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『アーキテクチャ』 大谷匠×安宅 研太郎ダイアローグセッション【Dialogue in the SHIP 2021 〜価値観の対話〜④】

ヘルスケアコミュニティSHIPのイベント「Dialogue in the SHIP 2021 〜価値観の対話〜」が2021年12月18日に行われました。
今回の記事で紹介するのは、 大谷匠さんと安宅 研太郎さんによるトークセッション。「アーキテクチャ」を切り口に、関係性について対話しました。

Dialog in the SHIP とは?

Dialogue in the SHIP 2021 〜価値観の対話〜今回のテーマは「関係性を深める。その先に生まれるもの」。関係性は「深める」だけのものではありません。ただそこにいる。会釈は交わすけれど、あえて話す仲にはならない。それぞれの人が、それぞれの場で、自分にとって心地良い関係性があるのではないでしょうか。普段、人との関係性で考えていることや、現在の活動につながる思いの源泉について対話します。4つのトークセッションをお送りします。

プロフィール

●安宅 研太郎(建築家/株式会社パトラック代表)
東京藝術大学大学院修了後、アタカケンタロウ建築計画事務所を設立(2015年、株式会社パトラックに改組)。+αの空間を持つ在宅医療の診療所「かがやきロッジ」はグッドデザイン金賞、医療福祉建築賞受賞。診療所と大きな台所のあるところ「ほっちのロッヂ」、重症心身障害児・医療的ケア児のための保育/メディカルフィットネス/宿泊を行う「かがやきキャンプ」の設計も手掛けている。また岩手県遠野市で緻密な調査/計画/実践/教育を同時並行的に行う地域再生プロジェクト「遠野オフキャンパス」の企画・運営も行っている。

●大谷 匠(医療法人 医王寺会 地域未来企画室/おうちの診療所 地域連携担当看護師/福祉と建築 代表)
看護大学を卒業、看護師免許取得後、シルバーウッドに入社。サービス付き高齢者向け住宅 銀木犀の地域連携・採用、VRを活用した新規事業の立ち上げ、厚生労働省や経済産業省が主催する補助事業や調査事業の事業責任者を担当する。現在は、医療法人医王寺会やおうちの診療所で地域医療に携わる。その他任意団体 福祉と建築やヘルスケアに関心がある人が集まるコミュニティヘルスケアSHIPの運営を行う。


どんな人のどんな行動も許容するような場所をつくりたい

大谷:よろしくお願いします。僕はヘルスケアコミュニティSHIPの運営に携わっており、そのなかでも「福祉と建築」というイベントを中心になって開催しています。

僕は看護学生時代に病院や施設に行って実習をして、「なんかテンション上がらないな」「自分が高齢者になって介護が必要になったときに入りたいとは思えないな」と思ってモヤモヤした経験があります。

そんなときに、前職である株式会社シルバーウッドが運営する銀木犀というサービス付き高齢者向け住宅に出会いました。銀木犀はいままで実習に行っていたような施設とは違い、建築のパワーを感じました。建物が働く側のモチベーションに働きかたり、対象の身体に働きかけることでケアそのものになると思ったんです。この出会いがきっかけとなって、高齢者や子どもをはじめとして、人が癒される建築に興味を持ち、福祉と建築というイベントを開催しました。そのつながりで、安宅さんとも出会うことができました。

今日のトークセッションでは、僕が感じている「建築が癒す」とは具体的には何なのか、建築が「医療職と利用者」もしくは「介護職と利用者」の関係性にどう働きかけるのかをお話しできればと思っています。

安宅さんは「かがやきロッジ」や「ほっちのロッヂ」など、素敵な医療施設や福祉施設も手がけているので、今参加されている方は検索して写真など見ながらこの後の安宅さんのお話を聞いてもらえると内容を理解しやすくなるのではと思います。では、安宅さんも自己紹介お願い致します。

