水木しげるが描く釣り姿
角川文庫の『神秘家列伝』というのは、水木しげる先生が古今東西の「神秘家」を題材に描く伝記漫画のシリーズで、そのうちのひとつに明治期のジャーナリスト・宮武外骨を描かれました。
内容や前後関係についてはここでは語らず、とにかくこのヒトコマです。宮武外骨が釣りをする立ち姿で、ストーリー上とくに必要に迫られたカットというわけでもないのです。釣りでなくてもよかったでしょう。
しかしこの立ち姿がなんとも味わい深い。完璧な立ち姿です。デッサンが整った、リアリティーのある漫画的デフォルメであります。首から背中にかけてのラインが生々しく、シンプルな線に集約されています。
宮武外骨が来ている外套は、「とんび」「二重廻し」「インバネス」と呼ばれ、当時の一般的な防寒用外套だったそうですが、これらも複雑な見せ方をせず、シンプルな線でまとめています。
何分も何十分も鑑賞に堪えうる、素晴らしい絵であります。