「歩く脱糞機」と呼ばれた男
「歩く脱糞機」と呼ばれたことがある。
素行が悪かった学生時代、
校内で発生したあらゆる良からぬことの主犯は、ほぼポピーと断定された。
真犯人をわざわざ特定する手間をかけるよりも、
とりあえずあいつが悪い!
としておいた方が、先生方としても楽だったのだろう。
素行が悪いと言っても、盗みや弱いものイジメなんかするはずもなく、
売られたケンカを適正価格で購ってみたり、
やたらと傾いたヘアースタイルにしてみたり、
ファンシーなものを色々と吸引してみたり、
そんな程度のものだったのだけど。
その日は、体育倉庫からスーパードライの缶が数本発見されたということで、
緊急のホームルームが開かれた。
「おい、〇〇!
またどうせ、お前だろ!
お前しかいないんだよ、こんなことすんのはよ!」
と、例によって決めつけから入る、
先生の鑑のやうなスタンスを担任が取られたので、
「いえ、ボクはサッポロ派ですので」
と至って冷静に反論をしたところ、
担任はふんふんと汽車ぽっぽみたいにポピーに詰め寄ってきて、
「お前なんか、
歩く脱糞機だ!!!」
と叫んだ。
ポピーは吃驚して、
「なんですか、それ?」
と思わず尋ねると、
「お前なんかな…!
歩く脱糞機だ!!!!!」
と、もう一度叫んだ。
同じことを二度も言うということは、
とても大事なことなんだなと直感的に理解できたが、
脱糞機なんてものは見たことも聞いたこともないし、
脱糞する機械なんか開発する理由もわからないし、
機械だったら別に歩かないでタイヤとかキャタピラみたいなので進みながら糞を撒いたらいいのではないかとも思った。
ファンシーなものを色々と吸引したポピーの約100倍のインテリジェンスを感じたが、
ここでもう一度、
「なんですか、それ?」
と尋ねた場合、
三度目の脱糞機の降臨が懸念されたので、
「はい、そうかもしれません」
と回答した。
その後、
「おい、認めたな!
それは、お前がやったってことだな!そうだな!
blah blah blah…」
と様々な理不尽な罵詈雑言を浴びせかけられた気もするが、
「歩く脱糞機」という言葉が頭から離れず、
ぽーっ、と白痴のやうな感覚に陥ってしまい、何も耳に入ってこなかった。
その後、自宅にもお叱りの連絡が入り、母が
「うちではスーパードライを出したことはない」
とか余計なことを言っていたような気もするが、
「歩く脱糞機」というあまりにシャイニーな言葉の影響か、
なぜだか当時の記憶があいまいだ。
「歩く脱糞機」
その言葉は甘くてクリーミィーで、
こんな素晴らしいキャンディをもらえる私は、
きっと特別な存在なのだと感じました。
今では私がおじいさん。
孫にあげるキャンディはもちろん「歩く脱糞機」。
なぜなら彼もまた、特別な存在だからです。