意匠と構造のストーリーを理解する その2
全4章
設計検討 2
押山:夏目さん本日もよろしくお願いいたします。今回レンズ案については、事前にデータを夏目さんにお渡ししていたので、Karamba3Dで構造解析をしていただけました。そちらの解説も後ほどお願いしたいと思います。
それではレンズ案より始めていきたいと思います。高橋さんお願いします。
高橋:お願いします。前回の打ち合わせから、アリーナの方は屋根を二重レンズとし、上下を繋ぐ筋交いと束を入れてありますが、屋根の梁と柱が合っていない状態です。柱の下部は太くなってもいいですが、上部に行くほど細くしたいと考えています。本数が増えてもいいので、できるだけ柱を細くしたいです。下屋の方は120角で大丈夫ではないかと思っています。耐震要素としてアリーナ駐車場側にはロッド筋交いを配置し、下屋も同じく中央の通り芯に配置しています。全体的に軽やかな印象になるよう考えてみました。
まとめると以下になります。
・アリーナ部分はXY共にレンズ型の屋根架構として力を閉じて、柱を細くしたい。柱の数が増えてもいい。
・耐震要素はY方向に多くロッド筋交いで配置してあまり目立たない形でバランスよく配置したい。
・アリーナ上部は意匠的にある程度閉じる予定なので、同じようにロッドを上階部分のXY方向に配置して剛性を取りたい。
アリーナ壁の目線の通りに関しては、上部の半分程度に壁を入れていこうと思いますが、下の方は目線が通るようにしたいと考えています。残る課題としては柱上部の剛性をどのように高めていくかだと思っています。
夏目:わかりました。ありがとうございます。
それでは実際に構造解析したものを見ていきたいと思います。意匠説明を事前に聞いていなかったため、全体として一旦ラーメン構造で解いています。状況としては、初期検討としてとりあえず全体の変形や応力の様子を見るために、全部の断面が400となっています。状況としては、想定よりも断面が大きくなっており全部の断面が400となっています。変形をみてブレースをどう入れていくかの段階になりますので、それを前提に共有できればと思います。
屋根については、100×100のHで計算しています。意匠側ではブレースをいれていましたが、構造としてはブレースなしでも成り立つようになっています。そのため想定した軽やかさが出ているのではないかと思います。また、長期荷重で見るとオレンジが圧縮で緑が引っ張りになりレンズの中で力が釣り合っているのがわかります。当初の目論見通り力が閉じて、柱に余計なモーメントが入ってないことが分かりました。
押山:この解析結果をみてブレースを入れたり、柱の断面を考えたりすると思うのですが、どのように判断されているのでしょうか?
夏目:断面の外形は基本的に通しで同一断面となり板厚で箇所ごとの調整をします。そうなると応力が大きいところで断面が決まるので、この場合ですと左コーナー部分が負担しているのがわかるので、ここの断面を絞りたいのであればブレースを入れるということは考えられます。しかし、ブレースを入れると変形モードが変わってしまうので、今後この部分の柱に軸力がすごく掛かることになると思います。また動線計画の兼ね合いで、中央は入り口にするので、その隣は壁にして上から下までブレースを入れるということになり、その部分に関しては軸力が集まるために柱は少し太くなってしまうなど考えられます。そのため一概にモーメントだけをみてブレースをかければいいというわけではありません。
高橋:下屋の方は長期荷重に関してどうでしょうか?図を見ると上屋の梁部分はそこまで力がかかっていないように見えます。
夏目:そうですね。屋根荷重分しか長期荷重は入れていないのでそこまで大きな軸力はありません。ただし今回はアリーナ側と下屋で想定仕上げ材を変えており、アリーナ屋根は金属の棒吹きのような軽めなもので、下屋はアス防のようなしっかりした重いものにしています。アス防と金属系だと長期荷重が5倍くらい異なるため、相対的に見ると下屋の方が軸力が大きくなります。とはいえ下屋に関しては柱も短く架構も小さいので構造的に不利にならないと思います。
押山:長期荷重についてはわかったのですが、座屈などはどのように考慮するのがいいのでしょうか?
