1905B志乃【風車の足元】
寒の戻りもなくなった、春真っ盛り。春の初めに咲く淡い色の花々に代わって、次々と鮮やかに視界を彩る花が増えていく。
赤、白、黄色にとどまらず、燃え立つようなオレンジや黒を帯びた深い紅色、見るだけで甘く感じるような桃色と、競うように咲き揃ったチューリップが花畑一面に揺れていた。すらりと清楚で潔いシンプルな花弁もあれば、八重に咲いてひらひらとパニエをひっくり返したような変種もある。一種に揃えずばらばらに植えられたとりどりは、まるで見目の違う隣の花と手を取り踊るようだ。咲いてから時間がたち、陽気と日差しにすっかり花弁の開いた花もあるが、咲いたばかりの慎ましやかな花を少女とすれば、少し崩れたようなその姿は妙齢の婦人めいて不思議な色気を醸し出している。
木靴と麻の服で蠱惑的なドレスを着たご婦人方の舞踏会に紛れ込んだ気分で、ふらふらと花の合間を縫って歩いた。平らな土地に視界を遮るものはなく、地平線の向こうで白く霞む空から流れてくるちぎれた綿雲も、豊かな日差しを受けて輝いている。春の空は高い。高く深くなるほどに色を濃くする空は、触れればひんやりと柔らかそうだ。
色の洪水の向こうには、煤けたような風車が一台鎮座している。四枚羽根にロープを絡め、帆を張らない所を見ると、彼はどうやらお休み中のようだ。風にあおられてそよぐオランダ国旗、柵と白い跳ね橋に囲まれて、どっしりと構えた姿は胸を張って立つ紳士のよう。広い花畑のどこからでも見える偉容は誇らしげだ。
人々を招く風車の足元で、色めく花々の舞踏会。
めまいがするような鮮烈な春を飲み込んで、私はしゃがみこんだ。チューリップが香る花なら、きっとそのまま倒れていただろう。
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