映画グランツーリスモ 解説③:レース登竜門編
いよいよヤンは現実のレースに参戦します。
参加するカテゴリーはたぶんFIA GT3。このカテゴリーですが、自分もよく知らない。だってGT3って選手権というより、運営側の性能調整ありありの、ブランドイメージ向上のための出来レースらしいから興味なくて…。この記事はコタツで暖まりなら、酔った勢いで書かれています。この映画と同じくらい信じてはいけません。実のところどうなのかはコメントで教えてくれると嬉しいです。
なお、この「GT3」は2001年発売のグランツーリスモ3とは無関係です。ここでいう「GT」とは、タイヤ剥き出しのいわゆるオープンホイール・フォーミュラカー(F1・F2・F3…)とは異なる、高性能市販車と同じ形をしたグランドツーリングカー(GT1・GT2・GT3…)を指す言葉になります。抜きつ抜かれつの運動性に特化したフォーミュラカーは選手の技量に重点を置いた短距離レース、そうでないグランドツーリングカーはチームの総合力が試される長距離耐久レースに用いられる傾向があります。
「同じ」ではなく「同じ形をした」とはどういうことかというと、駆動方式から足回りまで、さきほどアカデミーで使っていた市販のGT-Rとは別物だからです。大きいところでは4輪駆動から後輪駆動になっていたり、車体骨格とエンジン以外、下手するとエンジンも市販車のそれとは別物で、それで他より速くなってしまった車には、エンジン出力を下げたり錘を積むなどの運営による修正が入ります。遅いと逆修正が入ります。それはつまりマーケティングのために出自も性能も違う車をわざと僅差で競わせようとしているわけで、そのあたりが私がGT3カテゴリーを好かない理由だったりします。どうでもいいですねそんな話は。
レーシングスーツに袖を通すヤン。
それよりなんかアカデミー終わっていきなりメジャーレース参戦してて驚いたのですが、現実のヤン選手には参戦まで約8ヶ月の地道なトレーニング期間があったそうです。国際B級ライセンスもそのとき取得。そりゃそうだ。グランツーリスモでもレース参加の前にまずライセンス取得だし、初心者をいきなりランカーひしめくオン部屋に投げ込むな。でも映画のヤンはフェードまで再現されているオーバーテクノロジーなグランツーリスモで訓練していたので、無免許でも許されるのかも。
加入するチームはNISMO(ニスモ)。NIsSan MOtorsports International株式会社の略称です。自動車製造会社が所有するレーシングチーム、いわゆるワークスチームのなかでも大規模で、自社でレーシングカーの設計・開発・製造を行える、いわゆるコンストラクターでもあります。
逆に言うと、そうではないチームもあります。例えばチームCAPAはニコラスの父親という個人が所有する、いわゆるプライベーターチーム。車両も、ランボルギーニのレーシング部門であるスクアドラ・コルセが製造(改造)したものを自己資金で購入しています。東洋のつかない広島カープみたいなものですね。
ニスモは日産が設立して運営しているレーシングチームとはいえ、会社としては別会社。オフィスも日産本社とは別の場所にあります。レーシングチームの運営と市販車量産とでは専門性も勤務体系もまったく異なりますから、100%子会社を作ってアウトソーシングしているわけですね。中日ドラゴンズの選手が中日新聞社の社員さんでないのと同じです。
なお、同じスモですが、グランツーリスモのスモとは無関係です。タイトルの由来については掘っていくと世界史の話まで突入してしまうので、Wikiをどうぞ。
ニスモは初代グランツーリスモからおなじみ…というより、自分も初代グランツーリスモで存在を知りました。モータースポーツファンには読売巨人軍くらいの知名度があるはずですが、知らない人からするとニッサンとは別系統で暗躍する謎の秘密結社に見えかねないらしい。
ちなみに、史実ではチームニスモからの出走ではありません。映画のGT-R NISMO GT3もニスモではない別チームから貸し出された車両です。
ダニーからヤンに「リミット」が提示されます。
「ヨーロッパシリーズを終えてドバイ戦までに1回でも4位以内に入り、レーシングライセンスを取得すること」
「これがニッサンとのスポンサー契約の条件だ」
ゲームと違い、現実は参戦するたびに莫大なお金がかかります。
アカデミーで選ばれたとはいえ、いつまでもリトライはさせてくれません。
「もう敵はゲーマーじゃない、プロのレーサーだ」
「お前はタフネスもスタミナも劣る。他のレーサーにとっては邪魔」
「ピットクルーにも失望される。特にメカニックには絶対、嫌われるだろう」
あーあ、まったく、嫌味なおっさんだぜ!
アカデミーのときからそうだったけどさあ!
「だから、何かあったら俺に聞け。いいな?」
お、おっさん…(トゥクン)
まあ実際にはクルーもプロで仕事なので、もし嫌われても最低限やることはやってくれる、というかそもそもうっすいラブロマンスに尺を割いたせいでクルーに好かれる描写も嫌われる描写もないのですが、胡散臭いプロデューサーが連れてきた自称エンジニアのおっさん(長期ブランクあり)が突然チーフとして現場を仕切りだして、そのわりにレースエンジニアらしいことを何もやらなかったら、それは間違いなく嫌われると思います。おっさん!人の心配してる場合か!
あとここ「金持ちのガキを見返してやろうぜ!」って流れなんですが、なぜか自分たちもプライベートジェットで移動しているのでなんとも説得力がありません。チームの機材はトラックか貨物機か船便で運ぶので、このシャンパンサービスつき・スカスカなプライベートジェットは本当にダニーとおっさんとヤンだけを運んでいます。
せめてチームニスモの人間を乗せてあげましょうよ。たぶん英国のミルトンキーンズ(欧州ニスモの本拠地)からオーストリアまで陸路ですよ。クルーに嫌われるとしたらそういうところでは。
「ニッサンの金で金持ちのガキを見返してやろうぜ!」って言われてもな…
ただ、Ghone is goneする前は周囲の人間もこんな感じでイケイケだったんだろう、という妙なリアリティはある。もしかしてこのプライベートジェット、楽器ケースとか乗ってない?
