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メディアについて思うこと…

こんなニュース記事がありました。

地中海で国際的な調査が実施され、複数隻の沈没船が発見された…というニュース。

の記事


もともと、英語で書かれた記事(それほど良い記事ではない)を「なんとなく」翻訳して微妙な解釈を加えて出されている記事のようです…。読んでみて、どうしても、ひっかかります。問題ありありの記事になっています。

こちら、英語の記事


他の新聞・雑誌社などもここから引用していたり、ちょっと待った!と言いたくなってしまいました。もし、さらにこの記事をネタに別のニュースが出てくると大変です。伝言ゲームのように、どんどん劣化・陳腐化していき、事実と遠くなる…。

英語と日本語の記事を比べてみたいと思います。以下の内容について見ていきましょう。

  ①出だし

  ②機械の名前など…ひっかかる

  ③研究者の言葉を改変

  ④場所はどこ?何が発見された?乏しい描写

  ⑤まとまらない・意味のない結論

  ⑥さらに…リンクや背景の欠如

  ⑦思うこと…


①出だし…

突然、宝石…。これに驚愕。

そして、次の文章。8か国と書いておきながら、1.2.3.4.5.6.7.…あれ? そう、イタリアが抜けている。ケアレスミスか。

ユネスコと協力とあるが、どちらかといえばユネスコが調整した、と解釈したほうが良い。ユネスコ水中文化遺産保護条約の枠組みの中での調査となっています。そして、それぞれの国の領海の外側・接する地点(the bottom of the body water sitting between them)の調査になっています。これらについて、日本語版はサラッと流しているが、ここは、このプロジェクトの根幹でもある。発見について語ってはいるが、ローマ時代の沈没船なんて地中海ユネスコ隻発見・調査されているわけで、発見そのもの自体は、たいしたニュースではない。

そして、このプロジェクトは、ユネスコ水中文化遺産保護条約の枠組みの中で領海外において実施された国際協力プロジェクトであることが重要。多国籍で領海外で実施される考古学調査としては世界初の試みである。

もう一度書こう…ポイントは、
 1)ユネスコ水中文化遺産保護条約の枠組み
 2)領海の外にある遺跡調査
 3)多国籍参加のプロジェクトとして実施
 4)発見そのものは、実はたいして珍しくはない
 5)遺跡をいかに保護していくかが重要

  1)2)3)の条件がそろって実施されたプロジェクトとしては世界初。記事全体を通して、このことを考える必要がある。

それを踏まえて、出だしの「宝石」。

宝石の話をする、つまり、金銭獲得目的のトレジャーハンターを連想させる。多くの国では少なくとも領海内においては引き上げ遺物の報告は義務化されており、宝石などの引き上げと売却は犯罪である。領海外においては法律が適応できない場合があり、未だにトレジャーハンターが活動する海域もある。それを食い止めるために国際的な水中遺跡保護の枠組みを作ったのが、ユネスコである。

つまり、この日本語の記事は、出だしの1文字目から、記事全体の趣旨を真っ向から否定しプロジェクトそのものを完全に否定している。ユネスコを否定し、多国籍が集まったその理由も否定し…なんの意味があるのだろうか?

そもそも、地中海のローマ時代の遺跡に宝石が積まれていた例などほぼない。時代的に言えば、卑弥呼の生きた時代。ちょうど、吉野ケ里遺跡が話題となっているが…。吉野ケ里のお墓を開けて中からお宝を掘ってみんなで山分けだ!などという記事の書き方をするだろうか?

ところが、沈没船になると、この記事のように、最初から宝石という言葉を使うことで、そのような行為を肯定しているかのような。

今回のスカーキー・バンクにおける調査の報告などはこちら


②機械の名前など…ひっかかる

これも、問題… マルチビームは、音響測深器です。海の底の深さを知ることができます。点群データとして海の底の情報を取得しています。つまり、海底の状況は把握できません。高さ情報だけです。堅いもの柔らかいもの鉄なのか何なのか…そのような情報があって初めて海底の状況の詳細かと思います。詳細を知るには、サイドスキャンソナーのほうが適しています。

あと、遠隔操作水中探査機…。誰のネーミングでしょうか? ROVなど検索すれば、一発で水中ロボットという単語が出てきます。

あと、発見した船ですが、3隻あるはずです。ちょっぴり句読点の使い方が気になりますが、まあ、ここは寛大に。

サイドスキャンやマルチビームなど機器やデータの画像はこちらを参考に


③研究者の言葉を改変

ここでも、記事の趣旨から逸脱した内容になってしまっています。記事の革新たるところを完全にスルーしており、研究者の発言を変えています… なぜ? これって、部分的引用にならないか?発言の趣旨を曲げているとも。

英語だと、この海域はトレジャーハンターに荒らされてきた場所(Happy Hujnting gtound)であると。そして、研究者がホッとしたのは、このように過去に盗掘の被害に遭った場所(heavily looted area)であってもまだ守るべきものが発見できたことに安心しています。

