問題意識のはじまり
野村不動産 「超高級タワマン」のトラブルに購入者が大激怒
https://friday.kodansha.co.jp/article/185690
最近このようなニュースを見かけました。記事の中では設計図通りに工事が行われていないとありましたが、この設計図を3Dに起したらどうなっているのかも含めて見てみたいなと思いました。単なる好奇心ですが、本当に設計図通りに工事が可能だったのかも含めて検証したいものですが、パンドラの箱を開けるわけにはいかないでしょう。建築を建てる時に検査機関や行政の担当者と、完了検査とよばれる構造や設備、法的に問題ないかのチェックを行うのですが、それでもこのような問題が出てしまうのはどうしてなのでしょうか。建築の工事というのはいろいろと隠せてしまうというのもありますし、大きい建築物を端から端まで検査していくというのは人員的にも時間的にも不可能なのが現状です。今後どうやって建築の検品を行っていくのかも大きな課題だなと思いました。
前回の続きですが、建築生産プロセスに違和感を持つきっかけについては、私たちの仕事の内容とともに紹介するのがわかりやすいと思います。まず建築生産プロセスは発注者を出発点として大きく設計と施工にわかれます。
ここではそれぞれ検討用(設計)と製造用(施工)と2つのモデルを必要とします。私たちの業務はざっくりいうとそれらのモデルを作成することです。検討用というのは、その名の通り検討することが目的であり、厳密な精度やデータの品質などは気にせずに、視覚的に意図を伝えることや、かたちの構成を理解するために使用され、建築生産プロセスの初期段階に必要とされるデータだと思っていただければよいです。建築の設計はあらゆる要素が複雑に絡み合うものなので、モデルを作っては修正を何度も繰り返すことで建築が作られていきます。最初から事細かく3Dデータをつくることは仕様が決まっていない段階では不可能でもありますし、あまり意味のない行為になりやすいです。
設計フェーズの検討用モデル
もう一つの製造用モデルは、厳密な精度や品質などを担保し、このデータをもとに施工するための条件を決めたり、建築に必要な部材が工場に発注がなされたりします。当然ここで間違えていると、実際に建築を組み立てていこうとなったときに、あれ?合わないぞ?というようなことが起きてしまいます。
設計フェーズの検討用モデル
少しわかりづらいですが、データの詳細度合いが高くなるくらいに思ってください。
そして私たちは後者の3Dデータを作ることを主な業務としています。
もちろん検討用モデルを作る時もありますが、依頼されるのは、あくまで特殊な建築プロジェクトに限られますし、設計側の予算が施工側の予算よりも少ないためプロジェクトによっては依頼出来ないなどがあります。
ここでいう特殊というのは、ザハ(Zaha Hadid)やゲーリー(Frank Owen Gehry)に代表されるような、複雑な曲面形状や複雑な構成をもった建築物になります。大前提として前述したような複雑な建物は実現可能かどうか難しく、日本では耐震の問題や建築に対する考え方の違いなどもあり、なかなかそのような建築のデザインをする設計者もいません。もしかしたら我々があまりにも零細企業過ぎてそのような設計を考えているプロジェクトに認知されていないだけかもしれませんが。(笑)
このように3Dデータと言っても建築を作る過程で役割が変わってきます。
こうして私たちは建築プロジェクトに入っては、前述したようなモデルを作ってきたわけですが、設計と施工では必要とするモデルの内容が違いそのギャップを埋めることが難しいということを常々感じていました。本来であれば、設計者はどのような建築を作るかに時間を割くべきだと思いますし、施工者はどうやって建築を作るかに時間を割くべきだと思いますが、そのような環境を作ること自体が大変難しいのが現状です。このような状態を何とかできないものかと考え始めたのがマガジンのタイトルにあるような透明な建築生産(仮)というものに繋がっていきます。
1つここでお伝えしておかなければいけないのは、3Dデータを用いて検討用モデルや製造用モデルがきちんと作られているプロジェクトは日本の建築業界ではほとんどありません。ある一部分を検討するために3Dデータを作ることはありますが、それ以外はほぼ全て2D図面での検討になります。その要因としては、日本の建築の制度や契約などは2Dの図面を前提とした構造が挙げられます。3DCADが1970年頃に開発されてから、飛行機、造船、自動車、プロダクトを経て建築業界へも取り入れられてきましたが、日本の建築生産で広く取り入れられてきたのは、2010年に国交省がBIM(Building Information Modelingと呼ばれる建築データの取り扱い方)を導入すると発表してからの10年ほどのことです。また日本の場合はこの3DCADやBIMが教育を経て社会で使われるというよりも、社会で使われてから、大学でも教えるようになったという流れがあり3DやBIMに精通した技術者自体が建築業界では不足してしまいました。大学教育に取り入れられるようになったのもここ最近です。
また会社内部のフローや社会的な制度も含めて追いついていないため、仮に稀有な技術者たちを会社が獲得したとしても、上手く指示が出来ないであるとか、とにかく何でもやってくれる便利屋のようになってしまい疲弊させることになっていました。これは実際に今でもあり、私の知人なども同じ状況下にあります。なぜそうなるかと言うと、建築を作る際の申請書類や契約がまだ図面ベースであるにも関わらず、検討段階では2Dと3Dを並列で作成することによって作業量が膨大になるためです。
そのため、ある図面は2Dで、また別の図面は3Dで作成されることで図面間の不整合が起きやすくなりやすく、データの整合性を調整する業務にものすごい時間をとられます。建築を作ること自体が法規や構造、金額、意匠などとの調整業務なのですが、その作業が価値ある調整なのかは考えなくてはいけません。また建築を作るためには、意匠、構造、設備、工事の業者など、多くの専門家の協力が必要になります。戸建ての建築プジェクトでも20~30社、一般的なビルであれば50社を超えてきます。その中の一人だけが3Dを扱えても、それを見ることが出来ないとか、そこから検討することが出来ないという問題が起きてきます。そうすると業務自体を肩代わりする必要が出てきたり、3Dデータの作成経験がないために、社内では簡単に出来るのだろうと誤解され、無理なスケジュールで頼まれたりします。
ここ10年ほどでAIだBIMだDXだ、何だといってはいますが、言葉の浸透具合に反比例して現状は特に変わっていません。しかし、言葉にしていると夢は叶うともいいますし、あと10年すれば変わっていくのかもしれません。冗談はさておき技術的な問題は10,20年とかけて啓蒙していくしかありません。しかし、構造的な問題は啓蒙では難しいため、地道にでも実践し、どのようにして新たな建築生産プロセスを提示できるのかがこれからの課題になります。このような状態を目の当たりにすると教育とか政府の方針の大事さを身に染みて感じる今日この頃です。今の判断の遅れが平気で10年とか20年を停止させないよう、また次世代へと問題を先送りにしないようにしていきたいですね。
P.S
ちなみに社名の由来ですが、我々の業務は建築を建築可能にするために幾何学的なルールを与えたり、整合性が取れるよう提案したりするものになるのですが、それが学生の頃やっていた白いボリューム模型から少しずつ更新し、建築模型にしていく行為に今の業務が似ているなと思ったので、始まりのかたちとして白い矩形から取り白矩としました。