建築プロジェクトはどこへ向かうのか(4)データの変更管理について
はじめに
建築プロジェクトは建物が建つまでに、常に変更・追加が行われる性質を持つため、それらの状況に合わせて建築データも対応していく必要があります。建築物が巨大化、複雑化するほどデータ管理が上手くできないと致命的な問題に発展していきます。そういう意味では今後より高度な設計に依る建建築物を成立させるには、、データ管理は避けて通れない問題です。
誰がデータを管理をするのか?
建築を作っていく際の主なステークホルダー(建築生産に関わる業種)を見ていきましょう。
建築のデータというのは、各業種(本来であれば最低でも50社くらいは関わっていますが便宜上割愛しています)によって作成・保存されています。当然そこでは作成に必要な情報や仕様なども異なっており、それらを各業者ごとに共有しながら建築プロジェクトは進められます。各業者はあくまで自身の業務範囲に留まるデータ管理となるため、建築プロジェクト全体のデータを管理することはできません。また建築プロジェクト全体のデータを管理されていないということは、プロジェクト全体の状況がつかめないことを意味しますので、プロジェクトの状況を知るためには、伝言ゲームになるか、こちらから質疑する必要があります。これまでは、施工者側が結果的にそれらの情報を統合してきましたが、入札の前段階で整理することには無理があります。
結局のところ誰が建築プロジェクト全体のデータを管理する必要があるのか?それは発注者です。建築プロジェクトの構造上、発注者側だけがデータを管理できる立場にあります。今後の建築プロジェクトでは、発注者が建築プロジェクト全体のデータを管理することは必須になると思います。
今までは発注者優位のまま建築プロジェクトは進めらてきましたが、実際のコストやリスクなどを考えた時に、本当に優位なのだろうか?と考えなければなりません。実際に発注者側でデータを管理できるのであれば、透明性や公平性が向上し、発注者自身も関連業者も不必要なリスクを飲み込む必要が無くなります。それは建築プロジェクトそのものの質が向上することを意味し、作られる建築の質もより良くなることを意味します。
BIM
現在のデータ連携は、あるルールに基づいて共有されるのではなく、随時出来上がったデータをお互いに投げ合っていきます。
業者間のデータのやり取りは下記のようなイメージになります。
常態的にこれらが行われると、いつ、だれが、どういう理由で変更・追加したのかがわからなくなり、問題に気が付くのが遅れます。問題に気が付くのが遅れると、出戻りが発生しスケジュールが圧迫されることを意味します。もちろん問題が起きないようにすること自体は不可能ですので、如何に早く問題を見つけるか?または起きうる問題を想定しながらデータを管理をしていく必要があります。
これらの状況を解決できるのではないかと期待されたのが、いわゆるBIM(Building Information Modeling)と呼ばれるものになります。
これは仮想上に作られる建築の形状に対して、梁や壁、仕上げなど建築を構成する情報を付与しながら建築プロジェクトを統合的に管理するという考えです。ただし昨今ではBIMという言葉が広義に使われるようになったため、私の理解としては上記のように定義しておきます。
BIMは2009年頃から各企業が取り組み、2019年には国交省がBIM/CIM原則化を発表しています。しかし、実際は上手くいっているとは言い難い状態です。BIMとはその性質上標準化というものが付いて回り、建築を作る際にはある程度のフォーマットや手順によってデータを作るなり、入力するなり、参照する必要があります。しかし、日本では1980年代後半から体系化して来た、各社独自の仕様や手順に則った建築生産プロセスがあり、それらの利害関係を考慮しながら建築生産プロセスの標準化を定めることは困難です。さらにみんなが納得するようなものを目指したとしても、結果的には実務上使いづらいものとなり、運用方法として広まらないかもしれません。
国交省は実務上どうあるべきなのか?建築生産プロセスの透明性や公平性をどうしたら担保しながらプロジェクトを進めることが出来るのか?など考えながら進める必要があり、BIM/CIMの体系的なシステムを構築することは大変難易度の高いものとなるでしょう。
余談ですが、標準化の歴史については「ものづくり」の科学史-世界を変えた標準革命/橋本毅彦 が面白いのでお勧めです。標準化とは今でこそ当たり前の概念ですが、そこにいたるまでには、旧体制を破壊し、多くの軋轢を生んだことが書かれており、本書では標準化=製造の革命とまで言っています。
実際に標準化を上手く取り入れることが出来たかどうかで、国の行く末が変わってしまうのです。もしかしたら、建築生産プロセスの標準化は国の行く末までも左右するようなことかもしれません。
変更の管理
建築プロジェクトは常に変更がありますが、変更の管理においては大きく分けて設計変更と契約変更の2つがあります。日本においては、契約を変更し管理するという意識が基本的に希薄なため、建築プロジェクト上で起こるほとんどの変更を設計変更と呼ぶようになっており、追加費用や工期(工数)延伸に伴う、本来であれば契約を見直す必要があっても、設計変更という名のもと作業を行ってしまいます。業務事後に追加請求した場合には、契約的に考えれば、了解した扱いになるため、その承認は得られません。契約についての話は今後追記していきますが、先ずは設計変更(仮想上に作成される建築のデータ)について話したいと思います。
私の考えではこの仮想上に作成されるデータが整合性を持って作れなければ、そもそも建築プロジェクトの質の向上は見込めません。
しかし、実際にはその変更指示にデータの変更が追いつかないため、ある部分は図面(手書きかCADかの違いもある)を正とし、ある部分は3Dを正とするなど、担当者でなければ把握出来ないような状態で変更は行われていきます。当然、ミスを誘発することになり出戻りのリスクや特殊解(間に合わせや例外的措置)によって対応するようになります。今後の課題は、建築生産プロセスの順番とそれに対応した3Dデータの作成、業者間でのやりとりなどを考える必要があります。データの作成手法や管理方法などは次回記載いたします。