり推奨されてないません。この設定は許容応力度を求めるために使っているだけなので、仮にソフト上で限界がある場合は、手計算して三段筋相当の数値をいれて計算させることを構造設計側ではやります。そのため一貫計算上の配筋と図面の配筋は必ずしも一致しないことがあります。これで登録が完了し、梁間をドラッグすると梁を作成できます。
続いて構造上の床を貼ります。まずは小梁の設定から入ります。任意のサイズで構いません。これも配筋はありますが一貫計算上、重量を拾うだけなので今回は設定しなくてよいです。次に床を作成するのですが、まずは小梁を登録します。その後床も登録していきますが、床の場合は荷重も一体となった情報として扱うため、固定荷重と積載荷重を自分で決めなくてはいけません。
床が出来たら、その部分をクリックすると、床組み生成オプションが表れて小梁を入れることができます。試しに縦に一本入れてみます。分割数なども指定することができます。
これで床組みができたので、次は階の追加から屋根階を作っていきます。
先ほどの床組みの情報がコピーされていますので、鉄骨造なのにRC梁のままになっています。ですので、梁情報を鉄骨に更新します。また接手も設定します。
屋根階にもスラブをいれたいので、先ほどと同じように小梁を設定します。
今回は鉄骨小梁を登録します。その後同じように荷重を設定し床を登録していきます。その後また小梁をいれて一貫計算上の東屋がモデルとして作られたことになります。
これができましたら、準備計算を行います。そうしますといくつかエラーが出るのでこのエラーを消していきます。準備計算のエラー画面にも書いてありますが、部材の自重や設計地震荷重がどうなっているかなどの基本的な計算をしています。一貫計算プログラム上、構造種別は決めなければいけないため、S造なのにRCがあっておかしいというエラーが出ています。この場合はそれぞれの階の情報を見直して更新する必要があります。その他エラーも同様に、エラー内容をもとに修正する必要があります。
ここでモデルを編集する場合をやってみたいと思います。例えば意匠設計者からX1とX2の間の通りに柱を置いて、耐震要素として使っていいと言われたとします。まず一貫ソフトでは柱を置く前に必ず軸を設定する必要があります。
押山:図面で何でaとかbとか間にあるんだろうと思ってましたが、これ全部変更点なんですね(笑)
夏目:そうです。基本はそう思ってもらっていいと思います。(笑)まだこの時に軸名を振り直していませんが、仮に計画が変わったから一番右の箇所はX3ねということになると、修正は出来ますが、これまで同様ポチポチと修正することになり意外と面倒な作業となります。(笑)
では耐震柱をいれたいと思いますが、節点の表示に切り替え、×から●にクリックで変更することで構造上有効な点となります。これらを1階も同様に行います。そうすると最初の時と同じように黄色の〇が表示され柱が設置可能となりますので、また同様の手順で部材を登録し設置していきます。
宮崎:このソフトでは断面の大きさを変更しても、図示される断面は同じですか?
夏目:はい。全部同じです。この辺りは構造図に似ていて、寸法図というより配置図といえるかもしれません。
続いてブレースを入れてみたいと思います。まずブレースの断面を設定します。これは構造計算ソフトあるあるですが、自分で断面の数値入力していきます。これも結構面倒な作業です(笑)
その後梁FG1を選んで先ほど作成したブレースを選び設定します。完了を押すと、わかりづらいですが赤い点線が表示されているのが、ブレースが入っている表示になります。フレーム表示にするとブレースが入っているのがわかりやすいです。
この状態で再度準備計算を回してみます。そうすると再度エラーとして【S梁の接手長の合計がスパン長を超えています】と出ています。
これは先ほど設定した継手の長さが、今回追加した柱によって整合性が取れなくなりエラーとして出てきた形です。このように一貫計算ソフトでは、1つ1つに情報を与えているので、変更があると何かしらの不整合が出てしまいます。そのため多くの変更があると、それらの整合性を取るための編集がとても大変になります。この修正も先ほどと同様に、部材断面の更新を行う必要があり、変更後再度計算をするとエラーが解消されます。この計算後、実務では準部計算結果図やテクスト表示を見ます。これらは節点重量や各部材のCMQが何kN程度か、Ai分布から地震力がどれくらいかをみて、モデル化が間違っていないかを確認します。
これで問題なさそうであれば応力計算まで行います。その時【計算ルートが指定されていません】と出ますので、計算ルートの判定をみると1~3までのルートをどれも満たしてないことがわかります。今回の場合ではルート1にしたいので、標準層せん断力係数を0.3以上にし×を消す必要があります。
これを修正する場合は、建物の基本情報の地震荷重をXYともに0.3にします。
ここの画面では実務で設計が始まるときに、自分で設計該当地に対してどれが適切かを1つ1つ確認し細かい設定を行っていく必要があります。
これで再度応力計算をするとエラーが解消されていると思います。続いて断面計算を行います。そうするとたくさんのエラーが出てきます。おそらくこれがよく構造設計として外から見える部分で、例えば【曲げ耐力が不足しています】など断面がたりないため、断面を大きくして応力で問題の無いようにします。さらに曲げモーメントに対する検定比をみていきます。これは1以下だとOKという意味になりますので、このままだとほとんどNGということになります。検定比の図は見方があり、それに沿って見ることでどこがNGかわかるようになっています。実務ではこれをみて部材を変更する判断を行っていき、本来であれば1本1本部材を見ていく必要があります。例えば同じ部材符号の断面でも、ある通りの部材はNGが3か所ででており、もう片方の通りはNGが1か所だけの場合、そのまま3か所側に合わせて断面を変えてしまうと別の通りで断面がだいぶ余ってしまう場合があります。そのためそれぞれの断面の関係性を考慮しながら、再度部材符号を振り直しにより経済的な設計にしていくことがあります。
今回はそこまで細かい考慮は主眼ではありませんので、エラー内容を解消するために、適当に断面を設定して解消したいと思います。構造設計者は構造部材の剛性・耐力表を持っており、仮に今の断面の1.34倍の耐力が取れる部材がどれかはそこから探しています。部材の耐力と許容応力と剛性は一緒ではないため、耐力は上げたいが剛性は上げたくない、耐力も剛性も上げたいなどの場合でそれぞれ選ぶべき部材が異なります。
宮崎:そのあたりは自動化は難しいのでしょうか?