いよいよ始まるレース。
あ、レッドブルリンクだ。
…本当にレッドブルリンクかな?
あー、これはレッドブルリンクです。
安心してください!正真正銘のレッドブルリンクです!信じて!
だってGT6とGT7に収録されてて、俺にも見覚えがあるから!奥さん出演させたから使わせてもらえたなんてことないよね?
ここからヤンの挫折と栄光のレーサーキャリアが始まりますよ!
…出鼻をくじくようであれなんですが、史実のヤン選手のメジャーデビュー初戦は2012年2月のドバイ24時間耐久レースで、しかもSP2クラス3位です。つまり、いきなり表彰台に上がっています。
その後は4月から始まる英国GT選手権のGT3・プロアマ混合(2名1組)クラスのアマ枠でフル参戦して、全10戦のうち3位表彰台2回・優勝1回でシリーズ6位。デビューシーズンとしてはなかなかで、翌2013年からはオープンホイールのF3に転向しています。詳しい戦績は以下の動画のとおりです。
たぶん、ドバイ24時間耐久は1人で出場するスプリントレースではなく4人が交代で走ること、使用された車がGT-R NISMO GT3ではなく既に終売のZ34だったこと、いきなりの3位は制作側が望む結果ではないこと、から改変されたのだと思います。
映画ではライセンスの条件も中途半端な「4位」ですし、クライマックスまでヤンを表彰台に上げたくない、シャンパンもおあずけということでしょう。前述のとおり現実のヤン選手はルマン参戦までに優勝含めて複数回の表彰台に乗っていますし、そもそもGTアカデミーで優勝した時点で盛大にシャンパンファイトしていますから、映画はまさかの逆経歴詐称。
なお、ヤン選手を除いた3人のドライバーは、ルーカス・オルドネス選手(初代GTアカデミー勝者)、ジョーダン・トレッソン選手(同2010年勝者)、そしてブライアン・ハイトコッター選手(2011年北米エリア勝者)とGTアカデミーの先輩と同期で、つまり全員がシム出身レーサーなので改変しなくてもいいように思うのですが、よく考えればヤンを1期生にした時点で彼らは歴史改変の闇に消える運命なのでした。目を覚ませ僕らの世界が何者かに侵略されてるぞ。
「レースでは俺が指示を出す」
頼れるおっさん。
頼れるおっさん、いいよね。いい…
「いいかヤン、青のシグナルがついたらスタートだ」
そこから教えんの!?!?
それはグランツーリスモで知ってるよ!?!?!?
メタ的に言えば視聴者に説明しています。
もしかして視聴者もそこから?!
なお、
「F1みたいに停止線からよーいドンでスタートじゃないの?車両間隔バラバラだし不公平じゃない?」
と思うかもしれませんが、緑色灯全点灯からの指示灯全消灯でのスタンディングスタートは、発進時にクラッチ操作をミスするとエンストして停止したままとなり後続車に危険が及びます。レーシングカーのクラッチ操作は非常にシビアで急発進には高度な技量を要求されるため、後述するハイアマチュアも混ざる耐久カテゴリーでは比較的安全なローリングスタートが用いられる傾向にありますね。
それとローリングスタートだと本来は赤色灯点灯から切り替わってのグリーン点灯なのですが、この映画でそんな細かい事を気にしているとニューウェイみたいに禿げますよ?
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あとは単純に停止線が足りないとか、耐久レースは複数人で十時間前後を走るためにゴール時には数周以上の差がついていることが多く、スタート時の誤差0.1秒があまり重要でないという側面もありますね。
え?複数人?
映画ではヤンはまるで1人で走ってる様子だって?
ほら、よく見てください。
さっきグレージングしたブレーキでGT-Rを走らせてた命知らずのおっさん2号が、なんか知らんけどレーシングスーツ着たままピットに控えてるでしょ?
現実でもアマチュアはまずベテランと組まないと出走できませんし、もちろん史実のヤン選手もプロアマ混合でベテランと組んで出走していますから、編集でカットされてるだけでおっさん2号も走ってるんですよ、きっと。
え?
おっさん2号が着てるのはレーシングスーツじゃなくてピットクルースーツだって?
…君のような勘のいいガキは嫌いだよ。
じゃあカメラに映ってないおっさん3号がいます。(なげやり)
というわけでレーススタート。
そしてさっそくのエンジントラブルで白煙を上げる、期待どおりにとっても俺たちなフェラーリ。
「車は爆発するもんだ!珍しくもないぞ!」
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山内P「……」
未央「知ってるよね?F1はともかく、FIA GT3でフェラーリが火を吹いたことなんてないって!この待遇の差はなに?」
山内P「…ニスモは初代グランツーリスモからの常連様ですが、フェラーリはその10年後にようやく収録…当然の結果です…」
未央「もういいよ!私ティフォシ辞める!」
ティフォシ = フェラーリの厄介熱狂的ファン
現実には、現代のグランドツーリングカーは競技中のエンジントラブル自体が非常に稀です。競技規則でエンジン出力はどの車も同じになるよう規制されており、壊れるリスクを負ってまでギリギリ限界の高出力を絞り出す必要がないためです。
ヤン、フェラーリをかわしながらひとまず危なげない走り。
そして給油のためにピットイン。
ですが、ピットインは休憩タイムではありません。
次の走行に向けて集中力を切らさずテンションを高め、
発進時は交換したばかりのタイヤが滑りやすいので、慎重に──
──そこになぜか出てくるおっさん2号。窓を開けてひとこと。
「よお”noob”!!」
「ジョイスティックがあれば簡単だろうになあ!! HAHAHA」
noob = 初心者
バンッ
(俺がキーボードを叩く音)
どうでもいいことわざわざ言ってレーサーの集中力切らしてんじゃないよ!!!!
緊張をほぐしてやろうと思ったのかもしれないが、最悪その一言でミスして死ぬんだぞ!?!?!?
