ガーデン・スター【交流創作企画#ガーデン・ドール】
みつめあい。
わらいあい。
そんな、とってもゆるふわな決闘。
ソースの香りを添えて、いただきます。
B.M.1424、7月3日。
ガーデンで学園祭が始まった。
生徒が自主的に運営する出店や、グラウンド中央にあるステージでの出し物があるらしい。
しかし今回の現場は、その華々しいステージの裏手にある、小さな吹き溜まりにて。
私とシャロンくんは、向かいあって立ったまま互いを真剣な表情で見つめていた。
観客はふたり。ヒマノくんとアザミくん。
ふたりもジッとこちらを見て、静かに目を凝らしている。
アンッ‼︎
「はーい、3回戦目も引き分けですねー」
「真顔で勝負ですか……新しいですね……」
「ククツミさん、決闘に勝つ気あるかい?!」
「……あるよ、ほら」
「まっったく動かない表情筋に逆にボクはどう笑わされればいいんだい?!」
遡るは数刻前。
「ヒマノくん、たこ焼きひとつくれる?」
「はーい。ソースと醤油、どちらにしますかー?」
「じゃあソースでお願いしようかな」
「わかりましたー、こちらコイン2枚になりまーす」
「ありがとね、いただきます。……ふふ、繁盛してるみたいだね?」
「まぁ、ぼちぼちですねー」
私はヒマノくんが出店した屋台で、たこ焼きを買っていた。
あつあつのたこ焼きをひとつかじり、肩に乗っているバンクにもお裾分けをする。
「まだお店も多くないですからねー?」
「それもそうだね……?」
学園祭が始まってはや三日、しかし現状屋台はヒマノくんのたこ焼き屋とアルゴ先生の的当て屋しかない。
最終日にカガリくんとアルゴ先生が主催する音楽ステージもあるようだが、今日のグラウンドはあまりにも殺風景であった。
「とはいえ、私が出店をしてもなぁ……」
「お好み焼き屋さんとか、ミルクせんべい屋さんもありますよー?」
「んー、ちょっと気力的に……」
どうにも心から学園祭を楽しめないのは、やはり機構魔機構獣がまだ倒せていないからであろうか。
バグちゃんのフィルム化も直す手立ては見つからず、機構魔機構獣が映す過去のマギアビーストを倒し続けているが終わりも見えない。
こういう時こそ、という意味で学園祭に目を向ける必要性もあるかもしれないが、私には少し難しかった。
どうしても、寂しさが募ってしまうから。
私は塞ぎ込む思考をたこ焼きを頬張ることでかき消そうとする。
熱い。
「……ステージの出し物って、なにするんだろ」
「音楽もありますし、よくあるのはトークショーではないですかー?ほら、記入例にアルゴ先生が書いてたような」
トークショー、というものは壇上で複数人が会話をして、その内容で観客を笑わせたり楽しませたりするものだろう。
「あとはマジックショーとかでしょうかねー」
「あぁ……そっか」
即興劇なども考えると、演劇部に入ったというカガリくんがやる気に満ち溢れているのも頷ける。
「ククツミさん、出し物をしたいんですー?」
「いや、出し物というより……やるなら飲食物の出店だろうけど……ちょっと思い出したことがあって」
学園祭でみんなを笑わせるような出し物、と私が聞いて思い出したことは、シャロンくんとのにらめっこだった。
あの時はシャロンくんの必死さで笑ってしまって、結局私の負けということになった訳だけども。
なぜこのタイミングで思い出したのだろう。
心から笑うということの覚えが、あの時だけのように思えたからだろうか。
いま私に特段叶えたい願いがあるわけではない。
決闘をしてなにかを得ようと思ったわけでもない。
けれど、まぁ。
やられっぱなしというのも癪だった。
「ヒマノくん、これからちょっと時間ある?」
「少しなら大丈夫ですけれどー、なにをする予定ですかー?」
「シャロンくんに、決闘のリベンジをしたいなって」
ということで見届け人として近くにいた0期生の2人に声をかけ、シャロンくんも見つけて確保したわけなのだが。
「ちょうど良いところにアザミくんが。やぁ」
「あ、ククツミさんこんにち——へぇ”ぁ?!?」
アザミさんから『この世に存在しないものを見た』ような声をあげられたのは、また別の話。
時は進んで現在時刻。
ルールは簡単、ヒマノくんがスタートと言い、シャロンくんの時計で1分を測る。その間に相手を笑わせたほうが勝ち。