安宅:こんにちは。安宅研太郎と言います。ご紹介いただいたように医療福祉系の建物をいくつかつくっているのですが、それはここ数年の話です。いままではさまざまなタイプの建築を設計していて、専門はない状態でやってきました。たとえば、住宅や集合住宅、企業の研修施設、幼稚園などを設計してきました。

医療に関わるようになったのは、2015年に岐阜の医療法人かがやきの理事長、市橋亮一さんとプロデューサーの平田節子さんに声をかけていただき、かがやきロッジの設計を始めたところからです。

また、十数年前から岩手県の遠野市という所に通い、そこにあるクイーンズメドウ・カントリーハウスという知る人ぞ知るような場所の運営にも関わっています。そこを起点に学生や高校生などの地域の人たちと遠野の様々なリサーチをしながら、行政とも地域づくりのための活動をしています。

最近のホットな活動としては、遠野市中心部にある遠野駅が6年程前から解体されそうになっていて、それに反対する運動の旗を振っています。

安宅 研太郎

大谷:ありがとうございます。安宅さんはただ図面をひくだけではなく、地域とつながってさまざまな面白い活動をされていますよね。以前も、建物を建てる前にそこに生えている雑草がそこの在来種なのか外来種なのかを調べるフィールドワークを実施していました。そんなところから建築が始まるんだ、と驚いた記憶があります。

では、早速本題に入っていきたいと思います。このトークセッションは関係性というテーマで、アーキテクチャについて話す時間です。医療・福祉業界でも、かがやきロッジやほっちのロッヂのように人が集まる建築が注目されるようになり、地域に開かれていて人が集まる場所がいい、という認知が広まりはじめました。

なぜかがやきロッジの建築に関わるようになったのか、人が集まる建築はどんなものなのかをまず聞いてみてもいいですか 。

安宅:はい。かがやきロッジは在宅医療専門のクリニックの建物なのですが、その執務スペースは1/3ぐらいで残りの2/3ぐらいは名前のない多目的な大小の部屋の集まりでできています。

そのようなつくりになったのは、市橋さんからさまざまな話を伺っていたからです。「在宅医療を続けていくと、将来的に自分達スタッフだけでは医療は立ち行かなくなっていくだろうから、地域の人たちを巻き込んだり、ボランティアになってもらったり、家族の人たちに理解してもらったりする活動を続けて行かないと難しいだろう」という話や、「医療者でも在宅を理解していない人は多いから、研修をできるだけ積極的に取り入れて在宅医療の文化をきちんと広げていきたい」という話を伺いました。

そうした考えを踏まえると、執務スペース以外の場所が必要だろう、という話ははじめからしていました。話を聞いていて、一人でその場所に来る人と、何人かで話し合いなどの目的で来る人など、さまざまなグループが同じ時、同じ場所に共存することになることが分かってきました。

そのときに、一人の人もそこが自分の居場所だと思えるし、何人かで来ている人も遠慮なくその場所で仕事をしたり、話し合いをしたり、ご飯食べたりできるような、どんな人のどんな行動も許容するような場所をつくっていけるといいなと思いました。

そこで、かがやきロッジでは、真ん中に少し大きなリビングと呼んでいる吹き抜けの空間があって、その周りに大小の空間が取り巻いていて、適切な距離感を取りながらいろんなチームや個人がその場所に共存できる空間をつくりました。

大谷:ありがとうございます。その考え方は銀木犀にも似たところがあります。高齢者住まいは高齢者のシェアハウスとも言えますが、人と関わりたくて来ているわけではない人も当然いて、「私は一人で暮らしたいんだよね」と話す人もいます。

そのため、さまざまなグラデーションのなかでも個人が快適に過ごせるように、人と関わりたい人は関われて、一人でいたい人は一人で居れるような状況がつくれるように工夫しています。

たとえば、教室みたいな空間が銀木犀にはありません。教室は構造的に先生の目で教室内にいる30人ほどを見渡せるようになっていて、逃げ場がないですよね。医療介護施設にも似た傾向があり、教室のような逃げ場がないスペースを設けることも多いんです。

