1812C志乃【空祠参道】
石を踏む。ざらりと薄く砂が擦れるのを意に介さず、石段を降りる。平らかな石畳を歩き、数歩でむき出しの地面に触れた。
土を踏む。踏み固められたような土の道、木立の中にあるせいか薄く湿り気を帯びて、素足にはひんやりと冷たい。土から顔を出した木の根を避ければ、ぺたり、足の裏に乾いた木の葉が貼りついた。
モミジの街灯に明かりがともるには数刻早く、木々に遮られてもここは明るい。少しばかり日が色づき、影が斜めに伸び始めている。
ここは、参道だ。人の子が、祀る神仏の祠へ参る道。
山肌を切り落としたような急坂のふちには、錆びぬように塗った柵を設け、日が落ちれば点々と明かりを灯し。憩いに木の様でいながら朽ちぬ長椅子を置き、手入れを施し。
振り返る。
石の天面をくり抜いただけの手水鉢、幾年も火の燈らぬ角の欠けた石灯篭、色褪せた鈴緒と無造作に張り付けられた幾枚もの札。積み上げられた石の隙間からは小笹が顔を出し、祠には竹箒が立てかけられている。正面の戸にも、三方の壁に開いた釣鐘型の窓にも、玻璃や障子紙はない。
手入れこそ行き届けど、古く、栄えているとは言えない小祠だ。手入れ以外に、訪れる人が絶えて久しい。
まぶしく白む空を見上げ、風の通る祠を正視し、それから参道の先を目す。
人の在る場所へ。
ここは、産道だ。人の世へ、生まれ出ずるための道。
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