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仕事に疲れた夜に
年末である。
ただでさえ忙しい我が部署、この時期は文字通りてんてこ舞いである。
私は総務で主に経理の仕事をしているが、
大企業ではないので、経理は経理の仕事だけやっていればいい、というわけにはいかない。
電話に出て、お客様の応対をして、その合間に経理の仕事をして、あちこちから持ち込まれる困りごとに対応し、アレが無い、コレが無いと言われると備品の補充をし、その合間に経理の仕事をして、契約書を作成したり、請求書を発行したり、その合間に経理の仕事をしたり、と、何が本当の仕事だかわからないくらい細々とした仕事をしながら日々を過ごす。
年末はそれにさらに拍車がかかる。
何もかも前倒しでやる雰囲気がもやもやんと漂うようになり、
実際に半歩ぐらいずつ前倒しで物事が進んでゆく。
この時期は何年も定時に帰れたことがない。
今年もそんな日を毎日過ごしている。
時間が飛ぶように過ぎてゆき、
気が付けば愛車の燃料も残量が怪しくなって久しい。
今日こそはガソリンスタンドが営業しているうちに帰ろうと、月曜から毎日毎日思っていた。
というのも、スタッフ給油(いわゆる窓拭きもしてもらえるフルサービス)のサービスが営業しているうちに帰れないからだ。
じゃあ、セルフサービスで給油すればいいでしょ、と思うだろう。
流行り病が蔓延してからこっち、
セルフのガソリンスタンドを使用することが会社から禁止されているのだ。
不特定多数が触れる器具はなるべく使用しないように、と。
ぶうぶう文句を言う奴がいたが、
私は元々フルサービス派ゆえ、
どちらにしろ、何の変化もないのだが。
とにかく、営業時間内にガソリンスタンドに滑り込まなければならない。
必死で仕事を片付け、ガソリンスタンドに到着したのが
フルサービス終了5分前。
やれやれ、と思いつつ、給油をしていただく。
私の愛車は、ロードスター990Sという、特別仕様車なので、
車好きの方と居合わせると、視線を感じることがある。
今日も隣のセルフサービスで給油していたおじ様が
遠慮のない視線を向けてきていたのに気付いたが、
私は素知らぬ顔をして前を向いていた。
(私は草食動物並の視野があるので、横顔でも意外と見えているのだ)
すると、右前方に私の愛車の足回りを眺めている人物が。
スタンドの店員さんだった。
少し離れてみたりのけぞって見てみたりすごく興味があるようだった。
私も彼を見るともなしに眺めていたら、
我慢できない、と言った様子で話しかけてきた。
「フロントのブレーキ、ブレンボですよね!」
すごーく嬉しそうな笑顔だった。
車好きなんだなーって一発でわかるような。
そして、続けて
「標準なんですか?変えてるんですか?」
標準装備である事を伝えると
「ロゴがブルーなんて珍しいなって思ったんですよ!」
本当にとても嬉しそう。満面の笑みだ。
ブレンボとは、車やバイクのディスクブレーキのメーカーである。
確かにイタリアのメーカーらしく、ふつうは赤色だから、
珍しいな、と思ったのも納得である。
見ただけでわかるとは、よほどの車好きと見た。
このスタンドの従業員用駐車場は
車好きから見たらとても素敵な車が停まっているので
車好きが多いのは知ってはいたけれど。
ホイールも彼の愛するメーカーであったことから、
給油の間、終わってからしばし、
車のパーツの話、洗車の話で盛り上がった。
あちらはプロなので、洗車の話はとても参考になる。
私は洗車が趣味といってもいいので、
洗車をする際はホイールのスポークの一本、一本、
給油口、ボンネットを開けて拭けそうなところのすべて・・・
拭き上げないと満足できない。
それを伝えると、使える用具や洗剤について教えてくれた。
車の色も趣味がいい!と褒めてくれて、
最後に
「すごく良かったっす。また見せに来てください!」
と大きな声と笑顔で言ってくれた。
素敵な接客だと思った。
私も疲れが吹っ飛び、笑顔になる。
すっごく仕事に追われて、文字通り、くったくただったけれど、
この店員さんのおかげでなんだか心があったかくなって
幸せな気分になった。
それから、すごく幸せなことがもう一つ起きた。
ガソリン代を払ったら、端数の金額が
小銭入れに入っていた小銭とぴったりだった!
こんなこと、ある?