ところでだいぶいい歳してるおっさん2号!!
”noob”なんてゲーマー用語、わざわざお家のインターネットで調べてきたの?!?!煽りの才能あるよ?!?!FPSやる?!?!?
もしかしておっさん2号、「ゲーマーは煽られて強くなる」を勘違いしてない?!?!それもインターネットで見たの?!?!なんで現実をゲームの方に寄せようとしてくるの?!?!?
なおレース中はアドレナリンがドバドバ出ているので、こんなことすると最悪ドライバーから裏拳で殴られます。やめましょうね。FPSゲーマーが煽りまくるのは、リアルで殴られる心配がないからです。
あとジョイスティックて。そこはDUALSHOCKじゃないのか。
おっさん1号「落ち着け!深呼吸しろ!平常心だ!」
たったいまおっさん2号に初心者煽りされたところだよ!!!!
バンバンバンバンバンバンバン
煽るか落ち着けるかどっちかにしてくれ!!!
案の定、アクセルを踏みすぎてホイールスピンしながら出ていくヤン。
なにこれ笑うところ?
なお、なにを思ったか晴れてるのに晴天用のスリックタイヤではなく雨天用のレインタイヤでスタートさせられ、ピットインしても変わらずレインタイヤに交換された可哀想なルクレールヤンですが、おっさん2号の煽りでなにかを掴んだのか、ピットアウト後は目覚ましい走り。次々と前を抜いていきます。直線で。
エンジン出力は同じのはずなんですが…
チート? アーアーキコエナーイ
…まあなんであれ、予選順位と決勝順位がたいして変わらなかったり、ピット戦略で戦わずして相手をかわす、なんてことが珍しくもないモータースポーツの世界において、コース上での直接バトルによるポジションアップは本塁打に匹敵する大金星です。インを開けるな言われてるのに開けたままのマヌケなキャベツ野郎を直線で抜いただけとか、シフトアップしたのに加速するチートを使って直線でキャパを抜いただけとか言わないように。
というかこの映画、音は素晴らしいんですが映像がそれに見合ってなくて、レース映画のはずなのにコース幅を限界まで使ったギリギリのコーナリングなんてものはどこにもなく、全員がパレードランみたいなマイルドスピードと適度な距離を保って集団走行→アクセルを踏んだら主人公だけが急加速(それまで踏んでなかったの?なぜ?)という、大型連休中の地方高速道路のほうがまだ緊張感がありそうな追越シーンをたびたび見せられ、そうでないシーンはCGかあからさまな早送りで落胆させられます。
それだけパワーと速度に差があったら真剣勝負以前に茶番にしか見えないというか、これだけ本物のレーシングカーを集めて、やることが直線でのゆずり合い安全運転なのか、という…
ただ、クラッシュ撮影用に製作する比較的安価なスタントカーではそもそもレース撮影に最低限必要なスピードと安全性がなく、しかし外部から借りてきた本物のレーシングカーは接近戦で壊すわけにもいかず、さりとて中途半端な速度での走行を想定していない(やると逆に壊れる)レーシングカーを全開走行させられるスタントマンはそう数が揃わない、というジレンマがあるのでしょう。「共同プロデューサー」が用意してくれた1台は特に、映画公開で箔をつけて売り抜けるという重大なミッションを抱えているでしょうし。
というより、そもそも制作側には全開で走らせる気がなかったのかもしれません。タイヤを提供したミシュランも「実際のレースほどの速度ではなかったが」とポロッと言っちゃってますし、コーナー手前の限界ギリギリ、テール・トゥ・ノーズ*1からのサイド・バイ・サイド*2、そこからコーナー進入でお互いタイヤから白煙を上げながらの本当のオーバーテイクなんて、それを実行できるスタントマンも、クラッシュを許容するだけの予算も、そしてなによりも必要性が足りない。そんなことしなくても一般人はデカい音を出して追い抜きしたら勝手に盛り上がってくれるし、オタク以外は求めてないんですそんなこだわった画は。え?アライブフーン?知らない子ですね…
[*1. 前走車の後尾に前端が接触するくらい後走車が接近すること。後走車だけ空気抵抗が減って追抜が可能になる。というか現実には性能調整で拮抗させるので、そうでもしないと抜けない。お互いアクセルは全開なので煽り運転ではない。ヤンのアクセルは全開ではないのでたぶん煽り運転。チーター…]
[*2. 追抜のため2台が横並びになること。後走車も空気抵抗が元に戻るのでお互い並走になり、そこからブレーキング勝負でコーナーに飛び込んでいくのが追抜のセオリーでありレースの見どころ。坂口健太郎は無関係]
そんなこんなで4位まで順位を上げたヤン。
しかし最後の最後でキャパに追突されて、残念ながら最下位。
見た感じアクセル踏み込んでフロントカウルが吹っ飛びそうな勢いで追突しているのですが、キャパのほうはなぜか無傷でフィニッシュ。このランボルギーニ、ヤタノカガミと思わせて実はフェイズシフト装甲搭載型のようです。
ここでちょっと、追突する直前のニコラスくんの台詞を見てみましょう。
"I'm gonna nerf you, gamer."