そこで、逃げ場をうまくつくろうと考えました。学校でたとえると、体育館裏とか屋上までの階段みたいなところです。このような場所は、建築的にはどのようなことを考えてつくっているのでしょうか。

安宅:軽井沢のほっちのロッヂを建てるときは、ほっちのロッヂの共同代表の紅谷浩之さんと藤岡聡子さんから「みんながそこに集まって一緒に何かするみたいなことは絶対にやりたくないから、大きい部屋を作りたくない」、「同時に好きなことをいろんな場所でそれぞれ行っていてほしいから、それを可能にする場所をつくって欲しい」という要望がありました。

そういう場所をつくるとなると、少し物陰になるところが必要だなと思いました。そのため、空間を少しガタガタさせたり、折り曲げたり、ずらしたりして、つながっているけど少し見えなくて、でも気配は感じるから変なことが起こったらすぐに察知できる、そんな物陰みたいな場所をたくさんつくりました。

大谷 匠

大谷:ありがとうございます。実際に安宅さんの建築を見ていても、天井の高さを変えていたりとか廊下を曲げていたりとか、大きい柱を使っていたりとかいろいろ工夫されているなと思います。

ほっちのロッヂの方々が「全員一緒に何かをする空間をつくりたくない」と言っていたのは、どういった意図があってのことだと思いますか。

安宅:プログラムが決まっていて、同じことを一斉にやるのは窮屈だし、本当は施設を利用する方々だって得意なこととか好きなことは人それぞれですよね。それに、そもそもプログラムを与えるという時点で、サービスする側とされる側に分かれてしまうし、一人の「人」じゃなく、「集団」として扱われてしまいますよね。ほっちのロッヂでは、できるだけ「人」として出会うことを目指しているんだと思います。

そのために、それぞれが得意なことやその時やりたいことをそれぞれの場所でやっていい状況をつくっています。そうすると、スタッフがおばあさんからジャムの作り方や美味しい煮物の作り方を習ったり、手芸を習ったりということが自然に起こって、サービスする側される側、病のあるなしみたいな関係性を超えていけるんじゃないでしょうか。

大谷:ありがとうございます。全員で同じことをやらずにみんなが好きに過ごす良さはありますよね。

空間的な余白が意外な一面を見せてくれるきっかけになる

大谷:事前にお聞きした内容で、医者という肩書に囚われずに自由に振る舞える環境だと、それぞれの得意不得意が見つかることがある、という話があったかと思います。その話を改めて聞いても良いですか。

安宅:はい。かがやきロッジをつくって数年経った時に、プロデューサーの平田さんから聞いた話です。

執務空間以外に大きなキッチンがあったりピアノが置いてあったり外にいろんな草花が咲いているような環境があると、休憩時間にピアノを弾きだす人がいたり、料理を作るお医者さんがいたり、庭いじりを熱心にやる方が出てきたりするそうです。

こうした仕事のスキル以外の部分が見えるような環境にいると、「なぜそれができるようになったのか」といった会話も生まれますし、得意なことを教えあうような場面も生まれるそうです。すると、仕事の関係だけでなくさまざまなかたちで関係性が結ばれるようになり、仕事の同僚を超えた友人や仲間のような存在になっていくそうです。

そうすると、仕事の場が次第に暮らしの場に変わっていき、働いている人の居心地も良くなっていくのかなと思います。そのおかげか、建物が竣工してから、かがやきロッジの看護師の離職はゼロだそうです。

大谷:暇な時間があるときに鼻歌を歌っている人がいたら、別の人が「この人はこの歌が好きなんだ」と鼻歌を歌っている人に親近感を覚えたりするように、空間的な余白が意外な一面を見せてくれるきっかけになるわけですよね。こうした話が僕は好きだなと思っています。

実際に、設計上は高齢者住まいには必要のない建築の余白がその人の人となりを知るきっかけになることもありました。たとえば、地域の子供たちが入ってくることができる場所をつくり、そこでの入居者さんの振る舞いによって、子供と関わるのが得意な保育園の先生だったことを知ったこともありますし、駄菓子屋さんをつくった際に駄菓子屋さんの店長をやってくれた人が、昔は銭湯の番台やっていたという話が聞けたこともあります。