夏目:今回の場合は、アリーナ長手方向の中柱が少し不利といえるかもしれません。このモデルでは断面を400と設定しているので座屈の心配はない状態ですが、100~200まで落とすとつらいと思います。例えばですが、地震時に荷重が入らなければいいので、アリーナ短手にブレースをたくさん入れるとこの部分に軸力が集まるため、中柱が楽になります。逆も同じになりますが、ちゃんと荷重分散を行えば意匠計画に近づけることが出来ると思います。
高橋:理想としては断面に差が出ないようにしたいのですが、仮に短手の柱本数を増やしていけば、断面は小さくなるのでしょうか?
夏目:ラーメンであれば増やすと効くと思いますが、ブレースの計画とするなら、ブレースは45度が一番効くので、単純に増やしていっても頭打ちになることが考えられます。柱の本数が増えれば応力としては下がるので、ブレースとのバランスをどう考えるかだと思います。
宮崎:少し話がずれますが、学校の改修などで四隅にブレース端部がこない火打ちのような耐震要素を入れている場合がありますが、効果としては45度ではないブレースとあまり変わらないのでしょうか?
夏目:どうですかね。。。ハの字の火打ちのように部材の途中にとりつくブレースを入れたりすると、部材の中央に力が入って変なモーメントが生まれてしまい部材が不利になってしまうので、しっかり検討されている必要があります。後は施工上接合部が増えることもあるので、どれを取るかという話にもなってきますね。
高橋:例えば、この部分の断面と、面外方向の座屈を抑えるために、2本柱を立てると改善していくものなのでしょうか?
夏目:改善すると思います。あとは柱の座屈長を短くするために、縦だけでなく横にも梁を増やしてあげるなどがあります。体育館でよくみると思いますが、柱間をトラスで繋ぐのも一つの手法です。
高橋:意匠としては、横だけに材を増やしたAパターンと縦だけを増やしたBパターンを見てみたいのですが、その場合Karamba3Dで解析するための線はこちらで用意するとしてどれくらいかかるものなのでしょうか?
夏目:そんなには時間がかからないと思います。というのも解析する前段階として全体架構計画みたいなものが構造側にもあり、そのセットアップフェーズがあります。前回の打ち合わせからだいたいですがそのセットアップを終えているため、あとは変更された線を読み込めば基本的には解析を回せるような状態になっています。
押山:構造側が一体何を準備しているのかを意匠側は理解しておく必要があると思います。箇条書きで構いませんので今回のモデルについて共有いただくことはできますでしょうか?
夏目:以下が意匠のRhinoのカーブデータから解析モデルを作成するステップになります。
押山:ありがとうございます。今回Karamba3Dで構造解析を行っていますが、実務的には一貫計算ソフトとの切り替えがあると思いますが、そのあたりはどのように考えているのでしょうか?
夏目:今の段階を基本計画とすると、このあとブレースの位置などの方針の調整を行うところまでがKaramba3Dとなると思います。実務ベースで考えるとKaramba3Dを使用して全体を構造解析していくのは難しいので、屋根だけを取り出して、膨らみの形状を変えたくなったときに素早く調整し解析まで行うのが理想だと思います。現状は屋根にしか荷重をかけておらず、仕上げも柱も大きめに入れて全体として破綻が無いようなチェックをしています。この先の工程としては、ファサードにはガラスなどの荷重があったり、バスケットのゴールがつくから荷重がついたりというのが、フェーズごとに細かくあります。例えば、ここでバレーボールもやりたいよねとなったときに、裏側にむくりをつけた場合どうなるのか?などもあるので、それらの情報は一貫計算ソフトに入れていくことになります。
押山:Karamba3Dの他にも構造計算用ツールがありますが、境界条件設定や断面、モーメントを見ての判断など、意匠設計側がそれらを使用して検討するのは難しいと思うのですが、いかがでしょうか?
夏目:難しいと思いますね。出来ても意匠設計者が検討しやすいようにセットアップした状態で、このスライダーで調整することが出来ます、という状態だと思います。
押山:ありがとうございます。そう考えると構造の前提知識がないとそもそもKaramba3Dを意匠側で使う意味はあまりないですね。むしろ迷惑になりそうな気がします(笑)あと今回夏目さんにデータをお渡ししましたが、そこでの気を付ける点や配慮などはありますでしょうか?