nerf = 運営による下方修正
吹替は「はじき飛ばしてやるぞ ゲーマー」
字幕は「邪魔だ ゲーマー」
…訳しましょうや。
自分が訳すとしたら「『修正』だ ゲーマー」かなあ。
これ、海外のゲーマーに「映画の歴史上、最も恥ずかしい台詞」と紹介されてちょっとしたミームになっていました。あとは後ほどおっさんが無線で叫ぶ"U mad, bro?"(拙訳:顔真っ赤だなw)も。
ゲーマー以外の人にピンとくるかは分からないのですが、"nerf"も"U mad bro"も基本的にFPSゲーマーの用語です。レースゲーマーではなく。
なので、
「レースゲーム初心者のおじさんがチャットに乱入してきて、インターネットのどこかで覚えてきた場違いなゲーマー用語(しかも用法も間違ってる)で若者相手にイキリ散らかしている」
みたいな極めて痛々しい共感性羞恥があります。つれぇわ。
個人的には「いまどきのゲーマーキッズとなんとか打ち解けようと、おっさん1号とおっさん2号が夜な夜な必死でゲーマー用語を勉強した結果」というほほえましい妄想が捗るのでそこはむしろ歓迎なのですが、ニコラスお前はダメだ。半年ROMってろ。
というかここに限らずこの映画、ゲーマーにとって絶対に触れてはいけないファクター「彼女(3次元)」を気軽にお出ししてきたり、ヤンも設定上はトッププレイヤーのわりにいまいちゲームにストイックでなかったり、現代のゲームとゲーマーに対する解像度がファミコン以下というか、ほんとは脚本も監督もゲーマーのことよく知らずに映画作ってるし、なんなら嫌いでしょ?ゲーム<<<越えられない壁<<<リアルだと思ってるでしょ?って感じなんですよね。
作中に多用されている若者言葉も、現代の"英国"ティーンエイジャーが絶対に使わないであろう90年代の"米国"スラングとかでワケワカメ。超マジバビる。序盤の"Burial of the Coffin"も、英国人の友人に言わせれば「ウェールズ在住のカーディフFCファンが、なんでブラックバーンFCのスラング使うの?」だそうで。わからん。やきうで例えて!
なので結局のところ、親父さんやおっさんの描写は素晴らしいのに若者の描写は荒唐無稽というこういったチグハグさは、脚本家が2名とも米国人でしかも43歳と51歳という点に全ての原因があると思います。申し訳ないけどその歳のおじさんが違和感なく書ける脚本は「ピクセル」までなんよ…自分だって「レディ・プレイヤー1」の小ネタ、分からなくて真顔になるやつ多かったもの…
とりあえずBoomerは若者に追いつくためにYahoo!でGamer用語を検索するなんて無茶はせず、スポーツウォークマンでカセットテープ聞きながら「スピードレース デラックス」の思い出話でもしててほしい。そっちの話の方が絶対に面白いから。
ところで"Amateur"を「アマちゃん」と訳すそのセンス、とっても『NATSUKO』を感じますね。
ナツコはまだ俺達の中に生きてるぞ!こいつはコトだ!
レース終了。
結果は最下位でしたが、チート級の素晴らしいオーバーテイクを次々と見せてくれたヤン。そもそも最後のスピンもヤンのミスではないですし、これは今後が期待できるルーキーですよ!
そこに流れてくる実況。
「マーデンボローは27位。明らかに実力不足…」
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……は?
いや、現実のレースを初めて走るルーキーがいきなり予選7位の時点でもとんでもない偉業なのに、本戦でさらに3つもポジションアップしたんですが?
こんなルーキー、もし現実に出てきたらそれこそ第2のルイスハミルトンとかいう見出しでトップニュースですよ?
ルーカス選手に続けてルーキー・オブ・ザ・イヤー受賞は確実ですが、この実況は本当に同じレースを見ていたんですか?
というか実況、さっき同じ口で"Great job!"って言ってましたよね?
いくらなんでも手のひら返しが早すぎません?
気まずい空気が流れるピット。
いや
いや
いや?
おっさんもダニーもニッサン役員も、どうしてがっかりしてるんです?
いま目の前で超新星が爆誕したんですが?
育成なんてなくて結果がすべてだってこと?
育成が下手なのはチーム中日だけで十分ですよ?
というかこの逸材ならほっといても遠からず表彰台乗りますよ?
それともみんな、ヤンが勝つほうに1万ドルくらい賭けてたの?だとしたらゴメン。
そうだ!おっさんはレースエンジニアだし、テレメトリーを見ればヤンのミスじゃないって分かりますよね?
ついでにニコラスの舵角とアクセルペダル踏み込み量も調べれば、故意に当てたってはっきり分かりますよね?
なのにどうして運営に抗議してくれないんです?
おっさんはヤンの味方じゃなかったんですか?
そもそも当てられるのは体力の問題じゃなくない?
おっさん?
ねえおっさん?
おっさーーーーーーん!!!!
…
ハアー…
(クソデカため息)
この映画、あと1時間あるのか…
RRRなら一瞬なんだけど…
もうあとは同じようなレースが続きますし、巻きでいきましょう巻きで。映画も巻いてるし。
でも日本政府から税金もらってるならスズカ来てくれよスズカ。どうせお金だけもらってレッドブルリンクあたりを鈴鹿と言い張るんでしょうけど、鈴鹿も同じ右回りだし、レッドブルのモニュメントに"松阪牛"ってキャプションつければ誰も気がつきませんて。
ところで、以後のレースもヤンはほぼ毎回「鼻の差」の勝利を収めますが、現実ではこんな僅差のレースは稀です。
例えば後ほど参戦するルマン24時間では、ヤン選手はゴール時点で4位。5位とは1周差、3位からは3周遅れでした。1周差ってけっこうあるじゃんと思うかもしれませんが、前述のとおり24時間も走ってるとわずかなラップタイム差が累積して20周遅れとか普通にあるので、1周差でもけっこう僅差なんですよね。
F1のような2時間も走らない短距離レースは「数十周のうちに誰が1位になるか」なので抜くか抜かせないかが大事ですが、耐久レースは「十数時間のうちに何周できるか」。ですから同じ周回数の車同士が◯◯位をかけて熾烈なバトル!なんて場面が本当の本当の本当に稀で、しかも見た目に同じ周回数でも「前の車は燃費的にあと1回必ずピットインするから、コース上で無理に抜かなくていいぞ。ペースを合わせて後ろにつけ」とかいう無線が飛んだりします。
劇中では数時間は走っているであろう耐久レースの後半なのに、スピンだけで4位から27位まで落ちていました。1周目ならともかく、後半ではまずありえない描写です。野球で例えると、福留がエラーしただけで一挙4点が入って逆転という感じ。
でも、これ野球映画じゃなくてレース映画なんですよね。悲しいことに野球やサッカーと違ってカーレースなんてルールも見どころも誰も知らないので、映画のリアリティラインはいくらでも下げられます。やりたい放題です。エンタメは面白くてナンボ。じゃんじゃんやりましょう。
えっ?