1分立ったらコッペが鳴き、勝敗がつくまでそれの繰り返し。
魔法の使用は不可である。
シャロンくんにも叶えたい願いが特にないということで、今回は私に勝ちを譲ってくれるという話になった。
そのため私はその1分間で、どうにかして変顔を作ろうとしているのだが。
曰く、表情筋が動いていないらしい。
「いつも柔和な表情、というものが弊害になる時もあるんですね……いっそのこと睨んでみます?」
「アザミさーん、それやったらシャロンさんがもっと固まってしまいますよー?笑顔にさせることが前提ですからねー」
と、まぁ見届け人のふたりもふわふわとしたまま総格闘時間3分。
これでは録に勝敗がつかないだろう。
さてどうしたものか。
目を釣り上げてみようか、頬を伸ばしてみようか。
ヒマノくんの頭の上で、バンクも変顔をしようと頬をむにむにしている。
……つい、笑顔が溢れてしまった。
こんなにも真剣になって、みんなでにらめっこをするなんて思っていなかったから、つい。
「ククツミさん?測り始めてなかったから良かったものの、それじゃあまたボクが勝ってたよ?」
「……いやぁ、なんだか。平和だなぁって」
機構魔機構獣はまだ存在していて、映画館は未だ閉鎖のまま。
討伐に気が急いてしまうものの、出撃のクールタイムは短くなるものではない。
その間をどう過ごすか考えた時、自分でもあまりに平和な時間の使い方を思いついたものだと私は笑う。
「はーい、4回戦目、いきますよー?準備はよろしいですか?」
「ククツミさん頑張ってくださいねー」
「それでは、スタートー」
気の抜けた見届け人の声とともに、次の1分が始まる。
おちょぼ口。
大きく口を開けてみる。
つまんでみる。
伸ばしてみる。
……うん、無理だね。
私は最終手段に出ることにした。
改めて、ルールを頭の中で復唱する。
時計で1分を測る。
その間に相手を笑わせたほうが勝ち。
「ひゃっ?!く、ククツミさん??!」
「え、ぁ、ちょっ?!」
「ふ、あはははは!!まっ、まって?!くすぐりっ、は、反則じゃないかっあはははは!!!」
もちろん反則じゃない。
だって、誰も『にらめっこで笑わせろ』なんて言っていないのだから。
「まぁ、そうなりますよねー」
「ルールを聞いた時点でこうなる予感はしてましたけど……不正はありませんでした。ククツミさんの勝ちですねぇ」
「……よし」
アザミくんからの公正な判定を勝ち取った私はほっと一息をつく。
くすぐる手は止めないまま。
「よ、しじゃなくて、あははははっ、まって、なんで止めない、んだっ、ひゃい?!?」
「面白くて、つい」
「シャロンさん、くすぐりに弱いんですねー、ぼくも混ぜてくださいー?」
「ヒマノくんまで?!まってそれ鳥の翼?!ちょ、くすぐったあっはははは!」
「膝とかもどうなんでしょうねぇ?」
「あ、アザミさん?!とっ、バンクも?!背中に入り込まないで?!?」
アンッ‼︎
「あはははははは!!」
少ししてから。
4人と2匹が地べたに転がる図ができあがる。
「はー、まんぞくしました」
「シャロンくんが大笑いするところなんて、滅多に見なかったからね、なんか楽しくなっちゃって」
「シャロさんで遊ぶ気持ちがわかった気がしますね……ごちそうさまでした」
「だから、どうしてだ」
いつもの口癖が出る前に私が脇腹をツンっとしようとすると、シャロンくんは猫のように警戒態勢を取る。
その様子を見て、また3人はにっこりと笑って。
「ふふ、今日のシャロンさんはー、『どーしてだい?』ですかねー?」
「いえ、『どうしてだーい!』の可能性もありますよ?」
「そうだなぁ、ただ『ドウシテダイ』だけかもしれないね?」
三者三様の、変声魔法の『どうしてだい』を披露する。
最初にシャロンくんと遊ぼうと思ったのはいつからだったか。
こちらの言動ひとつひとつに真面目に反応をしてくれるシャロンくんは、からかい甲斐があって、楽しくて。
いつから、この口癖を聞くのが楽しみになったのだろう。
「いったい、ほんとに、どうしてだい?!」
シャロンくんのいつもの言葉が、4人と2匹の鼓膜を揺らす。
とても幸せで、とても気の抜けた、平和な時間。
本当に、これが。
5人と2匹であれば、どれほど良かっただろう。
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