誰にでも赦せない人はいるのだろうか
母のすぐ上の姉が亡くなった。
私にとっては伯母である。
母は女ばかりの五人姉妹のちょうど真ん中で、亡くなった姉とは一年と数カ月しか年が離れていない。
この世のものとは思えないほど横暴な人で、
母をはじめ、妹たちは家族を含めて散々な思いをしてきた。
(もう一人母には姉がいるが、いわゆる天然の人なのでよくわからない)
若い頃は体力もあり、殴る蹴るの暴力もあったそうだ。
お互いに家族が増え、単独で会うことがなくなり、
肉体的な暴力行為自体そのものは無くなったそうだが、
精神的に搾取され続けた日々があったようだ。
それだけでなく、母たち姉妹は彼女のせいで金銭的にも散々な思いをしてきた。
私は母が賢明に守ってくれたこと、母だけがひとり故郷を離れて地元にいなかったことが幸いして、あまり実害には遭ってはいないが、
直接言われなくても、盾となった母は辛い思いをしたようだ。
子供の頃の記憶の中に、母が電話で誰かと激しく言い争い、
おとなしい彼女にしては珍しく、
文字通り、受話器を叩きつけるように「がっちゃん」と置いたことが記憶に残っているが、今思えば、先日亡くなった姉と口論し、電話を途中で切ったものと思われる。
母のところへ被害に遭っている妹たちや甥や姪から連絡が来るたびに、
伯母は、母やもう一人の伯母や叔母たちと本当に同じ親から生まれたんだろうかと疑いたくなるほど恐ろしい人だという印象だけは私にもしっかり残っている。
母が妹たちと連絡を取っている。
その中で、
「亡くなってしまったからと言って、彼女にされたことは決して赦さない。
でも自分が後から後悔するようなことだけはしたくないので、出来れば顔を見に行きたいと思っている。」
と、恐らくは一番下の妹であろう人物に電話で話しているのが聞こえた。
物理的な距離、季節的なものの総合的な判断で、
結局は顔を見に行くのは断念したようだ。
母がこのように思っているのは以前から知っていた。
十年くらい前から絶縁を宣言しており、
関係を修復する気はさらさらなかったようだが、
妹として、その時が来たらきちんと礼儀は果たそうとしていると決めていることも。
赦せない人
私にも赦せない人がいることは以前書いた。
同じように、母にも赦せない人がいる。
生きていれば誰しもこのような人がひとりくらいはいるのだろうか。
それとも、その思いが骨の髄まで沁みとおった者だけが抱く感情なのだろうか。
私の赦せない人。
魂が輪廻しても赦したくない人。
それは、元家族だった人たち。
私を透明人間のように扱い、自分たちの理解の範囲を超えたからと言って、私に一切関心がなかった人達。
(例えば私が無断で数日家に帰らなくても気付きもしない人たち)
十数年にわたる結婚生活を送ったのちも、夫は私の味方ではなかった。
義父であった人だけは、私を娘のように扱ってくれ、可愛がってくれたが、
元家族はそれも気に入らなかったようだ。
そして、いよいよ離婚する事態となったら私だけを責めに責めた。
世間体が悪いからと言って。
特に夫だった人の一番上の姉のことは、
例え、何度生まれ変わっても赦さない。
思いやりとか人の気持ちはいつだってどうだっていい人。
いかに自分に利益になる事だけに鼻が利く人。
所詮、地元から出ることのない人間関係をお互いに築いているから、
その辺ですれ違うこともあるけれど、
私は一瞬たりとも目を逸らさない。
何の感情も浮かべない、真っ黒い穴のような目で凝視する。
以前はこういう感情が沸き上がってくる自分に対して
自己嫌悪に陥ることも多々あったけれど、
自分を大切にしようと決めた時から、
私を大切に扱わなかった人間に対して、負の感情を抱くのは当たり前の事なんじゃないかと思うようになった。
私は私がいちばん大切だから。
そして、私を大切に育ててくれた両親に対しても、失礼なことだと思うから。
だからこそ、赦せない人がいてもいいのだと。
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