実話要素どこって?
【目次に困るくらいには全編ファンタジー】
ほんとこのチャプター、実話どころか実話を元にした箇所すら見つけるのが難しかった。ですから目次もありません。全編ファンタジーだと思って楽しんでください。この先もルマンで最終リザルト3位になったという結果以外はファンタジーですから、チョコボのポップコーンバケツを抱えながら、ファルシのルシがコクーンな気持ちで観ると精神衛生的に良いと思います。
でも、あれだけ感動の実話と宣伝しておきながら「ルーキーとおっさんのバディが事故で挫折して復活」という、映画のクリティカルポイントまでファンタジーなのは正直どうかと思います。実話だと宣伝されていたから観に行ったし感動したんだ、という人が内実を知ったら、この映画のプロモーションは優良誤認に思えるのではないでしょうか。
ポップコーンムービーはポップコーンをおいしく食べれることに徹するべきであって、なにも知らない人に「実話です」と言って売りつけるべきではないと思います。広告では実話と言い切っちゃってるけど本当は実話「ベース」だし、そもそも映画というのはフィクションなんだから騙してはいないよ、はちょっと不誠実が過ぎる。そもそもべースになった実話はどこよ?
閑話休題。
おっ、次戦はドイツのホッケンハイムリンクですね。
ピットレーンの光景はどう見てもハンガロリンクですが。
ホッケンハイムはグランツーリスモに収録されたことがないから、ヤンは苦労するだろうな〜
と思ったらそんな描写は何もなく、そしてピットの看板にはでかでかと
”Circuit de Barcelona / Catalunya”
の文字とコース図が。
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…たぶん編集の段階でホッケンハイムにピットのシーン入れようと思いついたけど、使える映像がカタロニア・サーキットのつもりで撮ったこれしか残ってなかったとか、そういう事情でしょう。1秒くらいのシーンやしバレへんバレへん。笑ってはいけないハンガロリンク24時なのかな?これは。
ヨーロッパでのさえないレースが続くヤン。
とうとうリミットのドバイ戦になってしまいました。
この1戦にはレーシングライセンスの発行とニッサンのスポンサーシップ契約がかかっています。負けられません。
「シムレーサーは危険だよ。現実のドライバーのレースを危険に晒してる」
「表彰台はムリだろうね」
オラオラ系金持ちのガキレーサー、ニコラスくん。インタビューに答えて。
おいおいニコラスくん、こんな発言をするとゲーム会社どころかコンピューター会社も誰ひとりスポンサーについてくれなくなりますよ。表彰台だって例えば10台出走して完走3台なんてレースも稀によくあるわけですから、もしヤンが表彰台に登ったら自分が恥をかくだけです。自分にマイナスしかない発言です。そこは”Let's wait and see.(ンなこと俺が知るかよクソボケが)”と答えておくのが大人の対応でしょう。
ですが、こう考えることもできます。彼にはスポンサーが不要なのです。なぜならお金持ちだから。自分のお金で好きなマシンを買って、自分で好きなスタッフを雇って、自分で好きなように走る。だからなんでも好きに発言できます。モエ・エ・シャンドンも「自分が好きだから」くらいのノリで親が勝手に貼ってる可能性がありますし、ドバイで街乗りしてた車もランボルギーニではなくKoenigseggisseggggnignigsegigiseggggなので、スポンサードの車両提供も受けていないと思われます。つまり、現実でグランツーリスモみたいなことやってる人種です。
それこそリアリティがないと思うかもしれませんが、これは現実でも普通にいます。この世には「これゲームのバグ?」ってくらいの桁数の資産を持つ人がけっこうな数いて、自腹で全てを揃えてカーレースをやっています。「今日は雨降ってるからグランツーリスモで遊ぶか(晴れた日は1日サーキット走ってる)」みたいな人種です。親ガチャという公式チートです。運営への苦情は神様にお願いします。
ところで、ここで皆さんに少し考えていただきたいことがあるのです。
ニコラスとヤン、どちらのほうが”良い”ドライバーでしょうか。
ヤン?どうして?彼は真面目だから?…うん…まあ、見えるとこでサボってはいないから真面目だし、グランツーリスモが絡むとちょっとイキる癖はあるけど、年相応の普通の青年だよね。普通の人がどちらを応援したいかと言われれば、当然ヤン。一般家庭のゲーマー出身が親の金レーシングを倒すなんて、これ以上なく痛快だ。まるで映画みたいで。
でも、こうも考えられないでしょうか。
”ヤンは人様に借りたマシンを何台も潰して、しかし自分は金銭的に何も痛い思いはせず、それどころか贅沢にもプライベートジェットで移動して、そして結果は何も出せていない”
…しんどいよね。俺も、これを書くのはしんどい。でも事実だし、書かないといけない。
ニコラスがマシンを壊しても、自分のお金で直しますから誰にも迷惑がかかりません。ニコラスがスタッフにキツく当たるのも、ある意味では当然です。言い方はちょっと棘があるけど、自分のお金を払ってるんですから。スタッフもプロとしてきちんとした仕事をして欲しい。結果が出なくても、誰にも迷惑はかからない。せいぜい親ががっかりするくらい。