安宅さんは建築と関係性を考えるきっかけのひとつとして、ご自身の実家をつくったことを挙げていたと思うのですが、その話を聞かせてもらっても良いですか。

安宅:自分のプロジェクトでは、個別性と全体性が両立している状態を目指していることが多いように思います。個人がそれぞれに活動する場が、緩やかに全体にもつながっているようなイメージです。たとえば、昔つくった幼稚園もそうでした。

今回トークセッションの話をいただいたときに、その根源は何かという話があったので何だろうかと考えてみたところ、最初に建てた自分の実家の建物もそうなっていたなと思い当たりました。

建てた当初は四人の家族とおばあちゃんがいたので、5人の大人が田舎で建物の中に暮らすことになります。その生活を想像した時に、全員がリビングとダイニングに集まって毎日顔を突き合わせて時間を過ごしていたら、相当息苦しいだろうなと思ったんです。

そこで、設計するときはアトリエとリビングとダイニングなど、いろんな場所を全部つなげながらつくったんです。建物の中に物陰をいっぱいつくって、全部つながっているんだけどちょっと引っ込んでいれば一人になれるような場所をたくさん埋め込んだ住宅をつくりました。ちなみに、アトリエがあるのは、うちの実家は僕以外みんな工芸家だからです。

考えていることは、実家を建てたときからあまり変わっていないんだと思いました。

大谷:自分の住宅で個別性と全体性が同居している状態をつくるのは、医療施設などとは意味合いも少し変わってきそうですね。

使い倒してもらえるような場を用意したい

大谷:事前にお話しした際に、医療・福祉施設などをつくるときは、あまりその特殊性について考えすぎずに取り組んでいるとの話があったと思います。医療・福祉系の建物は一定のハードルがあるものだと思うので、もちろん全く考えていないわけではないと思うのですが、いまはどのように医療・福祉施設の設計の仕事を行っているのでしょうか。

安宅:初めて医療に関わったのが在宅診療のクリニックの設計だったからかもしれないですね。診察をしないし患者さんも来ないため、医療的な要素があまり必要なかったんです。

また、ほっちのロッヂを建てる際に、紅谷さんに言われたことも影響していると思います。「自分たちはいろんな家に行って住宅のなかで医療をやるスペシャリストだから、新しい施設をつくるからといって医療・福祉的なものをつくる必要はない。住宅の中にあるものだけでいい」と言われたんです。

とはいえ、さすがに入れた方がいい要素もあるのではないかと思い、「汚れものを洗うところが必要になるのでは」といった提案を持っていっても「いらない、いらない」とか「お金がかかるから全部消してください」と言われて。最終的には手すりすらなくなっていくような状況でした。

そういう施主に囲まれて育てられたことが、ひとつの要因となっていると思います。

また、医療・福祉が専門ではない半分素人なので、医療や福祉の施設らしさを考える前に、そもそもそこで過ごす人(患者さんもスタッフも)にとって空間がどうあったらよいかというのを、ゼロベースで考えているところもあります。

たとえば、いまつくっているのは「かがやきキャンプ」という、重度の障害を持っている方を専門とした施設です。そこでも何か特別な設計をするのではなく、居心地よくその場所で過ごせるようにするにはどうするかを考えてつくっているので、あまりアウトプットとしての施設の特殊性は関係ないかもしれないです。

大谷:安宅さんは、特殊な施主さんに囲まれているのでこれが普通だと感じられているかもしれませんが、そこが他にない良さだと思っています。他のところではどこか先入観があって、「診察室ってこういうものだよね」と診療所がつくられていたり、「お医者さんと患者さんという関係性ならば、こういう位置関係が望ましい」と設計されていたりすることも多いです。