夏目:そうですね。プログラム上は自動化できますが、制約条件が多く、それが必ずしも最適になりません。例えば、ABの梁が直角に交わっている部分があるとして、許容応力に収まるものを割り当てていくと、Aの部材は梁背100、Bが梁背125になる可能性があり、そうなるとAとBの接続部分で仕口が収まらなります。それを修正したら今度は隣が…と数珠繋ぎ状に条件が発生します。それらを一つ一つプラグラムすればいいのですが、結局それが最適なものとはならず、あくまで参考程度のものとなると思います。
宮崎:ありがとうございます。大変さがすごいよくわかりました(笑)
押山、高橋、夏目:(笑)
押山:編集の大変さというか、構造設計の検討の大変さみたいなものはどのソフトでもさほど変わらないのでしょうか?
夏目:変わらないですね。結局のところそのあたりは設計行為であるため、ソフト側が何かしらエラーを出してくれるわけではありません。
ただ最近のソフトですと3次元表示に対応しているため、検討はしやすくなっていると思います。ではモデルの方を見ていくと、ルートの計算で偏心率があります。偏心率は建物のバランスをあらわす値になります。今回の場合はルート1で設計しているので関係ありませんが、ルート2の規定の0.1を超えているため×になっているので、バランスがよくないことがわかります。法律上建物のバランスがある程度規定されているため、そこに向かって修正していく必要があります。
また今回の目的とは違いますが、経済設計を考える場合は、
ある程度断面を納めた場合に、検定比をみてまだ余っているからもっと絞るということを永遠と繰り返して調整していくのも構造設計の仕事になります。できるだけ最適化していこうとすると当然部材が増え、符号が多くなります。ゼネコン設計部は工事単価を落とすことにダイレクトにつながるため、この一本一本の検定比をできるだけ1に近づける場合があります。反対に組織設計事務所の場合はそこまではやらないこともあります。理由は施工者が未定の段階で設計する場合が多いので、部材数が増えれば監理も管理も負担が増え、そういったことも含めて本当に全体工事費を下げられるか、設計事務所が期待する品質を担保できるか必ずしもわからないからです。
押山:計算書にこの図が載ると思いますが、設計者側は「ここの部分が経済設計できてない」みたいな指摘をするんでしょうか?