じゃあヤンを見てみましょうか。ヤンのマシンは、ヤンの所有物じゃなくてGTアカデミーの所有物。ヤンはそれを運転して、レースに勝つ仕事を任されている。でも壊す。なぜなら未熟だから。車を壊すとお金がかかる。なぜなら、これはゲームじゃなくて現実だから。でもそのお金は、ヤンが支払うわけじゃない。GTアカデミーを運営するニスモが負担する。結局はさらにその上部組織のニッサンが、さらにいうと、ニッサンの新車を買った人が間接的に支払う。株主への配当、会社の成長、未来の新車開発に使われるはずだったニッサンの貴重な資金が、ヤンのせいでどんどん広告費として外部に出ていく。ただでさえカルロスなゴーンとそのお友達がけっこうな額ガメてるのにな。そしてアクセルをブラジルまで踏んでも加速しない日産デイズで日々営業に駆けずり回る社員の、そのカットされたボーナスが、600馬力もあるGT-Rのアクセルをうかつに床まで踏んでスピンした、ゲーマーのガキの自己実現…という名を借りた広告活動に使われるわけだ。なあヤン、ニッサン社員の子供たちのクリスマスプレゼント、もしかしたらPS5とGT7になるはずだった金で食う、日本のスシの味はどうだ?美味いか?そうか美味いか。次も彼女と食えるといいな。次があれば、だが──
ですから彼は、こう言われないために結果を出さないといけません。可及的速やかに。
ヤンは以前、GTアカデミーで「負けて実家に帰って、みんなが正しかったと認めること。それがいちばん怖い」と話していました。ですがこんな大舞台まで来たらもう、そんな個人のプライドだとか、家族とのわだかまりがどうこうの話じゃない。ヤンのために億単位のお金が動き、何十人というスタッフが働きます。負けても実家に帰れるはずがありません。結果が出るまでやらされます。だって、彼の敗北はプロジェクトそのものの、言うなればニッサンそのものの敗北なのですから。これは諦めて途中でリセットができるゲームじゃない。現実なんです。
残酷?私も残酷だと思います。19歳のゲーム好きの青年をいきなり送り込んでいい世界じゃない。ですが当然だとも思います。何歳だろうと、他人のカネとモノで行う自己実現には、それなりの重みがつきまといます。投資に見合うかどうかを常に判断され、見合わないとなれば投資を引き上げられる。広告塔として突然てっぺんに登らされ、そしていきなり梯子を外される。ダメならリセットボタンを押されて、ザ・エンドってね。
映画ではそんなほの暗いところは描かれませんし、なぜか営利企業のはずのニッサンから無尽蔵にお金が湧いてきます。ですが、人のお金で夢を叶える「人の金レーシング」のプレッシャーと危うさは、ほんの少しでいいので描いて欲しかったと思います。
幸い彼はリセットボタンを押さなかったし、押されなかったからこうして映画になった。でも日産の金で夢を叶えて、しかし途中でリセットボタンを押したり押されたりした他の人間たちは、この映画に名前すら出てきません。
ちなみにここまですべて『カペタ』に書いてありますが、読んどいたほうがいいですよ、『カペタ』は・・!
つまらない話になりましたね。
レースに戻りましょう。
あからさまにぶつけてくるニコラスくん。
……ニコラスくん、もしかしてここをグランツーリスモと勘違いしてる?現実だよこれ?自分もそれなりにダメージ受けるし、ヤンに構ってるぶん遅くなるよ?ペナルティで最悪ライセンス停止だよ?誰よりも君自身が厄介オンラインゲーマーみたいな運転してるよ?それとも、ぶつけまくってくる割にプレイヤーと違ってペナルティも発生しない、グランツーリスモのおバカNPCを再現してるの?
というか、君がそこまでしてヤンくんにぶつけにいく激重感情なに?一緒に観ていた妻がBLの匂いを嗅ぎつけてしまったよ?その因縁どこから?あ、おっさんがキレて退職したからか。いやおっさんのせいやんけ!そのままピットに入っておっさんにぶつけろ!
おっさん、口ぶりからするとアウディとも因縁があるようです。
おっさん可愛い顔してマジで何やらかしたの?おっさん個人の因縁はおっさん個人が解決しといて?
ダニーの人探しリストにも「こいつは…無いな!」みたく最後に書かれてたし、おっさんの過去が本当に気になる。人死が出たとはいえ本当におっさんに責任がない事故だったのであればあそこまで嫌われるはずがないので、その後のレースエンジニア時代に出禁レベルの何かをやらかしたと思われます。映画ではついぞ語られませんが。
なお、現実でもぶつけてくるレーサーはいますが、ここまで参戦車両が高価なカテゴリーになるとあれほどあからさまではありません。「ちょっと押しただけ」や「ブレーキングしてたから避けられなかった」という言い訳が通る場面、かつ、ちょっと押せば相手がすっ飛んでいくブレーキング開始直後やコーナーの入り口で押しにきます。
また、当然ながら現実にフェイズシフト装甲はないので、あんなぶつけかたをするとお互いにかなりのダメージがあります。カーボン製の外装があっさり砕けて粉々に飛び散り、もし部品を引きずりでもしたら「危ないからピットへ戻って修理交換しろ」のフラッグが振られて、無視したら失格です。勝負権は完全に失われますので、もしやるなら「ダブルクラッシュといこうぜ!」の精神でお願いします。ぶつかりたいならWTCCに行け。
えっ?
これは映画でエンタメだろって?
これ、野球映画で例えると「試合中、打者が『こいつを殺れば試合終了だ』と言わんばかりにバットで投手を殴り始める」みたいなシーンなので、映画でエンタメだとしても申し訳ないですがドン引きですよ。デッドボールは打者を掠めるからスポーツとして許容されるのであって、顔面を狙って投げたらそれはもうアストロ野球…なのですが、でも実写版アストロ球団のポスターに「実話を元にした感動のストーリー!」と書いてあったらちょっと面白いですね。それは絶対に観に行きます。
前を走る2台がクラッシュ。
タイヤが飛んでくる。当たる。
当たる???
あれ当たるの????
いや外れて→飛んできて→ワンバン→当たる、まで2秒120フレーム以上あったし、ゲーミングお嬢様じゃない俺でも見てからお回避余裕でしたわよ?!?!?!
さっきおっさんにやらされてた反射神経のトレーニングは無意味だったってこと???
というか怖いからって目をつぶるなヤン!