ほっちのロッヂは畳で診察しているという話を聞きましたが、施主さんからそうしようという話になったのでしょうか。

安宅:あれは竣工後に見に行ったら、畳が敷いてあったんですよ。僕が設計していた段階では、診察室として部屋をつくってベッドの絵も描いていたんです。でも、いざ行ってみたらベッドなんて置いていなくて、畳が敷いてあって真ん中にちゃぶ台が置いてあって。なんだこれ、ここで注射しているんですか? という驚きがありました。

大谷:「畳の部屋のちゃぶ台で注射される環境だと子どもが帰らなくなる」という話を以前していただきましたよね。環境のおかげで子どもが「自分は病気で注射される人だ」という気持ちにはならず、「おもろいおっちゃんのところに遊びに来たぞ」という感覚になっているのではないかと思います。一方で、一般的な診察をする環境は「診察室」だから診察される側の振る舞いも「患者」になるケースもあると思います。

このように空間が関係性を決める場面もあると思います。その人の人柄なども影響していると思いますが、空間がそうさせている部分もあるのではないかと思います。

安宅:確かに、空間が「ふるまい」を規定するようなこともあるでしょうね。空間はそういった意味で力を発揮することはあると思います。

一方で、空間の力よりも、医療・福祉の活動をするクリニックや施設の方々の活動の力はとても大きいと思います。空間を使う側の方に空間を使い倒すほどのたくましさとすさまじいエネルギーがあるから、その場を変えて行ったりそういうことをやっちゃっていいんだっていう状況をつくり出せるのだと思っています。なので、設計側がやれていることは少ないなと常々感じています。

大谷:なるほど。建築をつくる側の方に話を聞くとできることは少ないという話をされることもあります。一方で、一つ前のトークセッションのビーイングで「場の力がすごいよね」という話が出ていたように、サービス提供者側からすると、やはり建築があることのすごさも感じるんです。

「空間を使い倒す方がすごい」との話でしたが、設計して良いと思った空間をサービス提供者が運用してみた結果、畳を敷いてしまうようなケースは建築家としてはポジティブなんですか。

安宅:ポジティブです。むしろ使い倒してもらえるような場を用意したい気持ちがあるので、作品扱いされるより使っていける場ができた方が面白いと思っています。

空間そのものよりも、そこでどういう活動が生まれていくかに価値はあると思っているので、そのための機能として居心地の良い空間が活動のしやすさなどに貢献できているならうれしいし良いことだと思っていますね。

大谷:設計を担当してくださる方が「ケアがより良い方向に行くといいよね」とサービス提供者である僕たち医療者と同じ方向を向いてくれるのはとても心強いと思います。

おどろきがある場所よりも、ずっと居たいと思える場所をつくりたい

大谷:僕が運営している「福祉と建築」というイベントでの建築家さんからのフィードバックとして、「福祉建築を考えた経験により、住宅の設計を考えるときもケアの視点は大事だなと感じた」という話を聞いたことがあります。以前、安宅さんも「どんな建築物も居心地いいことが一番大事だよね」と話していましたが、いまはどのようにお考えですか。

安宅:居心地が良いか悪いかはすごく主観的な話だし、建築家自ら「自分の建築は居心地いいです」という説明はなかなかしないしできないです。僕も居心地のよい建築を目指してはいますが、自分の建てたものを「居心地が良いですよ」とは紹介しづらいですね。

以前設計した幼稚園の園長先生が、建ててから4〜5年経った頃にインタビューを受けていたんです。その話していた内容がきっかけとなり、居心地の良さについて考えたことがあります。

そこでは、幼稚園の日々の活動をどう考えているかという話をされていました。「私たちは子供たちに『自分がここにいていい』『愛されている』という経験を幼稚園の中でさせたい」「幼稚園は自分を肯定してくれる場所である、自分は肯定されたことがある、という記憶を持って大人になって欲しい」という話があり、そこに建築が貢献してくれていると話してくれたんです。

緑があったり、風が気持ちよく吹いたり、教室から見る外の風景が良かったりするようなことが居心地の良さに繋がっていて、子どもたちも居心地が良くその場所にいることを感じていているそうなんです。