日本語だと努力して発見できて安心した… というだけのことになっています。そりゃ、探して見つければうれしいよね。このニュースは、発見したことがメインではない! そして、最後は突然、守るべきものが沈んでいる、という言葉。たくさんの水中遺跡がすでに発見され盗掘されていた事実が全く出てきません。「守るべきもの」が最初の「宝石ザクザク」と矛盾しているのに気が付かないようである。

ここは、私も本当はもっと気を付けるべき点ですが…

SEO研究所サクラサクラボさんから引用

https://www.sakurasaku-marketing.co.jp/labo/blogs/quotation


④場所はどこ?何が発見された?乏しい描写

タイタニックを発見したロバート・バラードさんに調査についてはなしていますが、これは、スカーキー・バンクのこと。

今回のプロジェクトも、スカーキー・バンクと呼ばれる大きなエリアの調査の話であり、沈船が発見されたのは、その中にあるキース・リーフという小さなエリア。それなのに、3隻の船が発見された小さなリーフの名前だけ出して、おおもとのエリアの名前やプロジェクトの名前も出てきません。  

例えるなら、ニュースを見ていて「本日、306号室で火事があり…」のような表現に聞こえる。〇〇町では、などから始めるべき。

ここもちょっと、おどろき。チームはさらに3隻のローマ時代の船を発見…とかいてあります。これは、読み間違い、というか、事実誤認? 本当は、バラードさんが既に発見していた沈没船の追加調査(scrutinized)をしています。今回の調査での発見とは書いていません。

記事のタイトルが3隻発見!とあり、それらはローマ時代と19-20世紀の船であると書かれているのに、ここでさらに発見!って計6隻見つかってることになる。そしたら、タイトルは6隻発見にしないと…書いていて違和感はなかったのか?

どこのことを話しているのか、追いにくいですので、このような問題が起こってきます。いったいどこの調査をしているんだ? 答えは、スカーキー・バンクという場所で、イタリアとチュニジアの中間地点。かつてバラード氏が調査しています。今回は、スカーキー・バンクの中に位置するキース・リーフ周辺で3隻の船を発見。また、スカーキー・バンク(のイタリア側)でバラードさんが20年前に発見したローマ時代の船3隻を詳しく調査した、ということです。

それから…

2隻は容器、石、商品などを積んだ… 
amphorae, stone, ceramics, and common wares,

なんだろう容器って…アンフォラを容器と表現しているのだろう。🏺🏺確かに…。でも、英語でも不満なざっくり表現をさらに容器とか商品って。 


スカーキー・バンクの20年前の調査については、いくつか論文などが出ていますね。

http://web.mit.edu/deeparch/www/publications/papers/BallardEtAl2000.pdf


⑤まとまらない・意味のない結論

は?

沈みゆく船? え、数千年前に沈没した船ですよ…意味がわかりません。 

スカーキー・バンクの話、ユネスコの話、領海外での調査であること、世界初の調査体制で臨んだこと、この場所が過去には盗掘の現場であったこと、守るべき遺跡がまだ水中に残されていること…。これらの重要な要素が全く出てこない。 

どうしちゃったのだろう。

「この先も何かを引き上げることはないそうです」と締めくくる。いや、調査で今後引き上げる可能性は十分あるよ(書いてはいないけど)。実際に、サンプル引き上げはよく行ってます。

これ、筆者は、引き上げなかったね、残念…と書きたかったのか、なんだろう。後味が悪い。

⑥さらに…リンクや背景の欠如

英語本文中では、関連する遺跡やトピックについてリンクが用意されており、詳しく知りたい人は見てください、となっている。

例えば、こちらのユネスコのプレス・リリースなど。英語の記事は、このリリース内容から要点を説明している。調整国がチュニジアであることなど、調査の目的などが良くわかります。

https://articles.unesco.org/sites/default/files/medias/fichiers/2023/06/Fact%20sheet%20-%20UNESCO%20international%20underwater%20archaeological%20mission%20in%20the%20Mediterranean.pdf


沈没船を守るための取り組みについて

などなど…

日本語の記事は、「日本の読者に英語のリンクを付けても意味ないだろう」と思ったのか、ほとんどリンクなし、あっても関連性の薄い日本語で書かれた記事。

⑦思うこと…

英語の記事をざっと読んで、主観と思い込みで書き換えている。貼っているリンクの意味を理解せず、また、おおもとのユネスコのプレス・リリースもおそらく読んでいないのであろう。

それなりに有名な方が書いた記事のようですが…。編集者側に問題があるのではないか?まあ、書いた方も忙しく、文化遺産に興味がなかったのだろうけど、頼まれたので仕方がなく仕上げたのか。もしくは、編集者が間違って下書きを掲載しちゃったのか?

やっぱり5分で終わるような仕事にしか見えない。もしくは、はやりのAI-Chatに頼んでまとめてもらったのか?機械の名前なども適当に翻訳し、何も関連する事例を調べずに主観で書いている。事実誤認や書き間違いも多い。さらに、革新となる部分を上手に抜き取っているのは偶然なのかわざとなのか、ユネスコを否定しているのは何か意味があるのか?

編集者も、全くチェックせずに載せてしまったのだろう。

ユネスコと財宝を並べてある時点で違和感を感じてほしかった。

ユネスコ水中文化遺産保護条約については、こちら。


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