高橋、宮崎、夏目:いや、ないですね。(笑)
夏目:このあと計算書の出力までやるので、それをみていただいて、どういうものか感じていただければと思います(笑)まず先ほどの部材の修正で、再度断面計算するとエラーが解消されると思います。そうしましたら、印刷書式と項目の設定があるので、そこから構造計算書を作成することができます。その後印刷でpdfで出力します。中にはどのルートで計算したか、柱梁の基本応力、鉄骨の断面などたくさん項目があります。
構造計算書の中には、一貫計算プログラムを使う際に、注意すべき内容を記入しなければいけないことが多くあります。
この規模でこのページ数ですから、先ほどの断面検定の図をみて指摘することが大変難しいことがわかると思います。ちゃんと指摘するにしても、どのような内訳で検定比が計算されているかを見る必要があります。これで一貫計算プログラムを触るワークショップは終わりにしたいと思います。
押山:ありがとうございました。とてもよかったです!構造計算ソフトがあくまで、構造設計者の電卓のようなもので、編集やモデルを作るためのものではないことがよくわかりました。また構造図と解析モデルで乖離が生じる理由もよくわかりました。データ連携や互換性がシームレスになることで検討の回数が増え、設計の質が上がるような気がしていましたが、そもそも連続して起こる編集に耐えられないことが実感できました。またその自動化も難しい。やっとDIXの田村さんが言っていた大変さが分かりました。(笑)
夏目:よかったです(笑)四角いあるパターンで完結するような建築であれば、自動化などの意味もあると思いますが、それがある特定のパターンから外れた場合はどうするのか?というところですね。やはり全体形状が大事なので、初期検討段階で構造のストーリーを固め、編集の得意なRhinoなどで、ある程度偏心率などを収めておかなければいけません。そうしないと、結果的に解析した後で無理だったことがやっと分かり、もう一度構造計画から考え直して、データ入力も手戻りになってしまう。さっきもやったように、形状が変わるというのは構造解析のソフトとしてはとても大変なことなんですよね。
押山:設計者に対しては、ストーリを固めておいた方が結果的に意図した建築に近づけられるし、負担もお互いに減るというのは了解が得られそうな気がしますが、仮に我々が間に入っていわゆるデータ管理をすることでこういうことができますというのは、発注者(建築主)に対しては了解を得るのが難しそうですね。意匠設計側では構造設計側でこんな風に入力しているって知らないですよね?
宮崎:知らなかったですね。「なんか時間がかかるらしいよ」みたいな(笑)何をしているのかまでは、いまいちわかっていなかったですね。
押山:あとはKaramba3Dにて構造解析を行うことの必要性が、最初はビジュアライズ出来て、意匠設計者側に上手くフィードバックできるからいいということもあったんですが、一番はその後ろに控えている構造計算ソフトでの手間をできるだけ少なくするためのものであるとわかりました。
あくまで構造計算ソフトに渡すときは清書なんだという意識をもつことが大事だなと思いました。
夏目:注意点としては、Karamba3Dは日本の法適合確認をできるわけではないので、あくまでここで大きく変更は起きないだろうという方針を掴むのに使うのがいいと思いますね。
押山:普段の業務では構造ソフト側で編集してやり取りしてると思うと本当にお互いに大変だなと感じますね。これは馬鹿にしているとかではないですが、ちゃんと設計する必要があるってことなんでしょうか?(笑)
夏目:当然の帰結ですね(笑)
宮崎:設計は一応ちゃんとやってるつもりなんですけどね(笑)
でも現場にいってからあれあれって感じになるんですよね。
押山、高橋、夏目:(笑)
押山:多分「ちゃんと」が何を指しているのかがいまいち分からなかったのだと思います。今回で言えば構造のストーリーを意匠と擦り合わせておかないと、プロセスの後ろの方で構造計画を変える必要が出て、構造計算ソフトで編集する工数が増えるということだったり、意匠側でこの判断が遅れると、その他のステークホルダーではさらに遅れてしまうとかですね。それらの共有が出来て初めてであるとか、わからないってことなんだと思います。
宮崎:そういうところはあると思いますね。
押山:夏目さんに質問なのですが、最近設計者の人から話を聞いたときに、建築の整合性をとるのはこっちの仕事ではなくて施工側でやるものだと言っていたんですね。整合性については本来であれば設計者側の責任範囲のはずなんですが、実務的に考えると設計者が仮に納まりを提案したところで、施工側で提案した物の方が安くできたり、そもそもその納まりができなかったりするわけで、設計者が描いても結局は施工者が決めた方がお互い楽だよねという利害関係が一致している状態があると思います。そうなると設計の業務を施工者がいくらか肩代わりすることになるので、責任の範囲があいまいになったり、問題が起きたときの原因を見つけることが困難になります。これは日本特有の建築業態ではありますが、そのあたりはどのように考えていますか。
夏目:責任があいまいになるのは確かにそうですね。後はアメリカやイギリスの設計では、発注者の下にコンサルがいて、プロジェクト全体を面倒みることがありますが、日本だとその文化が薄いですよね。日本の場合その部分を設計者がやっている場合があるので、そうなると連携が出来ずトラブルにつながりやすくなると思います。設計で請けているにも関わらず、立場上プロジェクトコンサルも並列してやるようになってしまっていることはあるので、そういった意味でゼネコンとは違った総合設計請負業ではないですが、プロジェクトのまとめ役はあった方がいいかなと個人的には思います。
押山:あとは発注者がどのように考えるかですね。ありがとうございます。意匠と構造のストーリーについてとてもよくわかりました。これでワークショップとしては終わりにしたいと思います。
宮崎、高橋、夏目:ありがとうございました。
まとめ
・一貫計算上の配筋と図面の配筋は必ずしも一致しないことがある
・Karamba3Dは日本の法適合確認をできるわけではない
・構造計算ソフトは編集ソフトではなく計算ソフトであり清書として考える
・プロジェクトで第三者としてデータなりプロジェクトをまとめる役がいた方がよい
※夏目 大彰 / HIROAKI NATSUMEさんのHPはこちらです。
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