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井上陽水のエゲツない押韻
はじめに
邦楽史上最も偉大な作詞家は誰か……
邦楽に詳しいわけでもないから語る資格はないにしても、個人的には井上陽水を挙げたくなる。
井上陽水の歌詞の世界は不思議でありながら現実的で情景がスッと脳内に浮かんで来る上に歌として聴いて心地良いと思っている。
今回はその聴きやすさを支える押韻について紹介したい。
①Just Fit
井上陽水ファンの中ではメジャーでありながら、この曲を知っている人は少数派だと思う。妖艶な雰囲気と疾走感のある歌詞が不思議とマッチしている。
バックミラーはあとを見るかがみ
ヘッドライトは前を知るあかり
かがみ→KaGaMi
あかり→aKaRi
とすべての母音で韻を踏んでいる。どちらも車の機能を単に説明する歌詞でありながら韻を踏んでいることで気持ちよく聴こえる仕掛けになっている。
②Make-up Shadow
この曲は井上陽水に詳しくない人でも知っている人が多いのではなかろうか。最近は井上陽水トリビュートでヨルシカがカバーしているのでヨルシカが好きな人も是非聴いてみて欲しい。
初めての口紅の唇の色に
恥じらいを気づかせる大人びた世界
初めて→HaJiMeTe
恥じらい→HaJiRai
このあたりは井上陽水の頻出テクニックでフレーズの頭の韻を揃えるというもの。今回はHaJiまで一致しているのが面白い。更に
"くちびる"と"おとなびた"で"び"というあまり使わない音を似たフレーズのほとんど同じ位置に持ってくることで繰り返しの魅力がグッと強まっている。
このあたりは個人的には狙って歌詞を作っている気がしている。
1-B
あこがれは 鮮やかなランブリングサマーシャドウに
(中略)
2-B
黄昏は 様々なロンリーサマーシャドウに
これは1番Bメロと2番Bメロの比較になる。おそらく作詞全体のテクニックであるが、同じメロで同じ韻を踏むというもの。
あこがれ→aKoGaRe
黄昏→TaSoGaRe
鮮やか→aZaYaKa
様々→SaMaZaMa
この2組もすべての韻を揃えており、2番を聴いた時にオッと1番との繋がりを感じさせてくれる。
おわりに
井上陽水は作詞の時に意味が重複したフレーズや存在しない単語を躊躇なく入れてくる印象がある。
意味が重複したフレーズ
・誰も知らない夜明けが明けた時
・部屋のドアは金属のメタルで
存在しない単語
・夏がすぎ風あざみ
・夏祭り宵かがり
・八月は夢花火
こういった単語を入れるのは面白さに加えて、耳あたりの良さを最重要視している気がしている。
今気づいたが、実際に風あざみ(aZaMi)と宵かがり(KaGaRi)で韻を踏んでいる。
こういった日本語的なおかしさを恐れないことによる耳にスッと入る歌詞が井上陽水の真骨頂であると言えると思う。
その他の曲、あるいはその他のアーティストで良い韻があったら是非教えていただきたい。