そして、「『居心地がいい』ということは『自分がここにいていい』ということですよね」ともインタビューで語られていました。

それを聞いた時に、初めて「居心地がい良い」というのはハッピーな肌感覚として終わるわけではなく、「ここにいてもいいんだよ」というメッセージを介して教育につながっていたり、その場所の活動の根幹にちゃんと繋がっていったりするものなんだと理解したんです。
僕のプロジェクトでも、根幹ではその場所の居心地の良さを大事にしたいと思っています。その場所に入っておどろきがある場所より、本もないしスマホもないけどそこに座りたい、ずっとそこに居たいって思える場所をつくりたいですね。どんな建築の中にも、居心地の良さを感じられるようなものを少しずつ埋め込んでいけたらいいなと考えています。

大谷:居心地という表現はすごくふわっとしているんですけど、全員が理解しやすいものですよね。たとえば、布団を太陽の下で干してそこで寝たら心地よいよね、という話は共感しやすいものだと思います。

そういう話を建築として落とし込むときに、建築家ではない人が建ってみないとわからないじゃんと思ってしまうところを、建築家さんたちは設計図に落としていますよね。そこにプロ性を感じています。

医療福祉職と建築家が協働する時に、医療福祉職側はとても主観的に言いたい放題言ってくることがあると思うのですが、安宅さんは施主さんの言うことをプロとして実現していくところと自由や余白を残しておくところと工夫しているように思うのですが、いかがでしょうか。

安宅:設計していく各段階で施主さんからのフィードバックをもらって、それをどう反映していくかはその段階ごとに考えるんですけど、全部聞きすぎると本当に整合性のないものになってしまったり、重複するものが出てきたり、大きな建物になってしまったりしてしまいます。

なので、そこは整理して「その話はここで実現できませんか?」「同じ場所でこれとこれは実現できますね?」というような話をします。こういった話はコストコントロールにもつながるので、そのあたりのことも説明しながら一緒につくっていくようにしています。

大谷:なるほど。設計も考えているとは思うのですが、医療・介護施設はなんとなく監視型に流れていってしまうところがあると思っていて。それは安全性が大事だからなどの背景もあると思うのですが、建築家と医療福祉職の対話が少なくてお互いの専門性を主張し合えていないのではないかと思うんです。安宅さんは異なる専門性を持つ方とのやり取りで困ったことはないですか。

安宅:けんかになるほど主張し合うようなことはないです。ほっちのロッヂを建てたときのように、打ち合わせの話だけではわからない部分をこういうことが必要なのではないか、と先回りして考えることもあるので、そこで提示したものに対してフィードバックをもらってすり合わせていくようなつくりかたをしています。

大谷:なるほど、ありがとうございます。お医者さんや医療職の方は専門性を持っていて、それにプライドを持っているようなところがあると思うのですが、建築家の方もそういう面があると思っています。

そこがうまく一致しないと「医療福祉職の方が言ってるしそうしよう」「建築家が言っているからそうしよう」と流されるままに意思決定をしてしまうことも起き得ると思います。

そうならないように、協働する医療職と建築家の関係性を親密にしていく必要があるのではないかと思いました。ありがとうございます。

最後に聞きたいことがあります。安宅さんの思う、居心地の良い建築があれば教えてください。後日行ってみたいと思っています。

安宅:手前味噌ですけど、岩手にあるクイーンズメドウ・カントリーハウスでしょうか。設計にも関わっていますが、僕自身が手掛けている部分はほんの少しです。もともとは違う建築家の方の建物があって、そこは景観も含めてすごく自然な形でコントロールされていて、素晴らしい環境だと思っています。とても居心地がいいです。

大谷:これは行くしかないですね。ありがとうございます。お時間になりましたので、これにて終わりたいと思います。聞き手のみなさんにとっても、心地いいセッションであったら幸いです。ありがとうございました。

安宅:ありがとうございました。

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