今年の3冊(手帳プロジェクトの未来編)


本のを紹介する前に少しだけ復習をさせてください。

他人の手帳や日記を読んだり眺めたりするのに読解力と観察力が要求されるのは、手帳プロジェクト(@note_collector)を始めてまもなく明らかになりました。書かれた時点では読者を想定としていないプライベートな記録ですから、書籍などと比べても秩序は少なく混沌成分が多めです。そこで、最初の展示では、ブックガイドを用意してみました。これはその時点で手帳を読む楽しさと近しい読書体験を持つ本を列挙したものでした。

その後、プロジェクトが継続するにつれて、読む瞬間にとどまらない、周辺の問題や課題があらわれてきました。どうやって人に手帳プロジェクトのエッセンスを説明したら良いかとか、コレクターがいないときにコレクションをどのように見せたり伝えたりするのかとか、いったものです。ここでもやはり、先人の知恵や歴史が心強いです。紹介する3冊はそんな心強さやありがたさの観点で選びました。


3位 『限界芸術論』 鶴見俊輔

誰かに手帳プロジェクトを説明するとき、おおまかに何というか。芸術なのか娯楽なのか趣味なのかもっと別の何かなのか。もちろん、そんなにきれいにただひとつを指し示しているわけではないはずですが、今のところ一番フィットしていると思えるのが、限界芸術です。著者は、純粋芸術(絵画など)と大衆芸術(娯楽小説など)と限界芸術(手紙や落書きなど)の3つのレベルに分けて芸術を説明しています。引用してみます。

純粋芸術は、専門的芸術家によってつくられ、それぞれの専門種目の作品の系列にたいして親しみをもつ専門的享受者をもつ。大衆芸術は、これもまた専門的芸術家によってつくられはするが、制作過程はむしろ企業家と専門的芸術家の合作の形をとり、その享受者としては大衆をもつ。限界芸術は、非専門的芸術家によってつくられ、非専門的享受者によって享受される。

限界芸術は人々の営みそのものを楽しむ芸術といえそうです。来年は限界芸術について本書をしっかり読み込みつつ、限界芸術に取り組む方と知り合えたらと祈念しております。


2位 『パブリック』 ジェフ・ジャービス

コレクターたるもの、それの何が楽しいのかを簡潔にひとことで説明することが求められています。手帳や日記が持っているものは何だろうかと、あらためて探ってみると、やはりそのプライベート性に秘密がありそうです。それを解くのに、プライベートという概念を知らないといけなくなってきました。

プライベートに関する書籍を掘り尽くしたとは言えない段階ですが、SNSの登場でさらに問われているパブリックやプライバシーについてみていくことは、プライベートの理解には欠かせないという直感があります。それに何と言っても現代的なアプローチで文脈に乗せやすいのです。パブリックとプライバシーの歴史についての章もあり、こちらもさらに読み進めているところです。

僕は展示について「手帳や日記に含まれるプライベートとプライバシーのうち、プライバシーを取り除きプライベートを抽出し展示(パブリックに)している」と説明しています。プライベートをシェアしている、というわけです。


1位 『FILING 混沌のマネージメント』 竹尾 織咲誠 原研哉+日本デザインセンター原デザイン研究所

目下、一番の課題は、増えてきたコレクションの整理と見せ方です。これまでは偶然的な出会いや新鮮な体験を重視して、オススメや案内は控えめにしてきましたが、そうは言ってられなくなってきました。

300冊の手帳や日記はひとつとて同じものはありません。受け取れる楽しさやわかりやすさもバラバラです。コレクションの増加と比例して、手に取る1冊を選ぶのが難しくなってきています。同時にそれは、その人にとって興味を持てる1冊を引き当てるのが難しくなっているということも意味します。

たくさんの人に楽しんでもらうには、興味を持ってくださった方に対し、できれば2、3冊以内に楽しめる1冊と引き合わせたい。デザイナーの友人が薦めてくれたこの本には、手帳コレクションが持つプライベート性を残しながら、分類・整理をしてみせるヒントが詰まっているように思えます。展示の見せ方の相談をするとき、僕のつたない説明だけでは頼りないので、この本を同時に見せるようにしています。

今年の3冊を紹介しつつ、実際は手帳プロジェクトの現在について書いていました。こうやって書いてみると、さまざまな専門家や興味を持つかたと繋がっていかないとカバーしきれない領域にまで広がってきています。

そういうわけで、手帳プロジェクトは来年、さまざまな仲間を募集いたします。話を聞いてくれるだけでも大歓迎です。僕以外にも集める人が出てくれれば嬉しいです(僕一人だと金銭的な限界があります)。

そして再来年には、手帳プロジェクトで得られたさまざまを1冊の本(媒体はさておき)にできたらとおぼろげに構想しています。領域が横断的で広範囲ですから、単著ではなく共著の形で立体的に浮かび上がらせる形を目論んでいます。

今後も手帳プロジェクトをよろしくお願いいたします。








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