透明でもなく薄皮1枚しかないお前のまぶたより、ポリカーボネート製のシールド(バイザー)を信頼しろと訓練で最初に教わるだろ!
目を見開いて、最後まで回避の努力を続けるんだ!
あっ、なんか知らんけどシールド上げてた。
じゃあつぶっていいよ!怖いからね!
グランツーリスモではクラッシュしてもタイヤが外れることはないし、部品が外れて飛んでくることもないので、もしかするとそういう意味での描写かもしれない。現実は厳しいんだヤン。グランツーリスモって自称シミュレーターなのにそんなことも実装されてないの?と言われると返す言葉もないんですが。だってゲームだし…
もちろんこの破損した状態で走ると危険走行で失格のはずですが、なんだかんだ4位になってレース終了。FIA "LICENSE"をゲット。よかったね、おめでとう。ここから分かるとおり、この映画は冷食にチーズかけてコーラで流し込む国の映画です。
ニコラスくん、あの凄惨なクラッシュでも無傷。
いくら現代のレーシングカーが安全とはいえ、あそこまで激しくマグナムトルネードッ!するとさすがに腕か膝か首くらいは痛めると思うのですが、たぶん彼はコーディネイターなのでしょう。これSF映画(すごく・ファンタジーな映画)なので。
「どういうことだ!ふざけるな俺を殺す気か!」
「これがレースだ!」
ピットに怒鳴り込み、ニコラスくんに掴みかかるヤン。
あれだけあからさまな危険行為をしても、前回と同じくニコラスくんに運営からの制裁は課されなかったようなので(なんで?)、自ら鉄拳制裁に行くスタイルです。敵を間違えるなヤン。お前が殴るべきは運営だ。あと殴っちゃうとニコラスくんと同レベルなので、チームを通して正式に抗議したほうがいいと思うな。
結局、殴らない。
殴らなくて良かったね。殴ってたらたぶんライセンス貰えなかったか、貰って即日停止だよ…
でも、現実でも危ないことをしてくる人にはとりあえずブチ切れておくべきです。こいつ危ないぞと思ってくれれば、いざ次に勝負になったとき引いてくれる確率が上がるからです。これも『カペタ』で見た。こんなクソ映画とクソ長い解説を見る前に、みんな『カペタ』を読んでくれ。
なお、いまさらですが現実には
「何戦してそのうち何位以内じゃないと、FIA(国際自動車連盟)はライセンスを発行シマセーン!」(フランス語)
という条件がつくのは国際A級ライセンスからです。前述のFIA GT3やルマン24時間耐久に必要なのは国際B級なので、映画のニッサンはルーキーのヤンに不必要かつ理不尽な要求をしているということになります。ルマン表彰台RTAの乱数調整なのかもしれませんが。
ちなみに専業ドライバーでも国際A級保持者はそういないので、おじさんが夜のお店で言う「俺A級ライセンス持ってるよ」はまず例外なく「国内」A級か佐藤琢磨氏です。
"専業"ドライバー?
そう、ここで解説しておきますと、モータースポーツの世界には専業ドライバーもいれば兼業ドライバーもいます。本職としてレーサーを選んだ人ではなく、別の分野で既に成功している人が、つまりニコラスではなくニコラスの親父が、週末の刺激的な余暇のため、または人生の新しいチャレンジとしてレースに参戦しています。
例えばヤン選手は2013年のルマンLMP2クラス3位になっていますが、そのとき同じLMP2クラス2位の車を運転していたのは、Ruby on Railsの開発者であるデイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン氏です。世知辛い話ですが、天才プログラマのおじさんがルマンでゲーマーを抜いて2位になっても、映画にはしてもらえません。
もちろん本業も忙しいので専業レーサーほどの練習ができるわけではないですし、年齢的にも"ガチ"なカテゴリーへのステップアップはチームも本人もアウト・オブ・眼中な場合が多い…とはいえ、彼らはなんといっても金払いがいい。給料払うどころか逆に持ってきてくれるわけですから。ですので、現代のツーリングカーレースではルマン含むほとんどのレースで兼業ドライバーを前提とした制度とクラスが設けられています。
そこ!
そこそこ!
「カーレースって血気に溢れたオッスオッスな男衆たちが、栄誉と賞金のために命を賭けてガチマッチしてるんじゃなかったのか…」
と落胆(?)した、うちの妻とそこのあなた!
カイジの金持ちと同じ思考になってますよ!
そもそも兼業ドライバーだってちゃんと自分たちなりに努力研鑽してるし、時には専業ドライバー以上にすごいことやってるんですよ!
