意外と知られていない建築が作られる過程
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00154/00814/
設計者の積算ミスによって訴えられる事例が出てきましたね。設計者側はこの辺りはかなりシビアに見ているとは思いますがそれでもこのような問題が発生してしまうようです。また入札してから発覚したというのも発注者側の確認不足などの可能性がうかがえます。今後も同じような事例が出てくるのではないかと思います。
一般的な建築生産の流れ
すこし話がそれてしまいましたが、まずは一般的に書籍などで紹介される建築生産の流れを紹介したいと思います。その次にその流れの中でどのようなやり取りが行われているのかを詳細に見ていき、少しでも建築生産に対する違和感を共有できればと思っています。まずは先に紹介した設計と施工で大きく分かれるという話をしましたが、建築生産の流れで言うと以下のようになります。
一般的な建築生産の流れ
これが建築を作る際の大きな流れだと思ってください。これをもとに少しずつ業務の内容や誰がこれらの業務を行うかも合わせて載せておきます。まず初めに企画とありますが、建築物を作るという時には、必ずその建築を作りたいと思っている人がいます。この人を建築主や施主と言いいますが、ここでは発注者とします。発注者は大きく民間と公共の二つに分けられますが、どちらも何かしらの建築需要が発生したことにより、どんな建築を作る必要があるのか、敷地をどこにするのかなど考える必要が出てきます。企画は基本的に発注者の役割となっています。企画が出来上がると、その要件や条件を踏まえて建築にしてくれる人に依頼することになり、この依頼先が設計者となります。設計者は発注者から依頼を受けて、設計期間や予算などを確認したのち、設計に移ります。設計の中には大きく基本設計と実施設計という段階があり、基本設計では建築の基盤となる空間や動線、部屋の大きさや数等の構成を決める必要があり、設計者は前回の記事で出てきた検討用モデルやパースと呼ばれるイメージ図などを使って発注者とイメージを共有していきます。
業務内容と役割
こうして、何度も検討し修正を繰り返していくことで、平面、立面、断面の図面が出来上がります。それが出来ると実施設計に移り、基本設計の図面を加筆していくようなかたちで、より詳細な図面を作成していきます。詳細というのは建築用語でいう収まりの検討を指しています。例えば柱の部分はどうやって接続する予定なのか?この設備はどう設置する予定なのか?というような、より具体的な検討を行うことを意味しています。
ここでは簡潔に説明するために設計者という名称で紹介してきましたが、建築は大きく分けて意匠・構造・設備と3つの分野から成り立っており、これらの分野にそれぞれ専門の職能が存在しています。意匠設計者は主として建築全体のかたちや構成を決める職能なので、発注者とのコミュニケーションが最も多くなります。そして基本設計や実施設計を行う過程のそれぞれで構造や設備の検討を意匠設計者から依頼することになります。
業務内容と役割(その2)
その次に、施工者を決めるため入札を行います。これは発注者が工事費用や施工自体の品質を担保するために複数の施工者が参加するものになります。入札制度もいくつかありますが、ここではオークションのようなものだと思っていただければ良いと思います。(今後紹介すると思います)
まず施工者側は入札する際に金額を提示することになります。その根拠が実施設計図となり、発注者は設計事務所から提出された参考金額と、複数の施工者から出された見積金額を比べ、適正だと思う施工者を選び工事契約を結びます。施工者は工事を行うために、実施設計図をもとに施工図を作成します。実施設計図と施工図の違いが分かりにくいですが、実施設計図は、優先してここの寸法をこういう風にしたいよ。この仕上げはこんな仕様と同等のもので作るように考えているよという法規的、計画的に押さえる仕様が書かれた図面です。
それに対して施工図は、実施設計図で目指していることを実現させるためにこうやって作りますという具体的な手順や製作寸法が明記された図面だと思ってください。(実施設計図と施工図の違いは株式会社池下設計様のサイト を見るとわかりやすいと思います。)
工事費の構成
施工図を作成した後は、製品図というものを専門工事業者が作成します。製品図とは建築物の各部品を製造するための図面になり、これを工場に送ることで、建築の工事のスケジュールに併せてそれぞれの部品が各工場で作られ現場に届くことになります。これが遅れると当然施工図を見ながら組み立てている時にここに必要な部品が無いということで工事が止まってしまいます。このように様々な下準備をすることで、実際に工事が始まりますが、図面があるからそのままよろしくというわけにはいきません。工事の過程でミスが無いように、実施設計図・施工図通りに建築物が建てられているかを建築士が監理する必要があります。意匠的なチェックを行う現場監理と、工事全体をスケジュール通りにすすめる現場管理によって建築現場をコントロールします。現場監理は主に意匠設計士が行い、現場管理は施工者側が行います。こうして何年何ヶ月という長い時間をかけて建築物が完成(竣工)し、完成後は建築の検査が行われます。検査はまず施工業者が社内で行い、次に設計者や現場監理担当者を交えて検査を行い、完了検査として行政または審査機関立ち合いの元検査を行います。最後には発注者に行う施主検査の後に引き渡すことになります。これが基本的な建築生産プロセスとなります。
業務内容としてはもっと細々としものがありますが、大枠としてはこれを前提に考えてもらえると良いと思います。次回は実際の業務としてはどのようになっているのかを少しずつ紹介できればと思います。