夏目:気をつける点としましては、線分を部材ごとに切断しておく必要があります。どこまでモデル化するかですが、例えばブレースは交わってる部分で切断してはいけないや、小梁をいれた場合は解析上、大梁を切断しないためそのあたりは配慮する必要があります。構造設計者が必ずしもRhinoやGrasshopperに慣れているとも限らないので、例えばRhinoが得意な意匠側がどこまでやって、慣れていない構造側がどこまでやるのか、そのあたりは意匠と構造ともに歩み寄りが必要かなと思います。
高橋:前回は屋根から流れるモーメントについて注力していましたので、意匠側もそこを意識して作りました。次回は、今回夏目さんが説明くださった軸力のバランスについて、意匠的にまとめて建材サイズを詰めていけたらと思います。
押山:そうしましたら高橋さんの案は一旦これでいいと思いますので、宮崎さんの方に行きましょう。宮崎さんのドーム案をどのような方向で検討するべきか、夏目さんに相談していきましょう。
宮崎:2パターンの架構を考えてみたのですが、形状がユニーク(米粒形状)なため、イレギュラーな箇所が多く出てきてしまいました。今後の検討方針としてアドバイスいただければと思います。
夏目:02案の方の低層部は柱と梁のバランスが良いと感じたのですが、
上部では一点に材が集まっているため、この部分に関しては製作上困難だと思います。そのため単一焦点を2つに分けるなども考えられると思います。
高橋:例えばノーマンフォスターの事例でもそうですが、頂部を点として解決せずにリング状に解決していくというのもあり得るのかなと思います。
押山:その場合凹んでいる部分との兼ね合いはどうなりますか?(笑)
夏目:(笑)
宮崎:そこがね(笑)
高橋:そうなると素直に門型で梁をかけたくなりますね(笑)
仮に凹み部分との境界部分でがっちり固めた場合、全体の構造としてはどうなのでしょうか?
夏目:やはりリング型でできたものが途中で切れてしまうと、構造としてはつらいので、なにかしらの緩和策が必要になると思いますが、ドーム案01の方を見てみると比較的凹みに対して違和感なく考えられると思います。
高橋:ドーム案01では短手側から見るとひし形の構造形式が崩れてしまっているのですが、その場合はこの部分に背骨を入れるようなイメージなのでしょうか?
夏目:背骨だと向こう側の凹みとの取り合いがありますので、小さいリング状の架構を追加して、場所によってはブレースを入れる方がいいかもしれませんね。
押山:ふと思ったのですが、このような架構でもいいのでしょうか?
夏目:形状として軸力だけで処理したいならカテナリーなどの形状がいいと思いますが、凹み部分はカーブの連続性が切れ、きれいな形状にならないのでモーメントが発生してしまうので、ラーメンのような曲げ抵抗でも考えるといいと思います。ただし倒れている部分に関しては構造的なアプローチとして、傾けた時にN:軸力とM:曲げモーメントに何パーセントずつ使うかがあり、良い角度を探すには解析しなければなりません。その場合持ち帰りとなって、これ以降決められないことになってしまいます。例えばKaramba3Dで傾き具合に応じて、この傾きだと軸力が出すぎてしまうから座屈してしまうけど、この傾きだと曲げが結構でるからよさそうだねというような、NとMの比率をみる検討を意匠と構造でパラメトリックにいい角度を一緒に探すことができれば、基本計画の課題として面白いと思います。
押山:それはいいですね。そうしましたら、宮崎さんの方で架構の角度をパラメトリックに変更できるプログラムをGrasshopperで作成し、それをもとに夏目さんの方で傾きに応じた解析結果を出力をしてもらいましょう。
今回の説明を通じて、まだ全てではないですが、構造側の大変さや何を必要としているのかがよくわかりました。データ連携によって回転率を上げることで質を高めていけるのでは?と考えていましたが、むしろ意匠としてのストーリーを明確に決めて伝えることの方がずっと建築を作るうえでは効率的で質の良いものができる気がします。また意匠側はKaramba3Dなどの構造ツールを覚えるよりも、構造側にデータを渡すときの配慮や出されたモーメント図、言われている意味を理解していることの方がスムーズに連携できることがわかりました。それでは夏目さん今回もありがとうございました。
高橋、宮崎、夏目:ありがとうございました。
まとめ
・意匠側で構造計算ツールを使うのは難しい
・Karamba3Dでは基本計画段階や一部を取り出して使用するのが好ましい
・データ連携では受け取りやすいようにデータを整備し、ストーリーを明確にすることが結果的に質の高い検討となる
※夏目 大彰 / HIROAKI NATSUMEさんのHPはこちらです。
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