いま配信終わっちゃってるけど、もし未来で機会があったら見てみてください。
でもやっぱり、おっさんが「本物のプロレーサーが相手だ」と言ってるのは現実とちょっと違う。自力で参戦費用を稼いでくるセミプロも多い世界で、食い扶持の心配をせずシルバーストンで8ヶ月も専属コーチつきの練習に打ち込めるのはプロの側…どころか、専業プロよりはるかに恵まれた超特別枠。当然、そこまで投資するからにはセミプロ以下のしょぼい結果が許されるはずもなく、日産も誰に投資するかは慎重に選ぶ必要がある。だから、GTアカデミーをやる必要があったんですね。
なので、後ほどヤンが叫ぶ「GTアカデミーが設立された理由を覚えてる?」についてですが、自分の認識と現実に即してとても夢のない回答をするとすれば
「投資先の選定」
または
「当代随一の有力選手とチームに巨費を投じて不確実なトップカテゴリー優勝1回に挑戦するより、人目を引く経歴の選手をプロアマ混合クラスで複数回『優勝』させてそれを元に映画かドキュメンタリーでも撮ったほうが、広告としての費用対効果が高い。その事実に日産が気がついてしまったから」
となります。
現実というのはなんとも…つまらないものですね。
この世界、プロとアマの違いなんて曖昧ではある────
だが、そこは流石に────
プロとして────
映画だからまあいいか────
いやこれ実話か────
実話なわけあるか────
しっかりしてくれ────
映画のプロとして────
夢もへったくれもない退屈な話ですが、もう少しだけ続けましょう。
グランツーリスモの生みの親、山内一典氏はGTアカデミーについて
「アカデミー出身の選手は公式レースの出場経験がないのでアマチュア枠での出場になったけど、趣味でやっている兼業ドライバーよりはるかに速いからぶっちぎりで勝ってしまう。レースで結果を出し始めると、今度は『彼らをアマチュア扱いするのは汚い』ということで別枠になった(くらいには速い)」
とインタビューで誇らしげに語っていましたがどう考えてもそれはそうで、厳しい選抜をくぐり抜けた上でプロが8ヶ月も鍛え上げた高校球児ドリームチームを社会人混合の草野球に送り込んで、
「ウッス!自分、初心者ッス!甲子園目指してます!練習するとこ、ここしかないッス!試合お願いしまッス!」
ってコールド勝ちしたらそりゃお帰りくださいとしか言えません。大企業とプロチームの全面バックアップ受けてますけどジュニアでもないし公式戦の経験もないです、みたいな選手を運営が想定していなかったのも悪いですが、いくら企業宣伝が目的とはいえ、何のために細かくクラスが分かれているのか考えてエントリーしてくださいよ、と。下位カテゴリーのモータースポーツで独走するのは必ずしも良いことではなく、見てる側も走ってる側もつまらない、クラス違いの「弱いものいじめ」として認識されることがほとんどです。間違ってもそんな戦績を誇ってはいけない。
モータースポーツはお金がかかる。だから、自分のお金で走れない人は企業を利用する。企業もその人を利用する。
そういうビジネスでモータースポーツの世界が発展してきたことを否定はできません。資産がないのに短期間で才能を証明してサクセスしたレーサーは、ほぼ例外なく、例えばどうしても日本人のF1レーサーを輩出したいとか、ルマン制覇にあたって夢のある出自のレーサーを乗せたいとか、税務署が睨んでるカネを早急に動かす必要があったとかの「大企業が気まぐれに見る夢」に、自分の夢と才能をうまく絡めていった人たちです。それが良い悪いという話ではなく、現実の背景としてそうだ、という話です。
ですがモータースポーツはあくまでもスポーツであって、必ずしもその全てを企業の営利活動の場にしていいわけじゃない。参加者の努力と身銭で回るならそれでいいんです。一般の人に知られていない(知られる必要もない)だけで、参加者の努力と身銭で回っている面白いレースはたくさんあります。レーサーになりたいだけならヤンは今すぐ親父のVWコラードで地元の草レースに出るべきだったし、それでもたちまち地元で「永遠」になれたでしょう。
それでも、ここはゲームじゃなくて現実ですから、安全な競技環境と安全な車両の用意にはどうしても相応のお金がかかります。大舞台で大観衆からの歓声を浴びたいと言うのなら、競技者に高度な訓練を施してGT-Rに乗せ、興行要素のあるプロビジネスとして成立させる必要も出てくるでしょう。
なので、個人が大企業の都合に頼らずそういう遊びをしたいなら、規模に応じて相応の身銭を切ってくださいね、という、ある意味で当たり前の話なんです。金持ちに支配されているわけでも、支配されたいわけでもない。それは逆です。身銭を用意できない人が大企業を連れてくるから「支配」が始まるんです。
みんなでお金を出しあって整備した砂場に、大企業にスポンサードされた大物Youtuberが突然入ってきて「うぃいいいいいいいいいいい↑っす!!ここが金持ちの砂場です!!今からここにぃ↑〜!!砂のお城を建設します!!」と宣言されたら、いい気分がする人はいないでしょう?
それぞれが身銭を切って自分のできる範囲で競っていたところに、大企業の都合と無限の資金力で勝ち星集めにきたのは、じゃあいったいどっちの側なんでしょうね。
ん?
「ルマン出場のための実績解除最速チャート」?
「だいたいこの映画、元は"Sim-Racer"って仮題の荒唐無稽な完全フィクションだった企画で、そもそもがグランツーリスモに関係がなかった」?
「なのにある男に声をかけたら企画にガッツリ絡んできて、プロダクトプレイスメント盛り盛り、自称実話、ソニー、そしてソニーが有名監督を連れてきて大映画にしていった」?
「でもそのせいでプリプロダクションの時点で関係各所と揉めに揉め、現在の形に落ち着いた」?
そんなこと知りたくなかった…
知りたくなかったな…
SF映画の話に戻りましょう。現実はしんどいので。
なんかニッサンからめちゃめちゃ高額な契約金をもらうような流れになってますが、今のところヤンはニッサンに合格圏内ギリギリとしか評価されていないようですし、他チームが契約金を積んで獲得に動くとも考えにくいため、この契約形態ですと現実には悪い意味で驚くほどの額しかもらえないと思います。
ニスモとしてはむしろ、あれだけお金と手間をかけて育成したんですからスポンサー探して持ち込んでくれるなりで幾ばくかでも育成費用を返済してほしいところでしょう。
というか家なんか買ってる場合か。まず親父の車のミラーを直せ。
大将も寿司握ってないでなんか言ってやってください!
ニッサンとの正式契約のために、恋人と東京へ来たヤン。
いまどきのティーンエイジャーってこういうのに憧れるのかな〜、と思ったのですが、現実のいまどきティーンエイジャーによれば「外国のオタクが訪日したらアキバから動かない。彼女いてもクラブは行かない」そうです。
結局のところこのチャプター、すべては80年代に青春を生きたおじさん脚本家の妄想なのでは…
そしてふたりは幸せなキスをして終了。
残念ながら、この恋人が史実かどうかは調べきれませんでした。
ただ、現在のヤン選手は未婚だそうです。
あっ・・・(察し)
ここまでが登竜門編。
次回はいよいよクライマックス。
ヤンは挫折から立ち上がり、史実の順位でゴールできるのか?
なんか脚色が行きすぎて優勝とかしちゃいそうだぞ?
乞うご期待。